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50 実力行使

「アンタを初めてブロッサム大聖堂の入り口で抱きかかえた時から、アンタは確かに特別な存在だった。聖女を目指して大聖堂に来る年頃の子達と比べれば、思い入れがあるのは当然の事さ。

でもね、私はれっきとしたブロッサム大聖堂のいちシスター。私の元へ来た子達は皆、私にとってはかけがえのない特別な存在さ。エンビアも勿論ね。


私もロセリーヌやエンビアと同じ歳の頃はまぁ勢いがあったもんだ。威勢の良さはエンビアやティファーナと似ていかもねぇ。ハッハッハッ。


いいかい? ロセリーヌや。

威勢があろうか無かろうが、性格が良いか悪かろうが、実力が足りているか足りていなかろうが……自分の手の届く範囲に悩み困る者がいるならば手を差し伸べるのがシスターというものだよ」


 シスターから発せられるその絶対的な雰囲気に、僕は気が付いたら両手を合わせ拝んでいた。


「そっちの坊やは何を拝んでいるんだ。私はまだ死んじゃいないよ」

「あ、いや、つい無意識で……ハハハ」

「私がアンタをシスターに選んだのは、アンタが1番シスターとして相応しいと純粋に思ったからさ。人の痛みが分かり、自然と手を差し伸べてあげられるその優しさが、ロセリーヌの真の実力さ」


 聞いていたロセリーヌさんはいつの間にかうっすらと目に涙を浮かべていた。


 何故か僕もつられて泣きそうだ。意味分からない。堪えろ。今はシスターとロセリーヌさんの時間だぞ。


「シスター……でも私、一体どうしたら皆が認めてくれるのか分からない……。他にも私より凄い人達がたくさんいるのに」

「アンタは後ろに下がり過ぎる。控え目で謙虚と言えば聞こえはいいが、女の世界でも生き抜くにはそれじゃあ無理だねぇ。


今言ったが、アンタのシスターとしての素質は間違いなく今のブロッサム大聖堂の聖女達の中で一番だ。贔屓じゃない。それをしっかり分かっている者達もいる。


しかし、どれだけ綺麗事を言おうとシスターという座は一つしかないのさ。選ばれた者がいるなら当然、そうでない者が生まれる。エンビアにはある意味カリスマ性があるからねぇ。そこが彼女の魅力であり、今のロセリーヌにとっての脅威さ」

「あの子にそんな一面が……」

「魔力も高いし、聖女としても力がある。攻撃的な魔法が得意みたいだから、どちらかと言えばアンタ達みたいに冒険者向きだね。ハッハッハッ! どうだい坊や、エンビアをアンタの仲間にスカウトする気はないかい?」


 勿論冗談で言うシスターであったが、ティファーナはあからさまに嫌な課をしながら僕を睨んできた。


 そんなに睨まなくても……冗談じゃないか。きっとエンビアって子も嫌に決まってるんだから。


 僕がそう思っていると、笑っていたシスターが再び真剣な顔つきになった。


「ロセリーヌ。こればっかりはアンタ自身がどうにかするしかない。年寄り扱いされたくはないが、私もいつかは次の世代に託さねばならん。願わくばそれをアンタに継いでもらいたいのさ。まぁどうしても嫌って言うなら強制はしないけどねぇ」

「決して嫌という訳ではないの……。寧ろとても嬉しい。私もブロッサム大聖堂が好きだから、皆の為に頑張りたいと思ってる」

「じゃあやっぱり実力行使ね! ロセリーヌ、エンビアみたいな子はもう力で負かすしかないのよ」

「それは……」

「極論答えはティファーナの言う通りさ。何処かで白黒ハッキリつけなくちゃね」

「シスターまで……。それでも私は、誰かと無意味に争いたくないわ」


 柔らかい雰囲気ながらも、ロセリーヌさんはシスターに力強くそう言った。


「ハッハッハッ。別に戦って決めろなんて一言も言っていないさ」

「え? じゃあ……」

「要は、アンタ以外にシスターは務まらないって事を皆に分からせればいいんだよ。“実力”でね」


 意味ありな発言をするシスターに、ロセリーヌさんは困惑している様だった。


 この場にいた僕にも分からない。ロセリーヌさんも腑に落ちない様だから当たり前と言えば当たり前。でも、シスターは絶対何か策でもあるのだろう。その言葉は冗談でもハッタリでもないと思えてしまったから。


「なぁに。心配する事は無い。アンタはしっかり皆を納得させだけの“力がある”。何にせよ、明日私が大聖堂に戻って説明すれば全て片が付く。ドンと構えてな!」

「頑張ってねロセリーヌ! 私も明日応援に行くから、絶対に勝ちましょう!」


 当然の如く行く気なんだねティファーナ……。

 まぁここまできたから僕もそのつもりだけど。


「そんな事でいちいち悩んでないで、アンタもたまには遊んできな! 女の武器でそこら辺の男達を弄んでおいで。少しぐらい使わなきゃ宝の持ち腐れだよ」


 シスターはニヤニヤしながらロセリーヌさんの体を見て言った。


 そして当然の如く、僕もついつい視線がロセリーヌさんにいってしまった。


 何度見ても、ボンキュッボンの抜群のスタイルが服の上からでも分かる。あれで誘惑されたら世の男なんて一網打尽だ。


「そのぐらいで恥ずかしがるんじゃないよ。そんなだからエンビアにも攻撃されるし、そこの坊や程度の視線しか奪えないんだよ」

「えッ⁉」


 最後にとんでもない爆弾を放り込まれた。


 シスターがそんな事言うからロセリーヌさんも僕を見ざるを得ないじゃないか。


 わーわーわー!何とも気まずい空気。


 ここで「違います!」と直ぐに反論出来たら良かったのに、図星だからもろ顔に出た挙句、言葉も出ないんじゃ終わりだよ……。


「アッハッハッハッハッ!」


 笑ってる場合じゃないでしょシスター!って、まぁ僕のせいだけどさ。


 だってしょうがないじゃん。あんなの自然と目がいっちゃうよ。誰だってそうさ。


 そんなこんなで、僕は開き直って、ティファーナとロセリーヌさんと病室を後にした――。




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