表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/117

――覚醒の刻

センバツが終わった夜。

テレビでは、優勝を決めた横浜学園のエース・松永大輔が、インタビューに応じていた。


「全員で掴んだ優勝です。でも……ここは、まだ通過点です」


落ち着いた声音で語るその横顔に、誰もが感じただろう。


――この男は、近いうちにプロの世界を支配する。


俺は、画面をじっと見つめたまま、自分の胸に手を当てた。


(勝負したい。あいつと、正面から)


その思いに突き動かされるように、夜のグラウンドへと足を運んだ。

誰もいない球場。静寂の中、俺はバットを握った。


グリップが、汗を吸って指に馴染む。


振り抜いた瞬間、空を裂くような風音が鳴り響いた。

その軌道には一切のブレがない。身体のすべてが、理想通りに連動している。


(……今の俺なら、打てる気がする)


静かに、口角が上がった。


かつての俺は、身長166センチ。

体格のハンデを感じながらも、必死で喰らいついていた。


でも今は違う。


未来の記憶を持って戻ってきたこの“2回目の人生”で、栄養管理も、睡眠も、筋トレも、すべてを根本から見直した。


結果、身長は170センチに届き、体重は80キロ――

無駄な脂肪のない、鍛え上げた筋肉の鎧を身にまとった。


「小柄だから飛ばない」なんて理屈は、もう通用しない。


俺のバットには、今――“破壊力”が宿っている。


センバツでは3番打者として、チャンスで結果を残し、出塁と走塁、守備でも存在感を発揮した。


単に打つだけじゃない。

流れを変え、リズムを作り、勝負の流れを引き寄せる。


そんな“チームの中心”としての役割を、自分なりに全うできたと思っている。


だが、まだ足りない。

松永のような“規格外”の存在と渡り合うには――。


だから俺は、この春、ひとつの決意をした。


「もう、ヒットじゃ足りん。点を取れる打者になる」


目指すは、“ホームランを狙える3番打者”。

破壊力と突破力を兼ね備えた、新時代の中軸。


そのために、徹底的に下半身と体幹を鍛え直し、

股関節の開きと捻転差を研究し尽くし、打球速度とバレルゾーンの再現性を高めた。


バットスピードは140km/hを超え、打球の初速はメジャー平均に迫る。


手本にしたのは、未来でメジャーMVPを獲るホセ・ヘルナンデス。


――身長170に満たない彼が、世界の頂点に立ったように。


「このサイズで打ちまくったら、世界、ひっくり返せるやろ」


俺の視線の先は、もう“高校野球”の枠を超えていた。


6月。茨木白陵との練習試合。


相手エースは、プロ注目の149キロ右腕。

スタンドにはスカウトの姿も見える。


初回。俺は先頭打者としてバッターボックスに立った。


周囲がざわつく。


「あいつ……身体、デカくなってねぇか?」


「いや、オーラも別モンやろ。何があったんや……」


かつては細身のスピード型。

だが今は、明らかに別人。

鋼のような肉体に、堂々たる構え。


そして――初球。


インロー、149キロのストレート。


渾身の一振り。


打球は逆方向、ライトポール際へ――


「……入った!?」

「いや、マジで入ったって!」


逆方向のホームラン。

高校生離れした弾道と飛距離に、スカウトたちがどよめいた。


「身長170で、あれだけ打球飛ばすって……」


「これは……ドラフト候補筆頭やな」


この一打を皮切りに、試合の評価は一変した。


広角に打ち分けるバットコントロール。

盗塁で魅せる俊足。

守備ではダイビングキャッチ。


走攻守、すべてがトップレベルであることを証明してみせた。


試合後、ベンチで水科がポツリと言った。


「お前、プロの世界、もう見えてるやろ」


「……まあな」


俺は少し笑って、こう返した。


「でも、その前にや。夏のてっぺん、獲りに行くぞ」


このチームで、もう一度甲子園へ――

そして、あの松永に勝つために。


6月末。大阪大会組み合わせ抽選日。


ウェイトルームで汗を流し終えた俺は、バットを片手に再びグラウンドへと戻った。


仲間たちが振り返る。


「……なんやあいつ、マジで“別人”やんけ」


水科がニヤリと笑った。


「うちの“主人公”、もう誰にも止められへんぞ」


未来は、もう見えている。


ドラフト? プロ? メジャー?


――全部、掴みに行く。


俺の名を、世界中のスタジアムに刻む。


そしてまずは、この夏――

甲子園の主役になるのは、俺だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ