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境界線で君を待つ  作者: 柏井猫好
4章

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セクシュアリティ1

「夏休みといえば、バイト。バイトといえば、出会いだよね!」

 混雑したファミリーレストラン内で、まな美が拳を握りながら力強く頷いた。1学期中に運命の出会いを果たせなかった彼女は、バイト先まで狩場を広げる決意をしたようだ。恋愛にかける情熱が半端ない。


「まな美はもうバイト決まってるんだっけ?」

「ううん。まだこれから。ファミレスにしようか、近所のお弁当屋さんにしようか迷ってて。でも、イケメンを狙うなら、お弁当屋さんよりファミレスかなって思うんだけど、どうかな?」


 まな美はギラギラした目で朋と和枝を交互に見た。和枝は少し考えるように右上を見る。


「誰をターゲットにするかにもよるんじゃない? お弁当屋さんて、主婦とかサラリーマンが利用してるイメージよね。大学生でひとり暮らししてる人も利用しそうだけど、高校生はあまり来ないんじゃない? 年上狙ってるならいいかもしれないけど」


 まな美が片手で額を押さえた。


「盲点だった! 同じ高校生がいいんだよね。じゃあやっぱり、ファミレスかな」

「それがいいんじゃない?」

 和枝はまな美に適当に相槌を打って、朋に話を振ってくる。

「私は夏期講習に参加するんだけど、朋は何か予定あるの?」

「いや、あたしは特に何も。あたしもバイトでもしようかな」


 だらだらとゲームをしたり、漫画を読むのも悪くないが、せっかくバイトができる年齢になったことだし、お金を稼ぐ経験もしてみたい。以前、クリスマスに慶の祖母の家に一緒に行こうかと話していたので、その資金を貯める必要もある。


「慶君と出かけたりしないの?」

「どうだろう。どっかに行くかもしれないけど、特に予定を立ててはいねえかな」

「ねね、安達先輩から誘われたりした?」


 朋は飲んでいた炭酸飲料を吹き出しそうになって、盛大に咽た。


「な、何を」

「あ、やっぱり、何かあったんだ!?」


 まな美がにんまりと笑みを浮かべる。どうして分かったのだろう。心を読まれたのだろうか。


「えっ、本当に何かあったの?」

 和枝が目を瞬いた。

「いや……。映画に行かないかって誘われたんだけ」

「うひゃああああ! 映画デートォ!!」


 朋が言い終えないうちに、まな美の興奮した声にかき消された。あまりに甲高い声だったので、耳がキーンとする。

 当の彼女は朋の様子にも気付かず、何かに感謝するように両手を天へ突き出してうっとりと目を細めている。きっと、恋愛の神様と対話でもしているのだろう。放っておくに限る。


「で、オッケーしたの?」

「いや、断ったっていうか、皆で行きましょうって言っておいた」

「え~、何で? 行けばいいのに。お互いを知るチャンスじゃない。朋はとりあえず付き合うの嫌だって言ってたでしょ? だったら、付き合うかどうかは別にして、お互いのこと知ってみればいいのに」

「だって、最初から付き合う気ないなら、気を持たせるの悪いじゃないか」

「安達先輩はタイプじゃないってこと?」

「そもそも、自分がどんなタイプが好きなのかも分からねえ。まあ、先輩はちょっと暑苦しいところはあるけど、何だかんだいい人だし、嫌いじゃねえけど。そもそも好きか嫌いか言えるほど、先輩のこと知らねえしよ」


 和枝とまな美は顔を見合わせた。


「う~ん、何だか、好きか嫌いか判断できるほど仲良くなりたくないって聞こえるんだけど」


 朋はドキリとした。そういう風に捉えることもできるのだとは考え至らなかった。

 和枝は探るように朋の目を見つめてくる。


「言いたくないなら無理に訊かないけど、朋って、恋愛に興味がないというより、恋愛そのものを怖がって避けてるように見えるのよね」

「……そうなのかもしれない」


 朋は目線を下げ、和枝とまな美の首から下までしか見えないようにした。二人がどういう反応をするのか、直視することが躊躇われた。


「あたしさ、昔色々あって、何ていうか、『付き合った男女がすること』が気持ち悪くて、考えるだけでゾッとするんだよ」

「えっと、キスしたり、エッチしたりってこと?」


 直接的な言葉に、思わず顔が歪む。こういう話題は気まずいし恥ずかしい。


(うっ、まな美のやつ、結構ハッキリ言ったな)


 ちらりと二人を伺うと、和枝もまな美も平然としていた。こういう話題に対する免疫が違うらしい。朋はしどろもどろになりながらも、続ける。


「う、うん、そういう、家族や友達としない、こ、行為っていうか。それが、全部、気持ち悪い」


 世の中の大多数が「恋人」とは、愛情表現の一種として、肉体的接触や性行為をする相手という認識を持っているだろう。つまり、「付き合っているのだから、するのは当たり前」として、交際相手に性的な関係を要求されることになる。朋にとっては、それが心底恐ろしいし、断り辛い立場に置かれるのは絶対に避けたいのだ。 


「まあ、確かに、付き合ってる相手と触れ合いたい人が多数なのは事実よね。でもさ、世の中には性欲が全くない人もいるみたいよ」

「へえ~、そうなの!?」


 まな美の声に、和枝は頷く。

「この前、テレビのドキュメンタリー番組で観たんだけどね。他人と恋愛はするけど、性的に触れ合いたいと思わない人を特集してて、恋人ができても理解し合えなくて、別れることも多いって言ってたわよ」


 他者に性的欲求を抱かない人を、アセクシャルや、ノンセクシュアルと呼ぶらしい。反対に、他者に性的欲求は抱くが、恋愛感情を抱かない人をアロマンティックと呼んだりする。他にも、恋愛感情と性的欲求の両方を抱かない人、相手に対して性的欲求は抱くが、自分に欲求を向けられることに嫌悪感を抱く人など、本当に様々なセクシュアリティがあるようだ。


 目から鱗が落ちた。恵瑠の友人である、ノンバイナリーのミシェルと出会った時と同じように、霧の中を走っていたのに、急に目の前が晴れたような気持ちになった。

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