57 素敵な名前
♢♦♢
~スコッチ村・酒場~
「――いや~、久々に飲んだがやはり上手いな!」
「マスター!俺ももう1杯もらうぜ!」
「はいよ。まさか本当に噂の大賢者を見つけてくるとはな」
「イェルメスさんもスコッチ村のお酒飲んだ事あるんですか?」
「ああ。ここの酒は昔から有名だからね」
ロマン街を後にした僕達は1週間ぶりにスコッチ村に戻って来ていた。
あれからロセリーヌさんと、本当にイェルメスさんまで僕達と同行する事になり、帰りは何とかティファーナを説得して魔道列車で帰ってきた。
「はいお待ち、ディオルド君!」
「ありがとよ!」
「大賢者の旦那は?」
「いや、私はもう遠慮しておこう。懐かしい思い出を堪能出来た。これ以上飲むと悪酔いしそうだ。……君がここのマスターかね?」
「ええ、そうですけど」
「“グレン”と言う男を知っているかな?」
イェルメスさんは徐に誰かの名前を出した。そしてその名前にちょっと驚いた表情を浮かべたのはマスターだった。
「グレンって……もしかしてうちの“親父”と知り合いですか?」
「ほぉ、もしかして君はグレンの息子なのか。そう言われれば若い時の彼の面影があるな」
「そうですか? いやまさか旦那が親父と知り合いだったとは。しかも噂の大賢者ですよね」
「ハハハ。それは周りが勝手に言っておるだけだがな。グレンは元気か? 酒場の見た目が随分と変わっていたから気付かなかったな。
彼とは“同じ歳”でね、ここで初めて出会った時から直ぐに意気投合したよ。クエスト後のここの酒はまた格別だった」
昔を懐かしむ様に語るイェルメスさん。まさかマスターのお父さんと知り合いだったなんて僕も驚いたよ。
「そうだったんですね。親父とそんな繋がりが……。いや実は、親父はもう10年以上前に他界しちゃって」
「そうなのか……。それは悪いね」
「いやいや全然気にしないで下さい!そんなしんみりする感じじゃないですから。親父を知っているなら何となく分かると思いますけど」
「ハハハ。確かにな。グレンは粋のある気持ちのいい男だった。そうか……残念だが、彼なら最後まで楽しく生き抜いただろう」
「ええ。大好きな酒を最後の最後まで飲めて、とても幸せそうでした」
「そうかそうか、ならば良かった。やはり最後にもう1杯頂こうかな。グレンに感謝を込めて」
そう言って、イェルメスさんとマスターは静かに乾杯していた。
人生ってやはり何が起こるか分からないなぁ。ロマン街に行く前は、まさかこんな形でスコッチ村に戻ってくるなんて誰が予想出来ただろう。イェルメスさんとマスターのお父さんが知り合いだったなんてまた数奇な運命だよ。
「そういえば旦那、親父と同じ歳って言ってましたよね……。親父が死んだの正確に言うと12年前で、確かその時既に“90歳”過ぎていたと思うですど……旦那今歳幾つですか?」
マスターは急に恐る恐る聞いた。そして横で聞いていた僕も少しだけ寒気が……。
「ああ、確かにグレンとは同じ歳だ。 私は今年で“103”だったかな? この歳になると年齢など毎年思い出す方が大変だ」
「「ひゃ、103ッ⁉⁉」」
この見た目と若さで⁉ 嘘でしょ⁉ どう見ても60……いっても70代ぐらいの見た目だけど!
イェルメスさんにも驚いたが、僕は同時にもう1人の顔が浮かんだ。
「あの~、因みにイェルメスさんとシスターって……」
「アグネスか? そう言えばアイツも私とグレンと同じ歳だったな」
「えッ……⁉」
やっぱり化け物だった――。
イェルメスさんもそうだが、シスターはやはり色んな意味で化け物だった。
「マスター、君の名前は?」
「私の名前はフィディックです」
「そうか。フィディックよ、昔グレンに聞いたのだが、君達の家……“ピート家”はずっと昔からこの酒を受け継いできたのだろう?」
「ええ、そうですね。私も何処まで先祖が続いているのか分からないですが」
「私もこの酒が大好きだ。酒は勿論、これを造り語り継いできたグレンやフィディックやピート家がな。今日は何十年振りかの素敵な酒を飲ませてもらった。ありがとう」
いつの間にかマスターは涙を流していた。何となく僕には気持ちが分かる。イェルメスさんとシスターには、何か不思議な……人を優しく包みこむ様な優しさと暖かさを感じる。それも偏に103年と言う人生経験がなせる業だろう。尋常では無理。
――ドンッッ……!!
「ちょっとジル君!」
僕は悪夢でも見ているのだろうか……。
こんな衝撃を味わったのは、初めてティファーナと会った……あのリヴァイアサンに襲われた時以来。
「え……⁉ ちょ、ちょっと! ロセリーヌさんッ……⁉」
「こっち向いてちゃんと話し聞きなさい!」
何だこれぇぇぇぇ⁉ また何がどうなって“こう”なった!
先ず結果から申しますと僕は嬉しい――。
……って本当に変態か僕はッ! それどころじゃないでしょ!
「おいおい、ロセリーヌとかいう子“酔っ払ってる”じゃねぇかよ。ハハハ! そっちが本性か」
「わぁお、ロセリーヌ大胆!」
盛り上がっていた酒場が更に盛り上がりを見せた。何故ならば、大人しくて控え目な超天使のロセリーヌさんが豹変しているからである。
冷静に今の現状を把握していくと……事もあろうか、突如飲んでいたジョッキを豪快に机の上に叩きつけたロセリーヌさんは、何故かその直ぐ横に座っていた僕の膝の上に跨ってきたのだ……。
しかも向かい合う様にこちらを向いており、両腕は僕の首に絡ませている。そして僕の膝の上にはロセリーヌさんのとても柔らかい太ももとヒップの肉感が服の上からでもしっかりと伝わっているし、眼前にまで迫った美しい顔と
おっ〇いが僕の脳内に戦を巻き起こした――。
わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 敵襲! 敵襲!
これは非常に由々しき事態!誠にけしからんぞ!
「――ねぇ! ちゃんと聞きなさいよジル君!」
「えッ……!あ、はッ、はい……ッ!」
ディオルドの言う通り、ロセリーヌさんはどうやら酔っ払っているらしい。お酒で赤くなったロセリーヌさんの顔は変わらず綺麗だが、今はそういう問題ではない。
「いい、ジル君! 私は皆を助けられる強くて立派なシスターになりたいの! だから旅に出る事を決めた!」
「は……はい……」
「私は自信の無い、こんな自分を少しでも変えたいの! でも1人じゃその勇気がなかった! ジル君とティファーナちゃんに会っていなかったら、私はずっと変われないままだった気がする!」
「お、お役に立てて何よりです……」
「なのにジル君ときたら、そんなか弱い私を全然自分から誘わないし、全然引っ張ってくれないんだもん!嫌になっちゃうわ! 男だったら女の1人や2人や3人、ドンと引っ張らなきゃダメでしょジル君!」
僕は今お礼を言われているのか怒られているのか……。まぁどちらにせよロセリーヌさんの豹変ぶりには驚いたか、このエロさに文句は一切ないです。はい。
「お酒1杯飲んだだけなのにロセリーヌ面白いね~」
「もうこれは次から飲ませちゃいけないなゲロ」
「面白くていいじゃねぇかよ。なぁティファーナ」
「もっと飲ませたらどうなるんだろう?」
「こらこら、 ロセリーヌさんに飲ませちゃダメだよもう!」
「だからこっち見なさいよジル君!」
「は、はいッ!」
絶対もう飲ませちゃダメだ。ちょっと寂しい気もするが……。
「――全く。いつもいつも賑やかだな彼らは」
「いつもこうなのか。それは先が思いやられるな。まぁここの酒を飲めるのが唯一の救いか」
「ハハハ。何時でも来て下さい」
「時にフィディックよ。この酒、昔から“スコッチ村の酒”なり“スコッチ酒”なりと呼ばれているが、決まった名はないのか?」
「あ~……言われてみればそうですねぇ。うちはこの酒しかないので、特に名前とかは……」
「そうか。これはまた何十年も前の話だが、実は1度グレンとこの酒の名について話したことがあってな。私は君らが先祖から代々受け継いできた大事なものだから、君達の“名前”を付けてはどうかと言ったんだ」
「俺達の……?」
「ああ、そうだ。当時暫く2人で考えていたが全然ピンと来なくてな。だから私は名前から取り、“ピート酒”がいいのではないかとグレンに言った。彼は微妙そうな顔をしていたがな、皆から愛される酒ならば、尚更それ相応の素敵な名前があった方がいいと私は思ったんだ」
「ピート酒……か」
何時もと何ら変わらない僕達の賑やかな日常。
その一角で流れていた静かな時の中で、後に酒好きな者達は疎か、この世界中に知れ渡る程の銘酒の名が誕生していたのだった――。
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