46 聖女は突然に
「――ホント目障り!」
「視界に入らないでくれる?」
正面に向かおうとしていた僕達に聞こえてきた声。
聞き間違いでない限り、桜の木の向こう側から聞こえたその声は、その美しいブロッサム大聖堂とは余りにかけ離れた印象の言葉だった。
「何? 誰か喧嘩でもしてるの?」
「うわ、ティファ―ナ! そんな所から覗き込んじゃダメだってば」
ティファ―ナは、ブロッサム大聖堂を囲っている柵の間から、覗き込む様に顔を出した。
柵の直ぐ向こう側に桜の木が連なり、大聖堂はそこからもう少し奥の位置。そしてその大聖堂の近くに人影が確認出来た。ここからだと約20mぐらいかな。人数は4人。見た感じ全員女の人だと思う。しかも観光とかじゃなくて、あれは恐らく大聖堂にいる聖女とかシスターと呼ばれる人達だきっと。4人とも同じ修道服を着ているし。
それにしても、今さっき聞こえて声はどうやら聴き間違いではないらしい。ここからでも明らかに揉めているのが分かる。いや、あれは揉めているというより、一方的なイジメというのが正しいだろう。
「そんな……私はその様なつもりは……」
「うるさい。そんな言い訳聞き飽きたわ」
「そのおどおどした態度も鬱陶しいのよね!」
「その様なつもりは……ですって。キャハハ」
見た感じ構図は3対1。如何にも控え目で大人しそうな眼鏡を掛けた人が、残りの気の強そうな3人に何やらキツイ言葉を吐き捨てられている。これは良い事なのか悪い事なのかは分からないが、桜の木が沢山植えられている大聖堂
の敷地。そのせい? そのお陰? どちらか分からないが、僕達のいる外からでは確かに敷地の中は見えづらい。
ブロッサム大聖堂にいる修道服を着た人達は、勿論自分達の生活や役割が合ってここにいる。少なくとも観光の事まで考えられているだろうから、お互いにとって見えづらい方がメリットは大きいと思う。大聖堂の人達は外からの目線が気になってしまうだろうし、ずっと見られていたら気が休まらないもんね。
当然、それが理由でここまで桜の木が植えられている訳じゃないけど、程よいブラインドになっているとは思う。
その証拠に、今僕とティファ―ナが“している”様に、中を見ようと思って覗き込まない限り確認する事は出来ない。
「最低。ジル、あの人達イジメてるよアレ。助けないと」
「いや、確かにそうだとは思うけどさ、だからと言って僕達が口を挟む立場でもなッ……って、おいおい! 何してるの君は⁉」
今の今まで真横にいた筈のティファ―ナが、いつの間にか高い柵を超えて彼女達の方へ歩いて行ってるじゃないか! 何故⁉ いつの間に!
「ちょ、ちょっと待ったティファ―ナッ! あ。ヤバいぞ。何か大事になりそうだコレは。マズいマズいマズいマズい――」
僕にこの高い柵を超えるのは無理。出来ない事は諦めて、猛烈ダッシュで大聖堂の正面に向かって回り込むしかない。急げ!
「――ねぇ。イジメなんて止めなよ」
「……この子誰?」
「え? 知らないわよ私」
「私も……。何なのよアンタ。ここは私達“聖女”以外立ち入り禁止よ!」
「そんな事言われてももう入っちゃってるし。行こう、眼鏡のお姉さん」
「え、ちょ……ちょっと」
「待ちなさい! 勝手に何処行く気よアンタ!」
「そもそもどっから湧いて出たのよこの子。どう見ても年下よね?」
「ちょっと見た目が可愛いからって出しゃばってんじゃないわよ」
「あ、あの……」
「こういう人達は無視無視! 魚人族でもいるんだから、こういう嫌な人達」
「ちょっと! 待ちなさいって言ってんでしょアンタッ!」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
よしよしよし。明らかに一触即発の雰囲気だったけどギリ間に合ったぞ。
「ジル」
「今度は誰? 何あの子……」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………っと。ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
疲れた。めちゃくちゃしんどい。でも何とか止められたよね。間に合わないと思って遠くから大声出した甲斐があった。丁度良い事に、桜の木が外からの視線を遮ってくれている。この桜が無かったら、一体僕はどれだけの人に変質者のレッテルを貼られていただろうか。もしもを考えただけでゾッとするよ。
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
「マジで何なの? この子疲れすぎて話せなそうだけど」
「そんな事どうでもいいわよ! それよりアンタこっち来なさいよ!」
「ちょっと待った!」
とは言ったものの、どうしよう。明らかに関係ないのは僕達だ。何を言われても僕達が不利だ。
「いいわよ。気に入らないなら勝負するしかないわね!」
やたらと好戦的だなティファ―ナ。どうしたんだよ君まで。兎に角魔力を高めるのを今すぐ止めるんだ。ほら。冒険者でもない彼女達にそんな魔力見せつけたら……ね。怖がって逃げちゃったじゃん。そんな脅し方しなくても良かったんじゃない? まぁ一先ずまとまったから結果オーライという事にしておこう。
「あ、あの~、あなた達は……?」
逃げていった3人とは別に、眼鏡を掛けた女の人が僕とティファ―ナに問いかけてきた。
「私はティファ―ナ! 宜しくね」
「僕の名前はジルです。突然すいません。全く関係ないのに割って入ってしまって。ティファ―ナも先に謝りなよ」
「どうして? 悪いのはさっきの人達だよ」
「いやそれはさ……」
僕が返答に困っていると、眼鏡の女の人が口を開いた。
「アナタ達のお陰で助かりました。ティファ―ナちゃん、ジル君」
そう言って優しく微笑みかけてくれた眼鏡の女の人は、良く見るととても端正な顔立ちで、修道服の上からでもわかるぐらい、胸が大きかったとさ――。
舞い散るピンク色の花びらが、僕達の運命的な出会いを演出するかの様に、彼女のそのはち切れそうなバストの上へと静かに舞い降りた――。
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