戦況、五分
【1回表】
先攻・横浜学園の先頭は、選抜でも初回に四球を選んだ粘り強い1番・宮路。
うちの先発はエース・清瀬。
だけど宮路はしぶとく粘り、10球目――フルカウントからレフト前へ運ばれた。
その後、送りバント。
さらに3番・高瀬のタイムリーで、あっという間に先制される。
三塁側のアルプスからは、横浜学園の応援が鳴り響く。
一方、俺たち上方第一の内野陣は、無言でマウンドに集まった。
キャッチャーのナオキがボールを返す手が、ほんの少し硬く見えた。
俺はセカンドから清瀬の背中を軽く叩いて言った。
「清瀬、気にすんな。ここで止めとけば全然問題ないわ」
軽く笑って、帽子のつばを指で押し上げる。
「1点先に取られるなんて、うちのいつもの始まり方やろ?
――俺が打って取り返したる」
その言葉に、サードのユウマとショートのソウタが顔を見合わせ、小さく頷く。
決勝の舞台でも、不思議と心は静かだった。
俺の気持ちが、そのままチームの空気を変えていくのがわかった。
【1回裏】
マウンドには、横浜学園の絶対的エース・松永大輔。
春よりさらに筋肉量が増えたあいつは、フォームに一切の無駄がなかった。
投げ下ろされた初球――ミットが破裂するような音が球場に響く。
「うわ……」
1番・カイトが見逃し三振。
2番・水科も、あっさり2球で追い込まれ、最後はフォークで空振り三振。
そして、俺の打席がやってきた。
松永の初球はストレート。154km。
「ど真ん中に……来た」
そう思った瞬間、ボールはほんのわずかに浮き上がり、俺のバットは空を切った。
空振り三振。
初回、三者三振。
松永の剛球が、完全に俺たちをねじ伏せた。
【2回~5回】
でも、うちのエース・清瀬も負けてなかった。
緩急を巧みに使って、横浜の打線を封じていく。
俺も守備で何度も助けた。
5回には、センター前に抜けそうな当たりを俊敏にキャッチし、ジャンピングスローで一塁アウト。
「ナイス! ヒロシ!」
声が飛んできた。
その瞬間、守備陣がまた息を吹き返すのを感じた。
だけど――松永は異次元だった。
リュウスケも、ソウタも、変化球に空を切らされる。
ベンチでナオキが呟いた。
「……これが、“世代最強”かよ」
【6回裏】
そしてついに、松永のフォークが浮いた。
先頭のカイトが四球を選び、すかさず盗塁。
2番・水科がきっちり送り、1死三塁。
打席には、俺。
「ここで、打つ!」
心は静かだった。
甲子園がざわめく中でも、バットを握る手に迷いはない。
松永の155kmストレート――
フルスイングで叩いた打球は、鋭く三遊間へ。
ショートが逆シングルで追いついたが、三塁ランナーの足が一枚上だった。
1点、同点。
ついに、俺が松永から初めてのタイムリーを放った。
スコアは1-1。
甲子園全体が、どよめきに包まれた。




