安達先輩
「あれ、君、ヘイグランドのクラスにいる子じゃないか?」
中間テストも終わり、団体競技別に練習が始まった初日、リレーの練習に参加した朋は声の主を振り返った。背後に立っていたのは、昼休み慶を勧誘に来るあの2年生だった。
「あー、はい。礒狩です。……えっと、安達先輩でしたよね?」
「そうだ。礒狩さんもリレーか。よろしくな」
「よろしくお願いします」
にかっと白い歯を見せて笑う安達も、慶に負けず劣らず「無駄に」背が高い。見上げていると首が痛くなってくる。
「礒狩さんて、もしかして中学の陸上大会で優勝しなかったか?」
「よく知ってますね」
軽く目を見開く。まさかバスケ部の安達が知っているとは思わなかった。なんでも、安達の妹が陸上部で、朋が優勝した大会に出ていたのだという。
「なあ、礒狩さんからもヘイグランドにバスケ部に入るように勧めてくれよ。君たち、付き合ってるんだろう? 彼女から勧められたら、きっとあいつも断らないと思うんだよ」
「え? いえ、あたしたちは付き合ってないですよ。幼馴染で、親友なんです」
「そうなのか? 俺の学年でも君たちのことは結構噂になっているから、てっきり付き合っているのかと」
今度は安達が驚く番だった。
「そんなに噂になっているんですか?」
「俺の耳に届くくらいだからなあ」
朋はげんなりと肩を落とした。勝手な憶測で朋と慶をくっつけないでほしい。慶だって、色々言われる現状にうんざりしているはずだ。
「とにかく、あたしと慶は付き合ってないです。それに、慶はバスケ部に入ることを何回も断っているんですよね? あたしが勧めても無駄だと思いますよ。あいつ、暇があれば寝ていたいってやつなんで、運動部とか無理だと思います」
「ヘイグランドはバスケの素晴らしさを分かっていないだけなんだ!」
安達は、自分たちの親世代が若い頃に大人気だった、バスケットボールを題材にした漫画がいかに面白く、その主人公に憧れてバスケットボールを始めたこと、自分の高身長はコンプレックスだったけれど、今はそれが武器になっていて自信に繋がったことなどをまくしたてた。
(いや、あたしにそんなことを言われても……)
熱い。熱すぎて鬱陶しい。今更ながら慶の気持ちを理解した朋は、口元が引き攣るのを何とか隠しながら、相槌を打ちまくってやり過ごした。
さんざん語って満足したのか、安達はふぅと息を吐いた。笑顔がやたらと爽やかだ。
「おっと、練習が始まっちまうな。それじゃ、当日はお手柔らかに頼むよ」
安達はひらひらと手を振ると、同じ2年が集まっている方へ向かった。




