表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/117

革命は、静かに始まる

誰よりも早くグラウンドに入り、誰よりも遅くまで残る。

一見“気まぐれにふらっと”現れたように見える新城剛志の一日には、実は秒単位で組まれたメニューがあった。


そのすべてを、俺はノートに記録していた。

起床時間から体幹トレ、加圧式のスプリントメニュー、変則インターバルのティー、そして球場裏のトンネルで黙々と行うシャドースイング──。


「お前、マネするだけで終わる気か?」


ある日の夕方、練習帰りのロッカールームで、新城が村瀬の肩をトンと叩いた。


「見られてるの知ってて、わざとズラしてるトレーニングもある。気づいてたか?」


「……はい」


「マネすんのは簡単や。でもな、オレの身体とお前の身体は違う。

今のお前がこのメニューそのままやったら、多分……壊れるぞ?」


村瀬は拳を握ったまま、こくりとうなずいた。

新城はロッカーのベンチに座り、野球スパイクを脱ぎながら言った。


「野球って、最終的には“自分に合った型”を自分で作るスポーツやねん。

“正解”は人の数だけある。その“正解の作り方”を、今のうちから練習せえ」


「考えろ、ってことですね」


「せや。人に言われて動くだけのやつは、壁にぶつかったとき、すぐ折れる。

お前、センスはある。

ただ、知識に甘えてる。

ここで色々と教えてもらったことで、

“自分は理解してる”って錯覚してるやろ」


図星だった。


村瀬浩が理解したつもりになっていたのは、

“誰かの正解”でしかなく、そこに至るプロセスは見えていなかった。

新城は、そんな村瀬の奥にある“甘え”を、すでに見抜いていた。


「ちゃんと“悩め”。そして“答えを作れ”。

オレが今やってるのは、10年前に“自分で試して考えて選んだ答え”や。

それを、毎年、毎年、変えてる。毎日、身体は変わるからな」


その言葉が、村瀬の胸に深く刺さった。


***


翌日から、村瀬はトレーニングノートに“気づきの欄”を設けた。

やった練習メニュー、結果、負荷だけではなく、「なぜこの練習なのか」「どこを鍛えているのか」──。


最初は矢木や輪田に「お、またメモしてるで」と茶化されたが、輪田はある日こう言った。


「浩。お前、ちゃんと見とるな。

ワシが二塁で食ってきた理由、わかるか?」


村瀬は首をかしげる。


「体力でも、肩でも、打撃でもない。“目”や。

打球の角度、スイングの起点、打者の癖……全部“見る目”でカバーしとる。

浩の“頭”にはそれがある。せやから丘田さんも、お前を二塁で使いたいんやろ」


それからの守備練習では、輪田がノックの合間に、細かな重心のかけ方や、打者ごとのスタートの切り方を丁寧に教えてくれた。


矢木もまた、バッティングケージで言った。


「代打の神様って言われとるけどな、オレが打席に入る前に何してるか知ってるか?」


「……配球を読む?」


「せや。けどな、それだけやと足らん。

もっとや。ピッチャーの肩の上がる高さ、セットのときの癖、インステップの角度……全部“数センチ単位”で見とる。

だから、1球で仕留められる」


村瀬は、その話を聞いてから、投手を見る“目の精度”が格段に上がった。

ただ未来を知っているだけじゃない、“今を感じる目”がようやく育ち始めていた。


***


新城、矢木、輪田──

一軍で生き残ってきた男たちは、どこか“共通の哲学”を持っていた。


──「正解を待たずに、自分で答えを出すこと」


そして、村瀬は少しずつ、その哲学の入り口に立ち始めていた。


丘田彰布が、キャンプ後のコーチ会議でこんな言葉を漏らしていた。


「村瀬浩。面白いわ。

“ただの有望なルーキー”やと思てたけど……ちょっと、違うかもしれん」


革命の種は、静かに芽を出し始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ