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境界線で君を待つ  作者: 柏井清音
1章
3/57

朋と慶2

「朋ちゃん、ありがとうね。丁度トーストが焼きあがったから、早く食べちゃいなさい」

「はーい」


 こうして慶を起こしたお駄賃に朝食をヘイグランド家でいただくのが朋の日課で、中学へ入学した頃から続いている。朋の家族とヘイグランド家は家族ぐるみで仲が良いため、全く気を遣わない間柄が心地よい。


 トーストをかじっていると、洗面所で身支度を終えた慶がのそのそと歩いてきた。

「……おはよ、母さん。Good morning, dad」

 国際結婚したヘイグランド家では、母親とは日本語、父親とは英語で会話をするというルールが子供たちには徹底されている。朋はヘイグランド家の子供ではないので、このルールは適用されないため、おじさんとは日本語で会話している。


 朋と慶は幼い頃から家族同然に育ったので、朋も自然と英語を聞き取る能力は身についた。隣の家に留学したようなものだと思っている。しかしながら、インプットばかりでアウトプットを疎かにしているため、英会話は得意ではない。


「そういえば慶、朋ちゃんのお母さんからプリンいただいたわよ。今度朋ちゃんの家に行ったら、お礼言ってね」

「ん」


 プリンという言葉に、慶がピクリと反応した。心なしか、声が喜んで聞こえるのは気のせいではない。


「慶、トーストのくずが膝に落ちてるぞ」

 眠気眼で頷く慶の膝を払ってやりながら、朋は席を立った。

「やべえ、もう時間ない! ほら、行くぞ慶! 歯を磨いてこい!」

「わかった……」

「じゃあ、おばさん、おじさん、行ってきます!」

 ぼんやりしたままの慶を引きずるようにして朋がヘイグランド家を飛び出す時、「慶と朋ちゃんは、老夫婦みたいだよね」とおじさんが英語でホッコリと呟いたのが聞こえた。



 朋と慶は、家から徒歩圏の高校に通っている。学力は高くもなく、低くもない学校で、数学が壊滅的な成績の朋に合わせた形で、本来はもっと上の学校を目指せたはずの慶も受験した。ぎりぎりまで寝ていたいという、何とも慶らしい理由もあって選んだらしい。


「おはよう」

「おはよー朋! 慶君、今日もイケメン! 眼福~!」

 二人揃って教室に入るなり、クラスメイトの和枝(かずえ)とまな美が声をかけてきた。二人とも朋たちとは違う中学から入学してきたので、バスで通っているため、徒歩通学組の朋と慶より早めに登校している。


「……ん、おはよ」

 自分の容姿に対する賛辞をスルーして無感動に返事をすると、慶は自分の席へと向かった。毎日のことなので、まな美も特に気にする様子はない。


「相変わらず仲良しカップルね」

 朋は盛大に顔を顰めると、和枝を軽く睨んだ。

「誰がカップルだ、誰が」

「だって、ずっと一緒にいるじゃない、朋と慶君って」

「そりゃ幼馴染だからだ」

「ふうん」

 和枝は納得いっていないように片眉を上げた。


「でもでも、いいなあ、あんなイケメンと四六時中一緒にいられるんだもん!」

 まな美は自分のツインテールの毛先をくるくるといじりながら、うっとりと慶の背中を見つめる。


「慶君は、うちの学校のイケメン代表だよね! すっごく身長高いし、顔小さいし、薄茶色の目と、あのふわふわの髪の毛だし、まつ毛も長いし、鼻高いし……。やっぱ、ハーフは違うよね! あれだけのロングヘアは、普通の日本人には絶対に似合わないのに、慶君は外国のモデルみたいじゃん!」

 まな美の言葉を、朋は複雑な気持ちで聞いていた。


 確かに、慶は父親譲りの高身長で、中学卒業前にあった身体測定で身長は193センチあったと言っていた気がする。日本人女性の平均身長に近い160センチの朋は、見上げると首が痛くなる。人混みの中でも確実に頭ひとつ分は出るので、見失うことはなくて便利だが、そのせいで人目を引いてしまうのも事実だった。


 慶の整った容姿もあって、一緒に買い物に出かけた時に芸能事務所のスカウトを受けたことも片手では数えきれない。

()()()()()()、ね……)

 クラスメイトとゲームの話をしている慶の後ろ姿を見つめながら、まな美の声が彼に届いていなければいいな、と思った。

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