春の終わり、そして夏へ
センバツ決勝。
横浜学園が、大阪塔䕃との死闘を制して優勝を飾った日。
上方第一の宿舎には、沈黙があった。
テレビでは優勝セレモニーが流れていた。
甲子園のセンターに立ち、金色の優勝旗を掲げる松永。
その目は冷静で、勝者の風格に満ちていた。
その姿を、誰も言葉を発さずに見ていた。
しばらくして、清瀬が口を開いた。
「……あれが、今の“てっぺん”か」
ナオキが頷く。
「ヤバかったな、松永……あのストレート。なんやろ、もう別の生き物やって」
ソウタが笑う。
「でもさ、俺ら、あそこに立つって決めたよな。なら、もうやるしかないやろ」
水科が立ち上がった。
「春で一回負けた。でも、まだ終わってへん。本番は“夏”や」
全員の目に、火が灯った。
◆数日後、グラウンド
春のセンバツを終え、チームは一度リセットされた。
新入生が入り、空気が変わる時期。
だが、上方第一の2・3年は全員、目つきが違っていた。
ナオキは打撃フォームを一から見直していた。毎日、自主練で1,000スイングを黙々と続ける。
「初球の入り方で、あの綿田から点取れなかった。ああいう投手を打ち崩すには、“芯”から強くならんとアカンねん」
ユウマは守備範囲を広げるため、猛ダッシュを繰り返す。
目指すは「どんな打球でもアウトにできる三塁手」。
清瀬は球速強化のため、フィジカルトレーニングに打ち込んでいた。
あの松永の160kmを目の当たりにし、自分の限界を超えたいと強く思った。
「まだいける。俺も“エース”って言われるだけの投手にならんと」
ソウタは打撃と肩の強化。
走塁・打撃・守備、どれか一つでも欠けたら、あの舞台では通用しないと痛感していた。
水科は――誰よりも、チームのバランスを見ていた。
「なにかひとつ欠けたら、夏は勝てへん。俺は“繋ぐ”役や。どんなときも、繋ぐプレーをせなアカン」
◆松永の言葉
「春は通過点です。夏、またあの場所に立つために、俺たちはもっと仕上げていくつもりです」
画面越しに語った松永の言葉が、静かに上方第一の部室で流れた。
水科が笑った。
「……ほな、こっちも“仕上げ”たるか」
リキヤが拳を打ち合わせる。
「夏は負けへん。絶対、あの松永を倒して、てっぺん獲るぞ」
全員がうなずいた。
◆夏への始動
春の悔しさと、春の“頂点”を目に焼き付けて――
上方第一高校野球部は、新たなギアに入った。
どこか優しかった春の空気は、もうない。
汗と土と怒号の中、彼らは、“夏の主役”になる準備を始めた。
目指すは、再びの甲子園。
そして、もう一度――あの頂点へ。




