あざと女子の必殺技【慶視点】
イヤホン越しに朋たちの会話を聞いていた慶は、彼女らに聞こえないくらい小さく溜息を吐いた。
先ほどの伊藤も和枝たちと同じようなことを言っていたな、と思い返す。
慶を人気のない校舎裏まで連れていくと、伊藤は「急にごめんねえ」と言いながら小首を傾げた。
「用って何?」
「あ、うん。私、隣のクラスの伊藤めいっていうんだけど。知ってるかな?」
「知らない」
すげない慶の言葉に、伊藤の口が引き攣った。
「そ、そっか。じゃあ、これでヘイグランド君に知ってもらえたね!」
「……用ってそれだけ? もう昼休み終わっちゃうから、じゃあ」
「えっ、待って!」
想定していた反応と違ったのだろう。伊藤は慌てて歩き出した慶の制服の袖を引っ張った。苛立ちを隠さずに振り返ると、彼女は口に拳を当てたようなポーズで、恥ずかしそうに俯いた。
よく、アイドルなどが顔付近にグーにした手を当てているが、あれは一体何なんだろう。ファイティングポーズか、とどうでもいい事が頭をよぎった。
「あの、私、入学式の時から、ヘイグランド君が気になってて」
ほんのりバラ色にそまった頬でちらりと慶の顔を見上げてくる。慶の年代の男子であれば、ほとんどがドキドキするようなポーズなのだろうが、生憎と慶には彼女の仕草が計算しつくされた必殺技にしか見えない。
「……あの、私と付き合ってくれないかなあ?」
「ごめん、興味ない」
即答されたことに気分を害したのか、伊藤は一瞬息を吞んだものの、言い募る。
「どうして!? もしかして、いつも一緒にいるあの子と付き合ってるの?」
「朋と俺は付き合ってない」
「じゃあ、試しに私と付き合ってみてくれないかなあ? 今は興味がなくても、もしかしたら好きになってくれるかもしないじゃない」
「いや、そんなことに時間使いたくない」
「なっ、酷い!」
「俺のこと良く知りもしないで寄って来られても迷惑なんだけど」
慶から「彼氏」に立候補したわけでもないのに、外見に惹かれてふらふら寄って来て、上から目線で自分にふさわしいか品定めをする。彼女たちは何様のつもりなのだろう。
こういうしつこいタイプは遠まわしに断るより、ハッキリ望みがないのだということを分からせた方がいいことを、慶は経験から知っている。なので、わざと冷たく聞こえる言葉を選んだ。
「あんた、おかしいわよ!! あんな、男だか女だか分からないような子と一緒にいるのは良くて、私は時間の無駄だって言うの!?」
「……朋の名前も知らないくせに、あんな子呼ばわり? 自分に自信があるのはいいけど、他人を貶めようとするな」
「何よ! 私の方が、全然女の子らしいじゃない! 頭おかしいんじゃないの? ちょっとかっこいいし、ハーフだから友達にも自慢できると思って声かけてあげただけなのに、いい気にならないでよ、キッッッモ!!」
言い捨てて、伊藤はドスドス足音荒く去って行った。
誤字脱字は見つけ次第修正していきます。