5.イベント発生??
沢山の作品の中から、この作品に目を留めてくださり
ありがとうございます!
穏やかな麗良の話となっておりますが、彼女の今後を左右するイベントが発生しますので…ぜひ最後まで読んでいただけると幸いです。
ー ◯月◯日 晴れ ー
今日は歴史の先生に褒められて嬉しかった。
放課後は図書館で歴史の本を読んだ。
屋敷に帰ってから刺繍をした。
夕食は好きな魚だった。
ー ◯月◯日 晴れ ー
マナーの授業中注意された。
騎士科の男性とぶつかって怒鳴られた。
放課後街に出て本屋に行った。
夕食は初めて食べた料理だった。
ー ◯月◯日 雨 ー
雨は嫌い。
放課後図書館で古い魔法の本を読んだ。
屋敷の本棚を探したが無かった。
夕食はお肉だった。
(はぁ…これは日記というより、行動記録ね…。
でも、取り立てて書く事も無いし…。
私もあの方達みたいに交換日記を始めれば上達するのかしら?いえ、ダメね…そもそも相手もいないし、こんな文章恥ずかしいわ)
パラパラとめくっていた日記をパタン…と閉じて溜め息をつく麗良。
休暇中に書き始めた日記だったが、どの日付を見ても変わり映えしない数行の行動記録…。
学園生活が始まれば何か変わるかと思っていたが…そもそも書く人間が変わらないので、劇的に変わるはずも無く今に至っているのだ。
貴族の婦女子は日記を付ける習慣があり、また女生徒達の間では仲の良い者達で、一冊の日記を順番に回し、情報交換や共有をし合う交換日記が流行っているらしい。
麗良は自分の書いた日記なる物を見返して、その壊滅的な文章力に肩を落としながらも…空いているスペースに絵を描いてみた…。ワンチャン絵日記ならば!と。
そして己の絵心の無さに、今度こそ確実に打ちのめされる事となったのであった。
カチリと鍵をかけ…そのチェーンのついた小さな鍵を首に掛けて服の下に隠し、出掛ける準備をする麗良。
学園が休みなので、今日は先日下見をしていた街の本屋に行く予定なのだ。
貴族令嬢とは言っても、そこはしがない子爵家…護衛も連れず、ひとり気ままに本屋巡りが出来る。王都の街は治安も悪くないので遠くまで足を延ばそうと、ヒールの無い歩きやすい靴を履いた。
街に着き、その賑やかさに毎回ドキドキする。学園帰りに寄り道をする事もあるが、今日は意気込みが違う。レイラも街歩きをあまりした事がなかった様なので、この胸の高鳴りは二人分なのだ。
広場の真ん中には、愛と豊穣の女神フリッグ様の像と噴水があり、人々や野鳥の憩いの場として賑わっている。
古い石畳が狭い路地のあちこちにまで伸びており、木組みの家やレンガ造りの建物が混在する街並みは美しく…それだけで目を楽しませてくれる。
そして街のシンボルである時計台は、その美しい街を一望出来そうだが自分の体力と相談して次回の楽しみに残しておく事にした。
建ち並ぶ土産店やレストラン、小物店などを横目に麗良は歩き出す。パン屋の前では焼きたての香りを大きく吸い込み、道端の猫の喧嘩を仲裁し、目的地の本屋に着いた麗良は流行りの小説と、同じ作家の本を二冊…計三冊の本を購入しホクホク顔で店を出る。
しばらくすると空腹を感じ…昼食をどうするかを思案するがある事に気付いた…。自分が両手で抱える三冊の本、ハードカバーで重さもそれなりだ。街歩きの上級者なら決してこんな失敗はしないだろう事に、己の計画性の無さを恨めしく思うが、馬車も無ければお供もいないので…先程より少し重く感じる本をギュッと抱え直してこの後の街歩きを断念した。
レストランや屋台も諦め、屋敷に戻る為に馬車乗り場に向かいながら…街歩きの心得として日記に書き留めようと心に決めていると、道端に蹲っている人が目に入った。
麗良は慌てて駆け寄り声を掛けた。老婆と形容しても差し支えないだろう、その女性は苦しそうに顔を歪めている。
「お婆さんっ大丈夫ですか?どこか苦しいんですか?」
「ああ、大丈夫…大丈夫だよ貴族のお嬢さん。それよりも、あんたのドレスが汚れちまうからこんな事しないでおくれ…後から汚れたと請求されても払えやしないからね」
膝をつき、老婆を抱え起こそうとしている麗良にそう言い放った老婆だったが…彼女が平民である事を考えればそれも致し方ない事なのだろう。
「何を言うの?それよりも…大丈夫ではないのでしょう?診療所に行きましょう!肩を貸しますから掴まって!あっ、それよりも警備隊に知らせた方がいいかしら?」
「いやいや、ただ転んだだけさ。そこの猫を助けようとしてね、だから大袈裟にしないどくれ」
「まぁ!そうだったの?痛みは?本当に治療しなくて大丈夫ですか?あっ!あの木の上にいる子がそうかしら?」
見ると木の上には小さな黒猫が微かな声を上げており、その木の下にはレンガが散らばっていた。どうやらレンガを積んで助けようとしたものの、足場が悪くそのまま転倒してしまったのであろう。
状況を理解した麗良は、傍に置いていた買ったばかりの二冊の本を木の下に置いて、その上に散らばっていたレンガをさらに積み上げた。そして注意深くその上に立ち三冊目の本を…そーっと子猫に近付ける。
木の上で、すくみ上がっていた子猫は…目の前に現れた足場に恐る恐るといった様子で移動した。
出来るだけ揺らさない様に用心しながら…本の上にちょこんと乗る子猫を、先に下へ降ろしてあげようと老婆の方へ向けた瞬間!もう大丈夫だと判断したのか…本の上の子猫がピョーンと老婆へ向かって大ジャンプをしたのだった。
老婆の腕の中に、ウルトラC難度の着地技を見事に決めた子猫とは対照的に、その反動をモロに受けた事と、子猫の予想外の動きに驚いた事で…こちらも見事に老婆の二の舞となっていた。
その様子を横目では見ているが、貴族も平民も…誰であれ足を止める事なく通り過ぎて行く。
そして子猫を腕に抱いた老婆が、麗良の腕を引っ張りながら呆れた声でこう言った。
「こんな薄汚れた年寄りなんか、誰も近付きやしないさ…それよりお嬢ちゃんあんた大丈夫かい?あぁほら、言わんかっちゃない…服が汚れちまった。
全く…余計な事をするからだよ、…このチビを助けてくれた礼は言うが、そっちが勝手に手を出したんだ。ワシは止めたのに…」
なんともあんまりな言い分で、偏屈とはまさにこういう事なのだろう…。しかしそれを聞いた麗良は…
「えぇ、勿論よ。これは私のお節介だから気にしないで、それよりもその子もケガが無いみたいでよかったわ。フフフッ、すっごい大ジャンプでびっくりしちゃった!」
と、笑いながら散らばったレンガを端に寄せ、本の土埃を払っている。
三冊とも傷が付き、落とした本は角がひしゃげてしまっていたが……。それらを気にする事なくクスクスと一連の出来事を思い返している様だ。
そして麗良は振り返り、もう一度老婆を気にかけたのであった…。
怪しげな老婆と黒猫ときたら……お約束ですね( ˙꒳˙ )ノ
イベントの分岐点…麗良の今後にどう影響するのか!
急展開とまではいきませんが、今後もお立ち寄りいただけると作者は泣いて喜びます( ˙꒳˙ )ノ 雪原の白猫