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51 サーカスショー

「――それじゃあまた明日ねロセリーヌ!」


 病院を出た僕とティファーナは、そこでロセリーヌさんに別れを告げた。


 ホントは大聖堂まで一緒に戻ろうと思ったが、思いがけない展開で色々バタバタしたし、ロセリーヌさんも明日に備えないといけない。


 それに何より、僕達はすっかり忘れていたディオルドとバレンと合流しなくてはならないからだ。


「色々ご迷惑を掛けてしまってすいませんでしたロセリーヌさん」

「そんな事ありません。ジル君とティファーナちゃんのお陰で、やっと前に進み出すことが出来ましたから」


 そう言って微笑むロセリーヌさんはやはり美人だ。天使なのかこの人は。


「私も絶対に応援行くからね!」

「ありがとう。まだどうなるのか全く分からないけど、ティファーナちゃん達が味方だと思うと心強いです」


 僕達はそんな言葉を交わしながら「またね」とロセリーヌさんと別れたのだった。



 ♢♦♢



~ロマン街・とある西側~


「――お次はこの火の輪をくぐってみせようか!」


 突然だが、僕は今どうしようもないやるせなさに襲われていた。


「“人”使い荒いゲロ……」


 だって、今自分が見ている光景に頭が追いつかないから。


「お前人じゃなくて蛙だろうがよ」

「差別ケロ」


 どうして“こう”なった……? 僕はそれが一番聞きたい。


「いいぞー! もっとやれ!」

「カエルさんすごーい!」

「何処の旅の人達かしら?」

「そっちのお嬢ちゃんも可愛いな!」


 ロセリーヌさんと別れた僕達は、ディオルドとバレンが探しているロマン街の西側に来ていた。


 何処にいるのか見当も付かなかったから取り敢えず連絡しようとした瞬間、ふいに視線の奥の方で人だかりが出来ているのを見つけた。遠くからでも何か盛り上がっているのがよく分かった。


 それを見つけた僕とティファーナは、自然と人だかりの方へと歩みを進め近づいて行く。すると、その人だかりの円の中心に、理由がさっぱり分からないが、そこには確かにディオルドとバレンが存在していた。


「さぁ! 早くこの火の輪をくぐれよバレン。観客がお待ちだ!」

「バレンなら出来るよ! 自信持っていこう!」

「自信が無くて躊躇している訳じゃないケロ……」


 まるで旅のサーカス団。

 

 ディオルドは魔法で火の輪を出しており、それを今まさにバレンが飛んでくぐろうとしている様だ。


 うん。何故……?

 大賢者を探している筈が何故こうなったのか甚だ疑問。そしてそのディオルドとバレン以上に正気を疑ったのはやはり君なんだよ……ティファーナ。


 この光景を見ればまず誰もが疑問を抱く筈なのに、何故君は“そちら側”にいて、何の迷いもなく参加しているんだ。数秒前まで僕の隣にいたのにさ――。


「さぁさぁさぁ! この蛙が見事火の輪を抜けたら拍手喝采を!さぁ来いよバレン!」

「ハァ……。もう早くやって終わらせるケロよ」

「皆で盛り上げよう!」


 ティファーナの掛け声で高まっていた熱気はピークに達した。


 そして、大勢のお客さんが見守る中、火の輪をくぐった蛙のバレンに一堂は大歓声を送ったのであった。


『『ワァァァァァッ!!』』


 サーカス団のショー、満員御礼!


「――って違うだろ! 何してるのコレ!」


 大歓声が鳴りやまない中、僕はディオルド達の元へ駆け寄った。


「お。お頭! どうだ? 凄ぇだろ」

「凄ぇだろ。じゃなくて……何してるの?」

「俺もよく分からない。ディオルドに誘導されて気が付いたらこうなっていたゲロ」

「すっごい楽しいね何か!」

「何してるって、“大賢者探し”だろうがよ。俺が遊んでるとでも思ったのか?」


 ディオルドから返ってきた意外な言葉。本人はかなり真面目らしいが、この状況が何故それに繋がるのか僕には分からない。


 僕がそんな事を思っているのを察したディオルドは、その答えと言わんばかりに、ショーを見ていたお客さん達に向かって大声で叫んだ。


「――おーい、ちょっと教えてくれ! この街にいる大賢者について知ってる奴いねぇか? 俺達探してるんだけどよ!」


 ディオルドの問いに、集まっていたお客さん達がザワザワとし始めた。


「大賢者って……」

「あなた知ってる?」

「何か噂はよく聞くけどなぁ」

「アンタ蛙なのに言葉通じるのか?」

「私も大賢者がいるって事はたまに耳にするよ」

「赤髪の人カッコ良くない?」

「うんうん。めちゃイケメン!」


 そう言う事か。せっかちのディオルドの事だから大賢者を探すより、街中の人を集めてやろうとか思った結果がコレか。ここまで人を集められたのなら確かに効率が良い。せっかく2人が策を練ってくれたんだから、後は何でもいいから大賢者に繋がる手掛かりが入手出来れば……。


「どうだ? 何でもいいから知ってる奴いねぇか?」

「噂は確かに聞くけどな……」

「実際に見たっていう人も数人聞いたことがあるけど、信憑性は薄いかも」

「メイリーン山の山頂に住んでいる事はほぼ間違いないらしいぞ」

「何十年も前から大賢者の話は聞く。ワシも実物を見た事は無いが、確かにこの街には度々訪れておる様じゃ」


 皆が多くの情報をくれたが、残念ながらその後も決定打となる手掛かりは入手出来なかった。


「――分かった。ありがとな皆! 助かった。皆の情報で確かに大賢者はこの街に姿を現す様だ。それが分かっただけでもかなり重要だ。……よし。そう言う事だからよお頭。どうやら大賢者は本当にいる。もう少し探してみようぜ」

「そうだね。ありがとうディオルド、バレン」

「皆集まってくれてありがとよ! これでカエルショーはお開きだ! 今のショーの“おひねり”は、ここにいるお頭に渡してくれ! じゃあ解散!」


 こうして、嵐の如く出現したショーは幕を閉じたらしい。


 しかもディオルドの最後の一言がかなり効いたのか、本当におひねりが予想以上に集まった。


 その額、実に87,229G――。


 サーカスと言う道もアリか……。

 観光地と言うだけあって人も多いし、ほぼ全員がバレンの物珍しさだろう。動いて喋る蛙なんて、確かにそれだけで人が集まりそうだ。




「……」




 サーカスショーが幕を閉じた一方で、“ある男の人”がこの場から静かに去っていった事に、この時の僕達は誰も気付く由もなかった――。

 

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