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06 天国と地獄

 『海上ギルド』――。


 何故だろう?

 このワードが頭に浮かんだ瞬間、僕の体は一瞬小刻みに震えた気がした。武者震い……?


 何か分からないけど、さっきのティファ―ナへの気持ちとはまた違う胸の高鳴りだ。


「何だろう。全く理由も根拠もないのに、海にギルドを建てたくなっちゃった……」

「ギルド?ギルドって冒険者の人が仲間と一緒に作っちゃうあのギルドの事?」

「そうだよ」

「え!すっごい楽しみ!私の知り合いの人魚で冒険者っていないから“私もなりたい”!」

「――⁉」


 そうか。人魚族や魚人族でも、確か冒険者になってる人はいるけど、数はそこまで多くないと言っていたな。


 魚人族は海でも陸でも生活できる。でも、基本的に陸で生活するのが当たり前の人間やエルフ族、ドワーフ族、それに獣人族や他の種族達も。陸の方が比べ物にならない程冒険者数が多い。陸にギルドが出来るのは当たり前の事だ。


 確かに、海関係のクエスト依頼も多々あるが、冒険者達にだって生活が掛かってる。余程報酬の良いクエストでもなければ、“海系専門”のクエストだけを受けていくのなんてコスパがあまりに悪い。


 単純計算でも、1回海に出るだけでも船の使用料や手配にお金が掛かる。船を丸ごと買うのもアリだが、一体どれだけクエストをこなせば元が取れるだろう。それに小型のボートならいざ知らず、普通の船を動かすには当然人手も必要だ。


 その点、魚人族や人魚族等のように海で遺憾なく能力を発揮出来る者達ならば、出費は一切掛からず報酬が全て自分達に入る。


 だが、ただ船や人手にお金を使わなくていいからと言っても、そのメリットだけでは到底大した利益は生まれない。やはり海系専門など圧倒的にコスパが悪すぎる。だから“誰もやっていない”んだ―。


 でも、現実的に考えれば決して不可能ではない気がする。


「ティファ―ナ。君冒険者になりたいの?」

「なりたいわ! 子供の頃から夢の1つだったの。仲間とか絆とか格好いいじゃない」

「何その理由……。しかもそんなにイメージあるかな? それ」

「あるわよ。仲間と困難に立ち向かい、世界を恐怖に貶める魔王を倒すの!」


 ファンタジー物語を読み過ぎだな。恋愛の価値観といいティファ―ナはきっと、驚くぐらい真っ直ぐでピュアなんだ。


「魔王を倒すのは別として、冒険者登録は誰にでも出来るんだからすれば良いのに」

「ただ冒険者に登録したからって、クエスト受けられなきゃ意味ないもん。それに私達人魚族は、陸に上がるのに“人魚人化プロトイズ”しないといけないの。人化は慣れていないから疲れやすいし、魔力の消費も激しいから今までは無理だった」

「そっか、プロトイズ……。人間みたいに足に変えられる人魚族の魔法だよね。何かの本で読んだ事があったけど、そんなに魔力消費が激しいのか。って、“今までは”ってどういう意味?」


 ティファ―ナの言葉に引っ掛かった僕は彼女に聞いた。

 すると、ティファ―ナはグッと拳を握り、何やらドヤ顔で魔力を高め出した。


「今なら絶対にイケる!リヴァイアサンを倒すのにあれだけ魔力を使ったのに、まだ“魔力が余ってる”のよね。ジルの力って凄いわ!」


 そう言ったティファ―ナは勢いよく海から飛び出すと、人魚族の魔法『プロトイズ』を使った。


 光り輝きながらティファ―ナの体を覆って行く魔力の光。それと同時に、ティファ―ナの腕に再び紋章の様なマークが浮かび上がっていた。


 海から飛び上がったティファ―ナは、今までの人魚の姿ではなく人間の足で地へと着地した。


「ジャーン! どう? これでジルと一緒に歩けるね」


 ティファ―ナの上半身は貝殻の水着。白く透き通る肌と胸には、2枚の貝殻と僅かの紐しか身につけていない。


 そして下半身は驚いたことにちゃんと人間の様な足が生えていた。しかも当然の如く白く透き通る肌。スラリと伸びる足にタイトなロングスカート。しかも太ももの際どいところまでスリットが入っている。


「何固まってるの?」


 僕にとっては刺激が強すぎた。だが男の性か、気付けば瞬きせずに凝視していた。


 ん~~~何ともエロい!


 先ず思った僕の率直な意見がコレ。最低だな本当に。でも普通そうでしょ。上は際どい水着で下も際どいスカート。男の夢を夢込んだ装いだが、流石にコレでは目のやり場に困る。


「ティ、ティファ―ナ!もう少し服を着た方がいいと思う」

「そう? 一応万が一の時に足を隠せる様スカートにしたんだけど」

「そっちじゃなくて上!上!風邪ひくよ」

「大丈夫よ。プロトイズで人化したけど、海底の冷たさが当たり前な私達は、これくらいじゃ寒さなんて感じないから!」

「いや、そういう問題じゃなくて、目のやり場に困るんだよ」


 恥ずかしくて次第に声が小さくなっていた。

 ティファ―ナはそんな僕を不思議そうに見ていたが、「ジルが言うなら」と装いを少し足してくれた。それでも腕と腹部に布面積が増えた程度。でもさっきよりは大分露出が抑えられた。


 別にいいんだよ僕は。さっきのままでも全然OK! 寧ろずっとあの姿でも良いとさえ思っている。


 でもあれでは街など絶対に歩けないぞ。人目が気になって仕方がない。残念だがこの方が良いんだ。ぶっちゃけコレでも主張してる所は主張してるからまだ目がそこにいってしまうけど。


「これならもういいよね。早速行きましょジル!」

「ん? 何処に?」

「何処って、冒険者登録するんだから、冒険者ギルドに行かないと」

「え! 本当になるの気だったの⁉ しかも今から⁉」

「そりゃそうよ。その為にわざわざプロトイズしたんでしょ。早く行くよ!」


 ティファ―ナはそう言って、強引に僕の手を引っ張って行く―。


 思い返せば壮絶な1日であった。

 ラウギリ達に追放されてからたかが数時間の出来事なのに、僕の今までの人生で1番刺激的(色んな意味)で運命的な日だった。


 裏切り、追放、人間不信、絶望、恐怖、そして死―。

 終わっていた筈の僕の人生。それはたった1人の人魚によって救われた。

 天国と地獄って本当にあるのかな……?


 もし仮に、皆がイメージする天国と地獄が存在したとしても、まだ僕はどちらにも行かない。


 天国と地獄、絶望と希望。両方を同時に味わったこの海で、1から始めてみるのも悪くないだろう―。

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