44 バレンが跳ねる
♢♦♢
~ロマン街~
「――花が一杯! 綺麗な街だねジル」
「本当だね。凄いや」
僕達は“ロマン街”という街に来ていた。ここは王都に比較的近い為、人も多く街全体が活気づいている。
このロマン街は、今ティファ―ナも言ったが、美しい街として有名な街である。街の至る所にに綺麗な花が咲き誇っており、別名「花の街」とも言われている程だ。温暖な気候で過ごしやすく、観光目的の人も大勢来る。
そして、ロマン街はその花ともう1つ。同じぐらい有名なものが直ぐ近くにあるのだ。
それが今僕達の目の前に見えるメイリーン山。標高8,000m以上の山が天高く聳え立つ。そのメイリーン山の麓の1番近くにあるのがこのロマン街。
「花なんかより登るぞ、メイリーン山」
「話聞いてなかったのかディオルド! マスターが言ってたじゃないか。大賢者と呼ばれるその人がたまに、“麓の街に下りてくる”って」
そう。マスターから聞いた神のお告げ。
それは、嘘か誠か定かではない情報だが、その大賢者と呼ばれる人がたまにこのロマン街へ来ると言うのだ。それならば無理して登る必要はない。見れば見るほどデカ過ぎるよ山が。無理です。遭難します。
「だからってよお頭。ソイツがいつ山下りてくるのかも分からねぇし、そもそも本当にいるかさえ分からないんだぜ? それをわざわざ待つってマジかよ」
「いるか分からないんだから尚更危険を冒す必要がないじゃないか!」
「チマチマしてやがるなぁ。分かった。じゃあやっぱり俺がパッと行ってくるからよ、お頭は花でも見て待っててくれ。大丈夫。本当にいたら連れてくるからよ。それなら魔力の事聞けるから問題無いだろ?」
いや確かにそうだけど、僕は皆に無理して危険な所に行かないでほしいんだよ。でもディオルドの事だから言う事聞かないぞ。困ったな。
「いくらディオルドでも危ないって。ティファ―ナもバレンもさ、別に無理しなくていいんだから。下りてくる可能性があるなら少し待とう。僕は皆が心配だよ」
「ったく、本当に優柔不断で心配性で疲れるぜ。ならこうしようぜ? 確かにメイリーン山はそこそこ危険だ、だからティファ―ナとバレンはお頭とここに残ってくれ。俺が1人で様子を見てくる。危なそうだったら直ぐ引き上げてくるからよ」
………………は??
やはり彼は言う事を聞いてはくれないみたいだ。
あたかも今、まるで皆が納得するかの如く提案したがちょっと待て。騙されないぞ僕は。だって結局言ってる事が一緒じゃないか! 何だそのクソみたいな提案は。おっといけない、口が悪くなってしまった。
「分かった。だったら間を取って俺が行ってくるゲロ」
また意味の分からない事を言い出したぞ。
「ジルは皆に危険が及ぶのを心配している。そしてせっかちなディオルドは山に行きたい。2人の意見を汲み取るなら、俺が行くのが1番いい解決方法ケロ」
「何か方法あるのか?」
まさにそこだよ。どうする気だバレン。
皆がそう思っていると、また何とも奇天烈な答えが返ってきた。
「俺がちょっくら跳んで見てくるゲロ」
………………は??
何を言い出すかと思えばこのカエルめ。
おっとっと、ダメだダメだ。またつい口が悪くなってしまった。ここ最近朝から晩までずっと一緒に過ごしているから、結構皆の事分かってきたつもりでいたんだけど、やっぱりティファ―ナもディオルドもバレンもクセが強過ぎる。これは僕が可笑しいのか? ううん。そんな事ない。この3人に出会う前は、こんな驚く事も理解出来ない事もなかったもんね。
「おお。蛙らしい発言だな。跳ぶって勿論、魔女みたいな箒じゃないよなまさか」
「当り前だ。そんな魔法使えん。蛙は蛙らしく跳ねるんだゲロ」
これはツッコむべきなのだろうか。
「よし皆。俺に“30秒”だけ時間をくれケロ。そうすれば、山に行く行かない問題を解決出来る」
そう言いながらバレンは体を伸ばしたり屈伸したりしている。いやマジで何をする気ですかバレンさん。
僕の心配を他所に、軽く体をほぐしていたバレンの動きが止まるや否や、突如一気に魔力を練り上げた。
普段は人間の様に二足歩行をしているバレン。しかし何やらしゃがみ出し、如何にも“蛙っぽい”姿勢を取り出した。
「行ってくるゲロ!」
次の瞬間、しゃがんでいたバレンがロケットの様にぶっ飛んで行った。
――ビヨォォォォォォォォン!!
「何だアレは……⁉」
まさか、蛙の“跳躍”とか言うんじゃないよね? 跳ねるどころか本当に飛んでるじゃん! あれで山も登る気なのひょっとして。登山をジャンプなんてそんな馬鹿な事あっていいのかい。
「おおー。やるなバレン! お頭の魔力で身体強化のバフが凄いぜ」
「バレン凄~い!」
身体強化のバフって、強化魔法のバフなんて域を超えてるよこんなの。
驚かないと決めていたのに、久々にちょっと驚いてしまった。でも今までに比べたら驚いている内には入らないな。よし。今のはノーカウントにしよう。驚かない記録はまだ更新中だ。
あれよあれよという間にそろそろ30秒ぐらい――。
流石にまだ帰ってこれなッ……『――ビヨォォォォォォォォン!!』
「うわッー⁉⁉」
そんな事を思っていた刹那、遥か上空から凄まじい勢いでバレンが僕達の所へ飛んできたのだった。
「ただいまケロ」
「おかえりバレン!」
「いたか?」
だからちょっと待てって。何故そんな普通に会話を始められるんだ。もう“普通”という感覚が可笑しいんだなこの人達は。
「いなかったゲロよ」
「なんだよ。やっぱ噂だけのデマだったか~」
「残念だったわね。まぁ気を取り直して観光して帰ろう!」
「いや、確かに“人”はいなかったけど、山頂に誰かが住んでいる小屋はあったケロ」
「――⁉」
まさか本当にメイリーン山の頂上に、大賢者が住んでいるのか⁉
しかも当たり前の様に言ったが、バレン、君はどうやら本当に頂上まで行ってきたみたいだね。人はいないけど小屋はあったって。しっかり確認までしてきてるもんね。でも僕は驚かないよ。話を進めようか。
いややっぱりちょっと待って。
せめてどんな感じで登ってきたか聞いておこう。気になる。
「ねぇバレン。どうやってあの山の頂上まで登ってきたの?」
「どうって、蛙らしく跳ねてきたんだよ。でも流石にメイリーン山は高かったな。“6、7回跳んで”ようやく山頂に着いたゲロ」
「…………」
どういう計算?
そもそも登山に「跳ねる」というワード自体が変なんだけど、まぁそこは置いといて。1回のジャンプで1000m以上跳ねてるって事だよね? たかが強化魔法のバフで。……うん。当初の予定通り、話を進めた方が良さそうだ。
「でもさ、小屋があって山にいないって事は、いるかもしれないよね。“ここ”に――」




