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近畿大会・1回戦

vs 箕島中央(和歌山代表)


試合前――

相手ベンチから聞こえてくる声は、やたらに落ち着いていた。


「おい、左中間空いたで」

「はいよ。じゃあ打ったら一個止まりやな」


まるで練習の延長のようなやり取り。

なのに、ウォームアップは一糸乱れず、ベンチ入りしてない控えの選手まで、ノックの補助に入っていた。


「やりにくいな……」

水科がキャッチャーマスクの中で、ポツリと呟いた。


箕島中央――


強豪というより、嫌なチームだった。


打線は1番から9番まで、何でもない当たりをヒットに変える走塁技術と、「次」を見越した打撃をしてくる。

初回、バント処理で一塁がもたついた一瞬を見逃さず、一気に三塁まで走られた。


そして――


あっさり犠牲フライで先制された。


「……1点ずつ、削ってくるタイプか」


監督の表情が険しくなった。


清瀬の球威も悪くなかった。

でも、相手は“芯”で打とうとはしてこない。


「手首だけで、レフト前に落とすか……」


リュウスケがつぶやく。


まるで、全部計算されてるみたいだった。


2点ビハインドの3回表。


岸谷カイトが、初球のカーブを流し打ちして出塁する。

続く水科の打席、初球に盗塁。


完全に読まれていた。

モーションの小さなクイックに、完璧な送球で刺された。


ベンチが重くなる。


「何やっても、裏目か……?」


でもその時だった。


ソウタが守備から戻ってきて、ぽつりと言った。


「なんかさ、うちらが“操作されてる側”みたいやな」


俺も、そう思ってた。


そして思った。


「これ、ミス待ちじゃ勝てない」


5回裏、1アウト満塁のピンチ。


清瀬は、限界寸前だった。

ファウルで粘られ、カウントを悪くされ、ついに押し出しの四球。


3点目。


ここで、監督が動いた。


「清瀬、よく粘った。若月、頼む」


そしてマウンドに立った若月は――

いきなりギアを入れた。


スライダーで空振り、フォークで空振り。

そして高めに浮かせた球に、相手の6番が手を出した。


「……っしゃああ!!」


ピッチャーゴロ。ダブルプレー完成。


「空気、変わったぞ!!」


その瞬間、全員の声がひとつになった。


6回表。


1アウトから、ユウマが右中間を破るツーベース。


「ここで、返す!!」


代打・大迫。


1球目、インコースの速球を振り抜いた。


「いけぇっ!!」


打球はセンターの頭を越え、フェンス直撃。


ユウマが還り、1点を返す。


なおもチャンス。


カイトが四球を選び、水科がバントで送る。


そして――


村瀬浩、打席へ。


「詰まってもいい。前に飛ばすだけや」


気持ちを絞り、一球一球、追い込まれながらも食らいついた。


6球目、インコース低め――


**“投げミス”**じゃなかった。

**“狙って投げさせた”**球だった。


詰まりながらも、ライト前へポトリ。


2点タイムリー。


逆転。


その裏も、若月が気迫のピッチングで封じ込める。


そして7回表――


リキヤがバックスクリーンに、どでかい“保険”を叩き込んだ。


「チマチマ勝とうとしたら、飲み込まれるだけだ!」


そう言わんばかりのフルスイングだった。


最終回、大迫が登板。


箕島中央も、粘りに粘った。2アウトから、しぶとくヒットを繋ぎ、最後まで諦めない野球を見せた。


でも、俺たちはもう――


崩れなかった。


最後の打球は、水科が完璧なタイミングで刺した二盗阻止。


「ゲームセット!!」


ベンチが飛び出し、グラブを空に投げた。


“地味なチーム”じゃなかった。


“強さの質”が違う相手だった。


でも、勝てた。


自分たちの野球を、途中で諦めなかったから。


監督が、試合後にこう言った。


「……お前ら、やっと“勝ち方”を覚えてきたな」


清瀬が、苦笑いしながら帽子を取った。


「でも、今日の勝ち方じゃ、次はやられますよ」


その言葉に、全員がうなずいた。

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