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秋の答えあわせ

プロ一年目のシーズンが終わっても、村瀬浩の戦いは続いていた。

フェニックスリーグ──若手主体の実戦形式で行われるこのリーグは、いわば“秋の試験”だった。


東京ドームで放った決勝弾の衝撃は、一軍首脳陣にも強く印象を残した。

新聞やネットでは「植原に土をつけた男」と騒がれ、一時は名前も話題に上った。

だがプロの世界で生きるということは、次に何をするかで全てが決まる。


村瀬自身、それをよく分かっていた。

だからこそ、この秋を「答えあわせの時間」だと捉えていた。

自分の“スイング”は、本当に通用するのか。

未来の知識をもとに構築したアプローチは、正しかったのか。

東京ドームの一発は、まぐれか、それとも実力の証明か。


結果は、明らかに変わってきていた。

甘い球は逃さず、ファウルで粘り、追い込まれても冷静に対応する。

打球の質が上がっていた。

数字としても、内容としても、他の若手より頭ひとつ抜けた存在となっていく。


だが、それはあくまで“打撃だけ”の話だった。


フェニックスリーグの後半、球団はそのまま秋季キャンプをスタート。

ここからは守備、走塁、フィジカル、そして“生活力”までを含めた、総合的な評価が始まる。


「浩、腰が浮いてるぞ」

二塁での捕球姿勢に指摘が飛ぶ。


「バント、球際ギリギリや」

一塁へのカバーが遅れると、投手陣からも小さな声が漏れる。


(クソッ……)


頭ではわかっている。身体も動かしている。

だが、一軍の守備職人たちが見せる「当然」が、自分にはまだ自然にはできていない。


試合に出る以前の、土俵を守りきる力。

村瀬は、地味な反復のなかで、静かに自分の“足りなさ”を知った。


そんなある夜。宿舎で洗濯を終えて廊下を歩いていると、誰かが声をかけてきた。


「浩、ちょっとええか?」


振り返ると、丘田監督が廊下の突き当たりに立っていた。

キャンプ中は別棟で過ごしていたはずの監督が、なぜここに──


「最終戦、東京ドームの一発、忘れてへんよ」

そう言って、ベンチの端に腰を下ろす。


「でもな……プロは“たまに凄い”じゃアカンのや。毎日凄くなくてもええ。でも、毎日戦えるやつじゃないと」


村瀬は静かにうなずいた。

その目に、萎縮も反発もなかった。ただ、前を見据える決意だけがあった。


「輪田の控えで終わる器ちゃうやろ。来年、食ってこい。競争は大歓迎や」


そう言って立ち上がった丘田は、背中越しにぽつりと付け加えた。


「“本物”は、一年じゃ育たん。でも……兆しは、もう見えてるよ」


村瀬は、自室に戻ると、ノートの余白にこう記した。


《基礎で負けてたら、本当の勝負は始まらない》


未来を知っているだけじゃ意味がない。

打てるだけじゃ、上には行けない。

積み上げなければ、プロでは生き残れない。


夜風がカーテンを揺らす音の中で、村瀬はそっと目を閉じた。


いま、自分は確かに“プロの入り口”に立っている。

ここからは、誰にも頼らず、自分の足で登っていくしかないのだ。


そして翌朝、まだ暗い球場へ、誰よりも早くグラブを持って現れた男がいた。


その名を、村瀬浩という。

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