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55 大賢者イェルメス

 “その人”もまた、突然と姿を現した――。



「アンタは随分と老けたねぇ『イェルメス』や。隠居生活が寂しくなったかい?変人め」

「人の醜い争いを感じない、自然が素晴らしい場所だよ“メイリーン山”はね」


 見覚えのないその男の人とシスターは知り合いなのだろうか、会話をしたかと思いきや今度はお互いに笑い合い、仲良く握手をし始めた。


「アッハッハッハッ!久しぶりじゃないかイェルメス!相変わらずシケた顔してるねぇ」

「お前も相変わらずの様だアグネス。シスターになってもガサツさが消えないな」


 白髪の長い髪に白い髭。旅人の様な深緑色のローブを纏ったその男の人は突然現れた。見た目はシスターと同じぐらい……? いや、でも待てよ。それだとこの人も100歳って事になるぞ……。


 それにアグネスって、どう考えてもシスターの名前だよな?


 どういう関係なんだこの2人は。っていうかそんな事よりいい加減ギガノキア消した方が良くない?


 何か無事にロセリーヌさんの力が認められて一件落着みたいな雰囲気だけど、まだ街の人達パニックになってるから! 動きは止まったけど聳え立ってるし怖いから! ギガノキアが!先にしまおうよ。ね、シスター。


 ……で、そのオジさんも結局誰ですか?


「ギガノキアか……。これはまた随分と懐かしいものを」

「時の流れは早いものだろう。新緑が芽吹いてきたのさ」

「彼女が次のシスターか」

「ああ。まだ少し頼りないがね」

「あの若さで冷静にギガノキアを封じ込めらるのなら大丈夫だろう。お前と違ってな」

「アッハッハッハッ。悪口はぶっ飛ばすよイェルメス」

「それより、用が済んだなら早くギガノキアをしまえ。街にもっと混乱が生まれる」

「そうだったね、忘れてたわい。……ロセリーヌ! 祈りをしたまま結界魔法を出しな! 魔力を高めてギガノキアを一気に封印するんだ、メイリーン山に!」


 言われたロセリーヌさんは驚いていた。それはきっとこの場にいた全員が思ったに違いない。まさかギガノキアがメイリーン山に封印されていたなんて初めて知った。


 驚きつつももう後には退けないロセリーヌさんは、シスターの指示通り、祈りを唱えたまま結界魔法を使った。


 聖女の祈りは魔力や魔法の効果を高めると言われている。


 それが理由なのか、それともこれが元々のロセリーヌさんの力なのかは分からないけど、彼女の結界魔法が強い光と共にギガノキアのデカい体を囲った。


「ほう。これはまた見事な結界魔法だ。メイリーン山も彼女の魔力に呼応するかの如く強さが増していっているな」

 

 そして次の瞬間、ロセリーヌさんの強力な結界魔法によりギガノキアが封印され、その大きな姿が一瞬で消え去った――。


「はぁ……はぁ……出来た……?」

「よくやったねロセリーヌ」

「凄いよロセリーヌ、やったね!」

「凄いものを見てしまったケロ」

「意外と面白かったな。まさかあんな怪物がいたとは」


 こうして、ブロッサム大聖堂の次期シスターの座をかけた壮大な勝負が幕を閉じた。


 これがロセリーヌさんとエンビアの勝負だって事を、僕はいつの間にか忘れていた……。まぁしょうがないよね。


「さて、これで終わりだねぇ。皆中に戻って仕事しな!」


 それは幾ら何でも……。たった今こんな事が起きていたのに、皆そんな簡単に気持ちを切り替えられないでしょ。


「――シスター!」

 

 突然大声を出したのはロセリーヌさんだ。


「どうしたロセリーヌ」

「あ、あの……私……」


 僕はこの時思った。


 シスターは一体、何処までロセリーヌさんの事を見抜いていたのだろうと――。


「なんだい?言いたいことがあるならハッキリいいな」

「私、自分にこんな力があるなんて知らなかった……。昨日病院でシスターから話を聞くまで、私も心の何処かで贔屓されているんじゃないかと……そう思ってたの。

でも、シスターは本当に1人の聖女として私を見てくれていた。自分の力に気付けた今日までずっと。

私は自分に自信がなかった……。シスターは疎か聖女としても。幾ら自分に力があったからって、直ぐには自信も持てないし簡単には変わる事なんで出来ない。シスターやティファーナちゃんの様に……」


 俯きながら話すロセリーヌの言葉はとても力強く感じられる。まだ会ったばかりだけど、今まで話した中で1番強く思いが伝わってくる。


 そんな風に思っていた矢先、ロセリーヌさの話は意外な方向へ舵を切った。


 そしてその話の結論に衝撃を受けるのは今から数分後のお話――。


「……私にとって、ジル君とティファーナちゃんとの出会いは大きな変化だった。会ったのは昨日。時間にしたらとても短いけど、ジル君とティファーナちゃんが私を前へと押し出してくれた。そして、シスターと本音で話し、今日のこの出来事を通して思ったの……。


シスター……私、もっと強い人間になりたい――」


 この言葉を聞いた瞬間、僕にはシスターの顔が一瞬喜んでいる様に見えた。


「だからね、シスター……私“旅に出よう”と思うの!」

「え?ロセリーヌさん……⁉」

「アッハッハッハッ!」


 旅に出るって? 何でそうなるの?


「もっと強い人間になって、自分に自信のある聖女になりたい。私は生まれてからずっとここにいるから、外の世界も知らないし、今までは自分を変えたいと思っても中々踏み出せなかった……。私にその勇気がやっと今日生まれたの。心の強い立派なシスターになる為に、1度私に旅をさせて下さい! “シスターの様に”!」

「旅に出るときたか……。ハッハッハッ! 今までのアンタからは想像も出来ない言葉だねぇ」


 成程……。ロセリーヌさんは自分の為に旅を経験しようとしているんだね。僕が言うのもアレだけど、確かに外の世界は広く険しい。想像も出来ない凄い世界が広がっているから、人として成長出来ると思う。良くも悪くもだけどね……。


 だがそれよりも、僕はロセリーヌさんの“最後”の一言が何故か引っ掛かっている。


 旅をさせて下さい……。“シスターの様に”……?


「あの~、お話し中申し訳ないんですが……」


 気が付くと、僕はシスターに話し掛けていた。


「何だいジル坊」

「シスターの様に旅に出るという意味は……?」

「おや、言ってなかったかい? 私はこれでも“元冒険者”だよ」

「え⁉ そうなんですか⁉」

「シスターも冒険者だったんだ!」

「そうなんですよ。私も冒険者というのは詳しく知りませんが、シスターは“Sランク”? と言う冒険者だったみたいです。ジル君やティファーナちゃんと同じですよね?」

「「Sランク……⁉」」


 僕は勿論、すぐ横にいたディオルドとバレンも驚愕した。


「シ、シスターが元冒険者⁉ しかもSランクの⁉ 本当に⁉」

「ハッハッハッ。そうさ。別にそんな驚く事じゃないだろう。たかがSランク如きで」

「いやいやいや!Sランクなんて僕まともに会った事ないですよ!」

「何だい、そんなに今は冒険者のレベルでも落ちているのかい? そこのジジイだって“Sランク”だよ――」


 シスターはそう言いながら、イェルメスと呼んでいたオジさんを指差した。


「ええぇぇぇぇ⁉ オジさんもッ⁉……って失礼ですが、先程からオジさんの事も気になっていまして……」


 何がどうなっているの? 貴方達は一体何者ですか……?


「ハハハハ、面白い少年だ。改めて、私の名は『イェルメス・バーキーン』と言う。突然君達の輪の中に入ってしまってすまないね」

「い、いえ、とんでもないです。こちらこそ急にすいません。あ、僕はジルと言います。ジル・インフィニート。オジ……じゃなくて、イェルメスさんもSランクの冒険者なんですか?」

「ああ、まぁね。一応私とアグネスは昔の仲間なんだ」

「ハッハッハッ! 何十年前の話をしているんだよアンタは」

「凄いね!シスターもオジさんもSランクなんて。私達もSランク目指しているんだよ。ね、皆!」


 ティファーナがそう言って僕達を見てきた。


「Sランクになるのって、ドラゴンを捕まえないといけないんでしょ?」

「ああ、確かそうだったねぇ。それは昔から変わっていないのかい?」

「それは今でも変わっていない様だぞアグネス」

「そうなのかい。懐かしいねぇ。まぁあの時だけは、アンタの“無駄な知恵”が役立ったねぇ確か」

「知恵に無駄なものなんてない」

「はいはい、分かってるよ。本ばかり読み漁って何が楽しいんだかねぇ。そういえば、ここ何十年か前から“大賢者”とか呼ばれているらしいじゃないかアンタ!アッハッハッハッ! 」

「「――⁉」」


 僕とティファーナとディオルドとバレンは一斉に互いの目を合わせた。



 ――大賢者……?  



「アッハッハッハッ! 笑わせるねぇホントに!何が大賢者だよ全く!」



 シスターの大笑いは、僕達の耳には一切届いてこなかった――。


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