表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/117

戦況、五分

【1回表】

先攻・横浜学園の先頭は、選抜でも初回に四球を選んだ粘り強い1番・宮路。


うちの先発はエース・清瀬。

だけど宮路はしぶとく粘り、10球目――フルカウントからレフト前へ運ばれた。


その後、送りバント。

さらに3番・高瀬のタイムリーで、あっという間に先制される。


三塁側のアルプスからは、横浜学園の応援が鳴り響く。

一方、俺たち上方第一の内野陣は、無言でマウンドに集まった。


キャッチャーのナオキがボールを返す手が、ほんの少し硬く見えた。


俺はセカンドから清瀬の背中を軽く叩いて言った。


「清瀬、気にすんな。ここで止めとけば全然問題ないわ」


軽く笑って、帽子のつばを指で押し上げる。


「1点先に取られるなんて、うちのいつもの始まり方やろ?

――俺が打って取り返したる」


その言葉に、サードのユウマとショートのソウタが顔を見合わせ、小さく頷く。


決勝の舞台でも、不思議と心は静かだった。

俺の気持ちが、そのままチームの空気を変えていくのがわかった。


【1回裏】

マウンドには、横浜学園の絶対的エース・松永大輔。


春よりさらに筋肉量が増えたあいつは、フォームに一切の無駄がなかった。

投げ下ろされた初球――ミットが破裂するような音が球場に響く。


「うわ……」


1番・カイトが見逃し三振。

2番・水科も、あっさり2球で追い込まれ、最後はフォークで空振り三振。


そして、俺の打席がやってきた。


松永の初球はストレート。154km。

「ど真ん中に……来た」

そう思った瞬間、ボールはほんのわずかに浮き上がり、俺のバットは空を切った。


空振り三振。


初回、三者三振。

松永の剛球が、完全に俺たちをねじ伏せた。


【2回~5回】

でも、うちのエース・清瀬も負けてなかった。

緩急を巧みに使って、横浜の打線を封じていく。


俺も守備で何度も助けた。

5回には、センター前に抜けそうな当たりを俊敏にキャッチし、ジャンピングスローで一塁アウト。


「ナイス! ヒロシ!」


声が飛んできた。

その瞬間、守備陣がまた息を吹き返すのを感じた。


だけど――松永は異次元だった。


リュウスケも、ソウタも、変化球に空を切らされる。

ベンチでナオキが呟いた。


「……これが、“世代最強”かよ」


【6回裏】

そしてついに、松永のフォークが浮いた。


先頭のカイトが四球を選び、すかさず盗塁。

2番・水科がきっちり送り、1死三塁。


打席には、俺。


「ここで、打つ!」


心は静かだった。

甲子園がざわめく中でも、バットを握る手に迷いはない。


松永の155kmストレート――

フルスイングで叩いた打球は、鋭く三遊間へ。


ショートが逆シングルで追いついたが、三塁ランナーの足が一枚上だった。

1点、同点。


ついに、俺が松永から初めてのタイムリーを放った。


スコアは1-1。


甲子園全体が、どよめきに包まれた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ