それでも、前を向く
中学の野球部は、1回目の人生ではごく普通の部活。
大会に出ても1~2回戦で敗退するようなチームだった。
だが、チームメイトの中には、未来では別競技で全国制覇を成し遂げる才能が眠っている。
「お前ら、ほんまに全国いけるかもしれへんぞ」
入部初日、そう言ったとき、周囲は笑った。
けれど、俺の目は真剣だった。
「俺、本気でプロ目指してる。勝手に一人で練習しててもええけど……できれば、一緒にやらへんか?」
その一言が、仲間の心に火をつけた。
誰かが本気で夢を語ると、それは伝染する。
(ほんま、大学までついてるエスカレーターやから、部活に専念できるのはええよなぁ……)
やる気になった仲間達と、未来の知識を元に合理的なトレーニングを続けた。
試合では、確実なバッティングと広角への打ち分けで、すぐにレギュラーを奪った。
それはやがて、チーム全体を変えていった。
「勝てる」手応えを覚えた仲間たちは、次第に本気になっていく。
「ひろし、今日のトス練、もうちょい付き合ってくれへん?」
「おう、任せとけ!」
夕暮れの校庭に残る声が、だんだん増えていく。
1回目の人生では見たことのない光景さ。
けれど、それが確かに“今”の現実だった。
迎えた中学3年生の夏。
俺たちのチームは、ついに全国大会出場を果たした。
小さな新聞の一面に、俺たちのチーム名が載った。
「上方大第一中、初の全国出場」――そんな見出しが、まるで夢のようだった。
だが、それは同時に、大きな歪みを生み始めていた。
「窪田が……大阪塔蔭に行くらしい」
チームの誰かが、そう呟いた。
窪田康友――1回目の人生では、上方第一高校を甲子園へと導いた天才エース。
俺たちの“鍵”になる存在だった彼が、ライバル校に進学するという事実。
未来が、変わり始めている。
俺の選んだ道が、周囲の未来までも変えてしまっている。
でも、それでも――
「それなら、自分たちで勝てるチームを作るだけや」
俺は、2度目の人生を賭けて、覚悟を決めた。