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運命の夜

秋風が、東京のビル街をすり抜ける。

その夜、年に一度の“選別”が静かに幕を開けていた──


プロ野球ドラフト会議。


各球団が未来を託す若者を指名する、運命の舞台。

だが、その年のドラフトは、例年とは“熱”が違っていた。


主役は、二人。


一人は、植原浩二うえはら・こうじ

畿内体育大学のエースにして、大学球界の支配者。

最速157km/hの直球に鋭い変化球、抜群の制球──完成された右腕には、複数のメジャー球団も動向を注視していた。


しかし植原は、逆指名で武蔵タイタンズを選択。

「タイタンズに即戦力の柱が加わる」と、会場にはファンの歓声が響いた。


そしてもう一人。

松永大輔まつなが・だいすけ

横浜学園の絶対的エース。

春のセンバツを制し、夏は惜しくも準優勝。だが全試合で圧倒的な投球を披露し、「高卒即エース」の評価を確固たるものにしていた。


1位指名で手を挙げたのは──越谷パンサーズ、相模スターズ、仙台ファルコンズ。

三球団競合の末、交渉権を得たのは越谷パンサーズ。


「この男を中心に、10年戦えるチームを作る」


球団GMの一言に、拍手と歓声が重なる。


しかし、華やかな指名の渦の中で──

一瞬、場の空気が変わった。


モニターに映し出された、関西ジャガーズの1位指名。


──関西ジャガーズのドラフト


アナウンサー:

「ジャガーズ、抽選を引き当てました! 1位は上方第一高校の内野手──村瀬浩!」


場内がどよめく。

直後、関西圏ではテレビ中継の音声すら聞こえないほどの歓声が巻き起こった。


村瀬浩。

甲子園を沸かせた地元の英雄。

優勝まで導き、全試合でホームランを放った高校球界屈指のスラッガー。

ただし──身長170cmと小柄な体格、木製バットでの実績不足。プロの評価は分かれていた。



解説A(元プロ):

「これは大きいですね。甲子園でのインパクトもそうですが、地元に愛される“顔”になる選手ですよ」


解説B(記者出身):

「ただ即戦力かと言われると……木製バットや守備のスピードには課題があるかと」


解説A:

「でも、芯の強さは一級品。派手な新城選手とはタイプは違いますが、“支える柱”として時間をかけて育てたい選手ですね」



ジャガーズファンにとっては、光だった。

派手なパフォーマンスでファンを惹きつける新城の背後で、次の時代を担う地元出身のスター候補が加わった──

それだけで、未来は少し明るく見えた。


「村瀬は“いきなり主役”にはならん。でも、5年後には球場の真ん中に立っとる男や」

「スターってのは、最初から光ってる必要はない。光らせるんや。わしらがな」


その言葉を裏付けるように、中継席のモニターが次の名前を映し出す。


── 2位指名:富士川球児


アナウンサー:

「続いて、ジャガーズの2位指名です──高知芸術高校の投手、富士川球児!」


一瞬、スタジオが沈黙する。

名前は知られていなかった。報道資料も少なく、映像も断片的。


解説B:

「……これは驚きましたね。高知芸術、富士川。かなり資料が薄い選手じゃないですか?」


解説A:

「僕は映像見てます。150km/hは出ます。でもフォームが不安定で、球速表示ほど“速く見えない”。まだまだ素材型ですよ」


さらに驚きが続く。


── 3位指名:小久保友之


アナウンサー:

「ジャガーズ、3位指名は──舐川商業高校、投手の小久保友之!」


場内のざわめきがもう一段階深くなる。


解説B:

「これは完全に、乃村監督の色ですね。“現場主導のドラフト”です。即戦力ゼロ、全員高卒──これだけ思い切れる監督はなかなかいない」


解説A:

「でも、素材としては面白い。小久保は普段キャッチャーなのに、7回からマウンド上がって150キロ投げる変則型。育成できればリリーフの柱になる可能性も」


三人とも、未完成。

だが──明らかに、何かを狙っている。

「これは未来の骨格を描いた指名だ」と、ある解説者がぽつりとつぶやいた。




会議終了後、報道陣に囲まれた乃村克也監督は、慣れた口調で語り始めた。


──まず、1位指名・村瀬浩についてお聞かせください。


「背丈で選ばんかった。それだけや。ワシは、甲子園で一番“頭を使って打っとった”やつを選んだ。球筋、風、配球、ベンチの癖──全部読んで打っとった。あれはただのスイングやない。“野球の理解”の塊や」


──2位・富士川球児は、正直“掘り出し物”との声もあります。


「球が速い。伸びもある。けどまだ体ができてへん。プロの体になったとき、あのストレートが“魔球”になるかもしれん。そんくらいの素材や」


──3位の小久保友之も、かなり変則的な選手ですが……


「おもろいやろ? キャッチャーやのに150キロ投げよるトルネードや。フォームは未完成。でも、キレはある。富士川も小久保も、“まだ完成しとらん”からええんや。伸びしろに賭けとる」


──即戦力を避けたドラフトは、勝負を避けたとも言われています。


「せやから言うたやろ。“勝ちたい”だけなら、今の主力に補強足したらええ。

でも“変えたい”なら、未来を信じて育てなアカン。これは賭けでも冒険でもない。“準備”や。5年後、答えは出る」


──ファンに一言お願いします。


「長いトンネルを抜けたとき、“あの日のドラフトが始まりやった”って言わせたる。信じて待ってくれ」


その言葉には、かつていくつものチームを甦らせた男の“確信”があった。




関西ジャガーズの革命は、静かに──しかし確実に始まっていた。

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