田舎町のクリスマス3
翌朝も早朝に目が覚めてしまったが、スーザンが起床するまで、おとなしく寝室で待機した。この日は昼に親戚の家へ集まって食事会が行われる。かなりの大人数になるため、各家庭で一品料理を作って持ち寄る形式をとるらしい。スーザンも朝から仕込みで忙しかった。
ヘイグランド家は何代か前、スウェーデンから移住してきたため、クリスマスにはスウェーデンの伝統料理を食べる習慣があるそうだ。スーザンは毎年、ルートフィスクという、干した魚を灰汁に漬けたものを使って、クリームシチューのような料理を作っている。朋も慶も仕込みを手伝った。
途中で恵瑠が来たので、作業を一旦中止し、皆でクリスマスツリーの下に置いてあったプレゼントを開ける。
朋と慶はお金を出し合って、スーザンには寿司柄の毛布を、恵瑠にはマフラーをあげた。スーザンは寿司が大好きなので、とても気に入ってくれた。
孫二人にそれぞれプレゼントを用意していたスーザンだったが、笑顔で朋にも箱を差し出す。
「メリークリスマス、朋!」
「えっ、あたしにも?」
箱の中には水色の蝶がついた陶器製のオルゴールが入っていた。
「うわ、きれいだな! ありがとう、スーザン! メリークリスマス!」
宿泊させてもらっているうえに、プレゼントまで用意させてしまった。何だか申し訳ない気がするが、好意は素直に受け取っておくのが礼儀だろう。
恵瑠から朋と慶へは、夏にモデルをしていたファッションブランドのバッグだった。中性的でカジュアルなデザインで、使い勝手が良さそうだ。同じデザインだが、慶のは黒、朋のは黄色だった。
朋から慶へは、ワイヤレスイヤホンをあげた。
「この前、落として失くしたって言ってただろ?」
「うん。ありがとう」
慶からのプレゼントはスマホケースだった。以前一緒に買い物に行った時に、朋が気に入ってしばらく見ていたが、手持ちのお金が少なくて諦めたものだった。
「お! ありがとう! めっちゃ嬉しい!」
朋の反応に、慶は満足げに頷いた。
二人を呆れたように見ていた恵瑠が「まったく、色気がない贈り物ね」と呟いたような気がしたが、聞こえなかったことにする。
昼前にはスーザンの兄であり、慶たちの大伯父の家に出かけた。
スーザンの家から車で十分程度の距離だ。広大な土地にぽつんと家が建ち、敷地内には大きな風車がある。かつて豚を飼育していた柵もあったが、現在は使われていない。
「メリークリスマス!!」
「慶、帰ってたのね! ちょっと見ないうちに大きくなって!」
室内にはすでに、三十人ほどの親戚が集まっていた。親戚だけでも多いのに、やれその恋人だの、婚約者だのと、親戚以外の参加者も多いので、正直、紹介されても誰が誰なのか分からなかった。ほとんど全員が縦にも横にも大柄で、こんなに密集して、床が抜けやしないかと冷や冷やした。
一階のキッチンには、皆が持ち寄った料理が、ところ狭しと並べられていた。スーザンも、持ってきたルートフィスクをそこへ置く。
「おっ、待ってました! クリスマスといえば、ルートフィスクだよな!」
「うえええ、気持ち悪い……」
それを見て喜んだのは、スーザンの兄弟たち祖父母世代で、反対に顔を顰めたのが親世代と子世代だった。この地域では魚を食べる習慣があまりない。そのため、ドロドロして魚臭いルートフィスクは食べてもらえないことが多いらしい。
子世代に蛇蝎のごとく嫌われるルートフィスクだが、恵瑠と慶は、日本育ちで魚に何の抵抗もない。そのため、二人が喜んで食べてくれることが、スーザンにとっては嬉しくて仕方ないらしい。
地下室は、朋の家の一階と二階全てを併せたよりも広く、簡易テーブルと折りたたみ椅子が並べられていた。そこへ全員で集まり、円形に並んで食前のお祈りをささげた後、順番に一階へ食事をよそいに行く。
「すげえ色々あるな」
「あれがミートボール、あっちはハム。ハニーマスタードのソースをつけて食べるのよ。マッシュポテト、インゲンと揚げた玉ねぎのキャセロール」
「キャセロール?」
「説明が難しいけど、深皿とか鍋に入ってて、オーブンで焼いてあるものよ。ちょっとグラタンに近いかも」
他にも、茹で卵を半分に割って、黄身をマヨネーズなどで和えて絞ったデビルドエッグというものや、マカロニチーズ、パンなどがある。全体的に野菜が少ない印象だ。
「あのゼリーみたいなのは?」
「あれはマシュマロとフルーツのサラダ」
「……サラダ??」
缶詰のフルーツと、ピンクとオレンジの中間のような色をしたムースと混ぜたようなものを、しげしげと眺めた。サラダというと、生野菜にドレッシングをかけて食べるものを想像するが、これはどう見てもデザートである。
「何でか知らないけど、あれもサラダって呼ぶのよね」
恵瑠の説明に、そういうものかと頷いた。




