近畿大会・2回戦
vs 天志館高校(奈良一位)
センバツが、すぐそこに見えていた。
ベスト4に進めば、選考はほぼ確実。
一冬を“選ばれた側”として越えることができる。
「今日、勝てば甲子園。負けたら、ただの“よくやった”チームで終わる」
ミーティング後、監督が静かに言ったその一言が、頭から離れなかった。
試合前のアップ、誰もが口数が少なかった。
清瀬でさえ、何度もボールを握り直していた。
対戦相手は、奈良の天志館高校。
去年までは中堅校だったが、今年は県大会無失点優勝。まるで“覚醒”したような強さを見せていた。
打線はとにかくフルスイング。
守備も攻撃も、すべてが「押してくる」スタイル。
水科がポツリと呟いた。
「気圧されるなよ。向こうは“力”で試合を動かしにくる」
試合開始――
初回、いきなり1番バッターの打球が、センターの頭上を越えた。
清瀬のアウトコースいっぱいのストレートを、強引に引っ張って右中間。
「パワーが……桁違いだな」
カイトが戻りざま、そう漏らした。
3番、4番とフライアウトに打ち取るも、5番の打球はフェンス直撃のツーベース。
いきなり、2失点。
「これが、天志館か……!」
ベンチがざわつく。
でも、動揺はなかった。
2回表。反撃開始。
先頭・リュウスケがカウント3-1から、内角高めを引っ張る。
打球はライナーでライト線へ――ツーベース!
ナオキが繋ぎ、ユウマが送る。
そして、清瀬。
「打てなくてもいい。1点、返せ」
そう思っていた打席で――
清瀬は、初球を打った。
思い切り振り抜いた打球は、セカンドの横を抜けていく。
「うおおおおっしゃあ!!」
1点返した。空気が変わる。
その後、カイトがまたも出塁し、水科がきっちりと送る。
2アウト2・3塁、打席は――俺。
「絶対、ここで仕留める」
カウント1-2。
相手投手の速球を、ギリギリのスイングで弾き返すと――
打球は、センター前へ落ちた。
「抜けたぁぁぁ!」
2者生還、逆転!
3対2。
試合はそこから、完全に“殴り合い”になった。
天志館は6回表、強引なヒッティングで再逆転。
清瀬が捕まり、若月が登板。
だが、その裏――
立花リキヤがやってくれた。
1点ビハインドの場面で、アウトローのスライダーを強引に拾い上げた。
打球は、レフトスタンド一直線。
「うぉぉぉぉぉっ!!」
逆転2ラン。
スコアは6対5。ベンチ総立ち。
7回、8回――両チームとも譲らない。
ランナーは出る。でも、要所で守る。
ソウタのバックハンド。
ナオキのフェンス直前キャッチ。
水科のキャッチャーフライ処理。
若月の粘り強い投球。
すべてがギリギリの攻防だった。
そして――9回表。
1点差、ランナー1・2塁。
打席には、天志館の4番・三宅。
「ここを抑えたら、センバツに行ける」
そう思っていたのに、頭の中は真っ白だった。
マウンドに向かった時、俺はただ、若月の背中を見ていた。
小さな声で、水科が言う。
「フォーク。2球、待たせて。次、真ん中に落とせ」
うなずいた。
その通りだった。
カウント1-2。
三宅が狙ってきた。
若月のフォークが――ストンと落ちた。
空振り三振。
「ゲームセット!!」
その瞬間、全員が走った。
泣いたやつもいた。叫んだやつもいた。
俺は、ユニフォームの裾を握りしめた。
「勝った……勝ったんだ、俺たち」
監督は、いつもと同じように静かに言った。
「……センバツ、見えたな。けど、お前ら」
間を置いてから続けた。
「“記念出場”じゃ終わらんって顔してるな」
誰一人、否定しなかった。




