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境界線で君を待つ  作者: 柏井清音
3章
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体育祭1

 体育祭当日は曇りだった。前日まで梅雨らしく雨が降っていたのだが、この程度の校庭のぬかるみ具合は問題ないと判断されたらしい。


 朋たちの通っている高校は各学年6クラスあり、クラスごとに赤と白に分けられている。朋たちのクラスは赤組だ。午前中は1年生全員参加の障害物競争と大玉転がし、参加者が分けられた全学年合同のダンスと玉入れがある。


「あーあ……、ダンス参加の男子が足りなかったせいで、うちと一緒に踊るの、3年生の女子ってどういうこと!? 酷くない?」


 これからダンスの発表という時になって、まな美は目を潤ませながら訴えた。パートナーが決まった時に散々愚痴を聞かされていたが、まだ根に持っているようだ。イケメンとパートナーになって、恋が始まるかもしれないと期待を抱いてダンスを希望したまな美にとっては、今年一番がっかりした事件なのだそうだ。背後に闇を背負っている姿は、梅雨のじめじめとした空気と合わさって、頭からキノコが生えてきそうだ。


「まあまあ、もしかしたら、まな美がダンスしているのを見てひと目惚れする奇特な男子もいるかもしれないじゃない」

「奇特が余計だぞ、和枝」


 まな美の肩を優しく叩く和枝が微妙に酷い。しかし、まな美は都合の悪い部分は聞こえなかったようだ。目を輝かせてこちらを振り向く。


「本当にそう思う!? やだぁ!」

 まな美の元気がⅤ字回復した。和枝はまな美の操縦方法を心得ているようだ。朋にだけ見える位置でほくそ笑んだのが少々腹黒い。


「うふふ、じゃあ、うち出番だから行くね!」

「はーい、頑張ってね!」


 体育祭の予定表を見ると、和枝の玉入れも集合がかかる時間だ。


「じゃあ、私もそろそろ行くわ」

「おう。まな美のダンス、集合場所から見られるといいな」


 和枝を見送っていると、何人かの男子生徒がこちらへ向かって来ているのが見えた。やたらと背の高い集団で、かなり目立っている。よくよく見るとその中に安達がいた。


「よう、ヘイグランド、礒狩さんも! 今のところ白組が勝っているようだな」


 二人を見かけるなり、白い歯を光らせながら手を振ってきた。背後に立っていた、同じように高身長の男子たちに「こいつがヘイグランドだよ」と軽く慶を紹介する。


「こいつらはバスケ部の仲間だ。どうだヘイグランド、仲間に入りたくなったか?」

「いえ、全然」

「相変わらずつれないなぁ」

 豪快に笑いながら、安達はがしがしと頭を掻いた。

「礒狩さん、調子はどうだ?」

「はあ、悪くないです」


 ダンスの発表が始まったようで、音楽が流れてきた。慌てて振り返ると、丁度まな美が入場してきたところだった。まな美が嘆いていた通り、隣のパートナーは女子だった。まな美たち以外にも数組、女子同士でパートナーになっているようだ。


「お、あれって、礒狩さんと同じクラスの小さい子だよな?」

「はい、鈴木まな美です」


 安達のまな美に対する印象は「小さい」らしい。確かに、背の高い彼にしてみたら、身長148センチのまな美はものすごく小さく見えるのだろう。二人が並んだら、大人と子供に見えるかもしれない。


「はあ~、それにしても、あの子、頑張って踊ってるなあ」


 安達が感嘆の声を上げる。まな美の期待通り、ひと目惚れでもしたのだろうか。前に教室で見ているので、ひと目惚れという言葉が適切かは分からないが。


「あれだけ小さいと、うさぎが飛び跳ねてるように見えて、何だか応援したくなるな」


 ……ひと目惚れではなさそうだ。まな美、ドンマイ。

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