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短編集・散文集

赤い果実

作者: Berthe

 前を歩く茉美(まみ)(ひろ)()を振り向いた。微笑む顔の右側を見せたのはそちらの方が好きだからだろう。頬が少し赤いのは化粧のせいだろうが、楽しさで火照っているようにも見える。右の手首には銅のブレスレットがひかり、ストローのついた飲み物を持っているためにやや腕の方へ下がっている。後ろで一つに結んだ髪の横に小さな耳がのぞいていて、大きくて丸い目を一層際立たせていた。


 二人は白い空の下の商店街に入り、雑多で統一感のない建物、古びて色調の変わった看板に囲まれるうち、果物のならんだ店先で立ちどまる。茉美は飲み物を左手にもちかえて、右手の指先で赤い果実にふれた。やや俯いたために、長いまつ毛が淡い影を落とす。


「僕はそれ、そのまま食べるのが好きです」


「え? りんごを? 確かに小さいけれど」茉美はそう言うなり小さな林檎を一つ手にして口元へもってゆき、「こう?」と聞きながら赤い唇をちょっぴりひらき果実へ噛みつく振りをしておどけてみせる。


 大翔はその仕草に惹かれつつもちょっと礼儀に反するような気がして、ちらりと店主を見ると彼は他の客の相手をしていた。


「そんな感じ」


「そうなんだ。大翔くんはリスみたいだね」茉美はそっと林檎をもどしながら真面目な顔になって言った。


「リス?」


「だってりんごを頬張って、ほっぺたを膨らますんでしょ?」茉美がいたずらっぽく微笑むと共に桃色の頬が上がって、大きな涙袋がふっくらと目の下を縁どり、ただでさえ年上には見えない茉美の顔立ちをさらに幼く可憐にする。


「しませんよ」


 大翔が微笑を浮かべて穏やかに首を横に振ると、茉美は果実へうつむいてそっと触れながら、


「これ、後で食べよう?」そう呟くなり斜めに大翔を見上げて、「二つでいいよね?」


「だね、茉実さんと僕の分、二つでいい」


「うん」と茉美が目をしばたたきながら頷くや否や、大翔は立ち止まっていた足を踏みだして茉美のそばへ行き、「僕が買います」と手を差し出した。


「じゃあ」と大翔をじっと見上げたのち茉美は目を伏せると、赤にやや黄色の交じった林檎のなかから赤みの多いものを手早く二つ選びだして大翔の手のひらへのせ、「お願い」と言うなり左手の飲み物を口元へもっていき、静かにストローを吸った途端、そのさまを見つめる大翔とぴったり目が合ってぽっと顔を赤らめた。

読んでいただきありがとうございました。

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