49 シスター
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~ロマン街・とある病院~
という訳で、僕達は早くもシスターのいる病院に着き、「やっぱり迷惑だから止めておこう」という僕の抑止なんて聞く筈もなければ、戸惑うロセリーヌさんにも一切目をくれず、気が付けば病院の人にシスターの病室番号を聞いて病室まで訪れた僕達の目の前には当然の如くシスターが現れた――。
現れたというのは失礼か。僕達の方から出向いたんだから。
「――何だい慌ただしいね。……って、ロセリーヌじゃないか。どうしたんだい?」
僕の第一印象は“強そう”だった。
勝手にイメージしていた僕のシスターは、何でも受け入れてくれる様な暖かく懐が深い雰囲気と人を包み込む様な言葉の数々。標準の顔がもうそれはそれは優しく、全てを見透かしていると言わんばかりのくしゃくしゃっとした素敵な笑顔をしている。シスターを見た人がついつい有難くて拝んでしまう様なそんなイメージ。
だが、今僕の目の前にいるシスターであろうその人は、僕が思っていたシスターのイメージとは少し違った。
「あなたがシスター?」
「ん? まぁ私はシスターだが……誰だい? この如何にも元気一杯そうなお嬢ちゃんは」
流石シスターと言うべきだろうか。やはり人を見る目がある。まぁティファ―ナに関しては普通の人が見ても分かりやすいけど。
「シスター! 何でロセリーヌを次のシスターに指名したの?」
おいおい。確かにそれを聞きにきたけどテンポが速過ぎるわ。
一瞬驚いた顔をしたシスターであったが、何故か急に笑い出した。
「アッハッハッハッ! 何だいこのお嬢ちゃんは本当に。初対面の第一声がそれとは笑わせる」
「シスター、もう体調はいいの?」
「ああ。そんなものはすっかり良くなってるさ。大袈裟過ぎる」
笑い方も雰囲気も豪快だ。思っていたシスターはまさに真逆。
「それなら良かった。あまり無茶はしないでね」
「ロセリーヌも他の皆も心配し過ぎだね。私はピンピンしてるわ。それよりも、まぁ何とも面白い友達を連れ来たじゃないか。私は確かにロセリーヌをシスターに指名したよ。でも、それがお嬢ちゃんと一体何の関係があるんだい?」
「関係大ありなの! シスターが理由も言わずに入院しちゃったからロセリーヌが大変な事になってるのよ」
ティファ―ナが勢いよくそう伝えると、シスターは何かを察したかの様に頷いた。
「大変な事って……ああ、“エンビア”達かい?」
誰かの名前だろうか……?
その言葉が出た瞬間、ロセリーヌさんの表情が少しだけ暗くなった気がした。
「エンビア? それってもしかしてロセリーヌをイジメていたあの女?」
「知っているのかいお嬢ちゃん。成程。私が理由も言わずにアンタを指名したから、エンビア達の嫌がらせが“本格的に”始まった訳だね。ハッハッハッ! 本当に分かりやすい子達だよ」
シスターはまた豪快に笑い出した。
「笑い事じゃないよシスター! ちゃんと皆が納得する様に説明しなきゃ」
「残念だけどねぇお嬢ちゃん。アンタも女なら分かるだろう? 幾ら私が理由を話した所で、ロセリーヌを嫌っている子達の意見は変わらないよ。それどころか、余計に反発が酷くなるだけさ」
シスターの言い分はとても説得力のあるものだった。今まさにシスターが言った展開が簡単に想像ついてしまう。
「面倒くさい女の世界でも、力がものをいう時ってのはあるもんさ。ロセリーヌ、皆を納得させるのは私じゃなくアンタだよ。エンビアみたいな子は圧倒的な力の差を見せつけないと絶対に折れない。まぁエンビアは折れたとしても、虎視眈々とアンタを狙うだろうがねぇ。ハッハッハッハッ!」
「あのエンビアって子そんなに質が悪いのか……」
「ほらね、やっぱり決闘で決めるしかないのよ! そうと分かれば直ぐに倒しましょうよエンビアを!」
仮にそうなったとしても君が戦う訳じゃないんだから、いちいち魔力を高めるなって。勢い余って魔法発動しそうだから止めてくれよホントに。
「ハッハッハッ。見た通りに景気の良いお嬢ちゃんだ。“人魚のくせに”陸でもそれだけ動けるとはねぇ。お嬢ちゃん名前は?」
「私? 私はティファ―ナ。よく分かったね! 私が人魚だって」
「年寄りだからって甘く見てもらっちゃ困るよ。まだまだ若者にも負けんさ」
笑いながら話すティファ―ナとシスターは気が合うみたいだ。
「シスター!!」
「……?」
そんな事を話していると、控え目なロセリーヌさんが突如大きな声を出した。
シスターは勿論、僕とティファ―ナも反射的にロセリーヌさんを見ていた。談笑していたシスターとティファ―ナとは真逆の表情をしていたロセリーヌさん。彼女は服の裾をギュっと掴み、唇を噛み締めていた。
「……何だい? 何か言いたそうな顔だねぇロセリーヌ」
笑っていたシスターは、静かな口調でありながらも真っ直ぐにロセリーヌさんを見つめながらそう言った。
そして、数秒続いた沈黙の後、口籠っていたロセリーヌさんがゆっくりと口を開いた。
「何で……何で私が……次のシスターなの……?」
「アンタに言ったところで意味はないよ。しかしね、決して贔屓で選んだ訳じゃないんだロセリーヌ」
優しく語り始めたシスターは、この時だけは僕が思い描いていたイメージ通りのシスターだった。




