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はじまりの春

甲子園 選抜大会

第1回戦 vs 山梨代表・韮崎南高校にらさきみなみ


春の柔らかい日差し――

けれど、聖地・甲子園の空気はどこか澄みきっていて、重たかった。


「夢だった場所、だな」


カイトが小さくつぶやく。

その言葉に、俺たちは静かにうなずいた。

――でも、呆けてる暇なんて、もうない。


初戦の相手は、山梨代表・韮崎南高校。

2年生エースを中心に粘り強く勝ち上がってきた、堅実なチームだ。



試合は、やはり硬さが出た。


初回、守備でまさかのエラー。

清瀬の球も浮き気味で、いきなり1点を先制される。


「落ち着いていこう、こういう時こそだ」


水科の声が、重かった空気を少しだけ緩めた。



3回表。


先頭のナオキが四球で出塁。

ユウマがきっちり送って、清瀬の内野安打で1アウト一・三塁。


そして――カイト。


1ボール2ストライクからの高めスライダーを、センターへ弾き返す。


「落ちろ……!」


風に乗った打球が、センターのグラブをかすめて抜けた。


走者2人が生還。逆転。


さらに、水科と俺の連打でこの回一挙4点。


「ようやく、俺たちのリズムが来たな」


リキヤの笑顔が、ベンチの空気を明るくした。



守備ではソウタのスライディングキャッチ、

ユウマの三遊間の深い打球処理が光り、流れを渡さない。


そして、清瀬。


立ち上がりこそ不安定だったが、回を追うごとにギアが上がっていく。

ラストバッターを空振り三振で締め――完投。


5-2、勝利。


甲子園初勝利。

その瞬間、誰もが笑っていた。けれど、浮かれてはいなかった。



第2回戦 vs 三重代表・三重暁星みえぎょうせい


相手は、全国でも知られる強豪・三重暁星。

甲子園常連の「慣れた」チームだ。


試合前のミーティング。

水科がふと、つぶやいた。


「今日は……お前が鍵やぞ」


その視線の先にいたのは、リュウスケ。


これまでの試合で、彼だけが少し波に乗り切れていなかった。



試合は、想像以上にタフだった。


両チームとも序盤からチャンスを作るが、あと一本が出ない。


清瀬と相手エース、互いに一歩も引かない投げ合い。


そして、6回表。

1アウト2塁、バッターボックスにはリュウスケ。


相手はインコースを攻めてくる。

――でも、彼の表情に迷いはなかった。


3球目。

真ん中寄りに甘く入ったツーシーム。


渾身のフルスイング。


打球は、ライトスタンドに吸い込まれていった。


「……いったか?」


「いや、行った……!」


2ランホームラン。


ベンチが爆発した。

スタンドの声援が、甲子園を震わせた。


「リュウスケ……泣いてたな」


ナオキの言葉に、誰もがそっと目を伏せた。



後半は、大迫と若月の継投が冴え渡る。

ユウマの三塁線の強烈な打球を止めた守備が、相手の流れを完全に断ち切った。


9回裏。

最後のバッターをライトフライに仕留めて、ゲームセット。


3-1、勝利。


ベスト8進出。


“名門”と呼ばれるチームたちが、次々と勝ち上がってくるなか、

俺たちも、その舞台にたどり着いた。


――ここからが、本当の勝負だ。

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