表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/117

選ばれた冬

1月末。

グラウンドには霜が降り、肌を刺すような寒さが残る朝。


クラブハウスのテレビの前に、全員が集まっていた。


大阪からは、3校。


「……大阪代表、3校目は……」


アナウンサーの声に、自然と息を呑む。



『――上方第一高校。』



「……!」


一瞬の静寂。


次の瞬間、爆発したような歓声がクラブハウスを包んだ。


「っしゃあああああ!!」


「よっしゃ来たああああ!!」



リキヤが拳を突き上げ、リュウスケが泣き笑いで声をあげる。

カイトは無言で水科と拳をぶつけ合った。


俺は、気づけばユニフォームの袖を強く握っていた。


――届いた。

この手に、つかんだ。


春の甲子園。夢の舞台。



けれど、監督の言葉が静かに空気を引き締めた。


「忘れるな。これは『招待』だ。

 ここからの冬で、甲子園にふさわしいチームにならなきゃ意味がない」


誰も反論しなかった。


むしろ――全員の目が、さらに鋭くなっていった。



甲子園が決まっても、喜びに浸る時間は短かった。翌週から始まった冬練は、例年以上の密度で組まれていた。



俺自身の課題は「逆方向への対応」と「守備の安定感」。


「お前がセカンドで守りを締めないと、甲子園じゃ勝てない」


監督にそう言われた。


打撃では、木のバットを使って外角への対応を磨き、

守備ではボール100本ノック、連続ハンドリング、送球の強化。


夜遅くまで、倉庫裏で素振りをする姿が日常になっていた。


フォームの微調整。体幹強化。走り込み。

一切の妥協なく、黙々と汗を流す俺たちの姿に、後輩たちも必死に追い続けてきた。



2月中旬。


刺すような寒さの中、高槻での合宿。


早朝6時の坂道ダッシュ。

昼はフリーバッティング200本。

夜は室内でのメンタルミーティング。


「この冬を“苦しかった”で終わらせるな。

 “やりきった”にしろ」


監督のその一言が、全員を奮い立たせていた。


ユウマの守備は鋭くなり、

ソウタの送球は速く、

ナオキの打球は力強くなった。


リキヤはバットを短く持ってコンタクト率を上げ、リュウスケはアウトコースを流す技術を磨いていた。


水科が、全員を集めて言った。


「絶対、甲子園で勝とう。

 招待されたチームじゃなく、“出るべきだったチーム”になろう」


全員がうなずいた。



3月。


グラウンドの雪が溶け、土が見えはじめる。


新しいチームジャージが届き、

バスの側面には「選抜出場校」のロゴ。


「出発はもうすぐやな」


カイトが空を見上げる。


「春が来る。俺らの春が」


俺たちは、あの悔しさを乗り越えた。

だから今、胸を張って言える。


「甲子園、絶対勝ちに行こう」


その言葉に、迷いはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ