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第1話 いい人止まり、北欧系ギャルホームレスに出会う


「先輩って、いい人止まりっすよね」



 後輩女子の言葉に、オレは思わず凍りついた。

 

 文化祭実行委員の仕事中。

 二人きりの部屋で、



「コイツ、ちょっとオレに気があるんじゃないか……」



 と思っていた子に『いい人止まり』と言われることほど、心を抉るものはない。



「そ、そうか……?」


「そうっすよ。なんでも仕事引き受けずに、もっと悪くいたほうがいいっすよ。そのほうがモテますよ」


「悪くって……でもモテたいがために人を傷つけるのはな……」


「でた、いい人。今ビタビタに止まってるっす」



 ビタビタに止まってる……

 

 突然の暴言に傷つくオレを尻目に、後輩はスマホを手にして「おっ」とオレに向けるより数段高い声を出す。


 

「すんませんっ! 彼氏が部活早く終わるって言ってるんで、あと頼んでいいっすか?」


「あ、あぁ……いいけど……」


「あざっす! やっぱ佐伯先輩はいい人っすね! 好きっす!」



 彼女は、書類をほっぽると、鞄を手に部屋を出ていった。

 後輩が彼氏持ちだったという現実に萎えるオレを残して……



   ◇



 トボトボと歩いていた。

 足は、無意識のうちに、お気に入りの公園へ体を運ぶ。


 憩いの丘市民公園。

 そこは、滅多に市民が来ない公共施設だ。


 オレは公園唯一の自販機へと向かうと、缶コーヒーをひとつ買う。

 後輩から受けた『いい人止まり』の弾丸は、オレの胸に残ったままだった。



 ――もっと悪くいたほうがいいっすよ。

 


 後輩の言葉が脳裏で響く。


 オレは高校入学したとき、手に入れようと誓ったものが二つあった。


 ひとつは、仲間たちとの青春。

 もうひとつは、かわいい彼女との恋愛。

 

 青春のほうは、今年、文化祭実行委員になったことで満たされ始めていた。

 問題はもう片方だ。


 このままだと、憧れの高校生活が送れないのは、火を見るより明白だ。



 ……少しは、いい人をやめないとダメなんだろうか。



「はぁーあ……」



 オレは、高い秋空に願った。


 どっかに、オレのことをいい人止まり以上に思ってくれる子はいてくれないかなぁ……

 おまけにかわいくて、俺を全肯定してくれて、ちょっとえっちで、向こうからオレに迫ってくるような子は……


 

 ……ま、んなもんいるわけねぇよ。


 

 オレは自分を鼻で笑いながら、自販機に背を向ける。



 ――そして、思わず目を疑った。



   ◇



 オレの視線の先には、女のケツがあった。


 金属の網を筒状にしただけの古いゴミ箱から、うら若き少女の下半身が飛び出している。

 ゴミ箱に頭から突っ込んでいるのだ。

 

 二度見して、目を擦って、五回まばたきをしてから四度見する。頬を思い切り殴ってみる。

 が、その人物は幻のように消えたりはしなかった。



 これ……夢じゃない……本物の人間だ……



 呆然と立ち尽くすオレの前で、少女は銀の髪を振り上げるように、ゴミ箱から上半身を上げた。

 

 驚くことに、どうやら彼女は外人のようだった。

 

 ゴミ箱から漁ったものを地面に投げると、もう一度ゴミ箱のなかへ潜っていく。


 彼女の足元には、同じような廃棄品が転がっていた。

 空き缶、新聞、お弁当、などなど……

 

 オレの中から、『間違って捨てたものを拾っている天然少女』と『転んだ拍子に頭からゴミ箱に突っ込んだ天然少女』の2つの線が消えた。



 で、あれば……



 もうオレの脳には、『それ』の可能性しか浮かばなかった。

 いや、本当は、最初に見たときから『直感』していた。信じたくなかっただけだ。


 

 彼女は、ゴミを漁っていた。



 それは、疑いようもなく――ホームレスの行動だった。



   ◇



 目の前のホームレス(仮)の彼女は再び体を上げ、明るい声で一息つく。



「ふぅ」



 それに伴い、銀の髪が波打って揺れる。

 我に返ったオレは、ようやく彼女の外見レベルの凄まじさに気づいた。

 

 北欧系の妖精のような顔面に、長い手足。そしてなによりすごいのが、服を押し上げるホームレスにあるまじきその胸。

 すべてが一般平均を遥かに超えている。


 SNSで生脚でも出して踊れば一発で数十万人のフォロワーがつきそうな顔とスタイルだった。


 学校に一人いるかどうか。

 芸能人並み、というより芸能人でないほうがおかしいというレベルだ。

 

 そんな美女が一心不乱にゴミを漁っていて、そして、オレ以外にそれを見ている人間はいない。


 オレ、知らぬ間に異世界にでも飛んだのか……?



「……あれぇ?」



 甘く高い声が、静寂に響く。

 ギクリとして、顔を上げる。



 外人の美少女が、いつの間にかオレを眺めていた。



 腕に空き缶を三つも抱えた彼女は、オレをまっすぐ見つめている。

 猫のように丸い、今にも泣きそうに見える潤んだ瞳が、妙に印象に残る。


 オレは、そのあまりの美しさに動けないでいると、



「おにーさん!」


 

 ……なぜか少女は、オレに向かって駆け出してきた。

 ジャージのチャックをぶっ壊しそうなほどの胸部を、たゆんたゆんと揺らしながら。


 

「そこのおにーさーん‼︎」


「う、うぉ……⁉」



 色んな意味で盛大に焦ったオレは、そのときようやく気づいた。

 彼女は、ただの美人ではないことに。



 バチバチに上向いた派手なまつげ。

 黒地に金ラインの入ったジャージ。

 そしてキティちゃんスリッパ。


 ……ギャルじゃん。


 コイツ、ドンキにいるタイプのギャルじゃん!

 


 北欧系外人で銀髪でギャルで巨乳で美少女でホームレス⁉

 欲張りパックすぎだろ‼

 


「おにーさ――うわぁッ!」

 


 理由も分からず進撃してきた彼女は、オレを目の前にして思い切りつまづいた。


 

「あぶなッ!」



 オレは本能で、その体を抱き止める。


 そのまま、彼女はオレに覆いかぶさるように、地面に倒れ込む。



 ――気づいたときには、倒れたオレの上には例の女が密着していた。


 

 くっついているすべての場所から、彼女の柔らかさが伝わってくる。

 豊満な果実がオレの胸板に押し潰されて変形しているのがわかる。



「……うん。『いい人』だ」

 


 胸元から声がしたかと思うと、美少女はガバっと頭を上げる。

 その途端、オレはすべてを悟り、顔をそむけた。



 間違いない……この女はホームレスだ……


 疑いの余地もない……


 なぜなら……

 


 考えている間にも、強烈な”すえた”匂いが鼻を貫いた。




 コイツ、くっっっっせぇ……ッ‼



 

 見た目と匂いのギャップに困惑するオレを差し置いて。

 北欧系ホームレスギャルは、満面の笑みでオレに告白した。

 


「おにーさん、あーしと付き合って‼︎」


「……はぁ????」


 

 こうして、オレは思いがけず、夢の『かわいい彼女』を手に入れることになった。



 唯一の問題は、彼女が『くっせぇホームレスである』という点だけだ。 




――――――――――――――――――


次回、いい人止まり、ホームレス北欧系美少女の名前とスリーサイズを知ります。

 

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