壁の向こうへ
そして――
迎えた、秋の大阪大会。
今年も、BL学園と大阪塔䕃という2強が、対角のブロックに配置された。
つまり、決勝まではどちらとも当たらない。
これまで苦しめられてきた“ベスト4の壁”を越えるためには、絶好のチャンスだった。
決勝に進めば、近畿大会が見えてくる。
そして、そこから勝ち上がれば――春のセンバツがある。
「この秋で、必ず結果を出す」
選手たちは皆、その一点を見据えていた。
一回戦、二回戦は危なげなく勝ち上がった。
最初は少し硬さもあったが、カイトが出塁して、俺が返し、リキヤやリュウスケが続けてくれることで、打線に自然と流れが生まれていった。
ソウタとナオキも、要所でしっかり振り抜く。
清瀬のピッチングが試合の軸になっていた。
「1点ビハインドまでは、俺が責任取る」
そんな覚悟を背中に背負って、黙々とマウンドに立ち続ける。
スコアボードに並ぶゼロが、何よりの信頼だった。
三回戦からは、簡単にはいかなかった。
相手はベスト8常連・進修館高校。
一進一退の展開が続いたが、6回表――
8番・ユウマが低めのボールをすくい上げ、打球はレフトポール際へ。
ギリギリ、スタンドイン。
まさかのホームランに、ベンチが爆発した。
「っしゃあああああ!!」
誰もが跳ねるように飛び出した。
1点リードで迎えた終盤は、若月、大迫の継投が光った。
2対1。薄氷の勝利だったが、全員が集中していた。
試合後、監督がぽつりと呟いた。
「ベンチの空気が、去年とは全然違うな」
そして、準決勝。勝てば、近畿大会進出が決まる。
相手は強打の豊之丘学園。
初回に2点を先制される苦しい立ち上がりだったが、焦りはなかった。
「落ち着いていこう。1点ずつ返すぞ」
そんな声が、自然とベンチに飛んでいた。
3回、ナオキが先頭でツーベース。
ユウマが送って、清瀬のピッチャー返しで1点を返す。
ここから打線がつながった。
カイトが出て、水科が繋ぎ、俺が打って逆転。
そして、リキヤの打球が――
ど真ん中から一直線に、バックスクリーンへ突き刺さった。
スタンドが、割れんばかりに沸いた。
「あれで完全に流れがこっちに来たな」
試合後、大迫がそうぽつりと呟いた。
8対3。
スコア以上に、“試合を掌握した”という手応えがあった。
越えられなかった壁――ベスト4の壁。
それをようやく、自分たちの手で壊した。
試合終了の瞬間。
清瀬は、人目もはばからず泣いていた。
リュウスケはベンチの奥で、黙って空を仰いでいた。
水科は、胸に手を当てて、何度も深呼吸していた。
「勝った……勝ったな……」
そんな言葉が、何度も、誰かの口からこぼれた。
けれど、まだ終わりじゃない。
決勝――BL学園との一戦が待っている。
全国屈指のエース・神重聡。
プロ注目の強打者、平井洋介と中西宏明。
守備も走塁も隙がない、完璧に仕上がったチーム。
そこを越えなければ、甲子園は見えてこない。
でも――
もう俺たちは、臆してなんかいない。
ようやくこの場所に立てたから。
ようやく、“勝負できる自分たち”になれたから。
「ここからが、本当の勝負だ」
そう言って、全員でグラウンドに向かった。




