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01 人魚と婚約者

 拝啓……誰か様へ。


 追放から始まる僕の新しい物語は、スカッとするわけでもなく俺TUEEEな展開でもなければ、追放したラウギリ達へのざまぁな姿を見ることなく、この物語は終わりを迎えるでしょう。


 唯一奇跡的に起こりうる可能性としては、今ここで一度死に、何か最強のスキルや能力を持つ者に転生するパターン。


 だがそれは自分でも今言った通り、一度死ななければならない―。


 いざ死が“目の前”にあると、それはとても怖くて、とても恐ろしくて……僕には無理ですッ!



『――ヴオ"オ"ォォォォォォォォッ!!!』


「……がっ!……がばっ……ッだ、誰か!……だ!助"けてっ……!!」


 僕は今しがた、ずっと信じて疑わなかった大切な仲間達に、追放され海へ突き落とされた。そして眼前には海王・リヴァイアサンのどデカいお口が、僕を迎え入れようとしている。


 人はここまで恐怖を身近に感じると思うように身体が動かせなくなるみたいだ。

 

 このまま丸飲みされたらどうなるんだろう?

 まだやりたい事一杯あったのにな。

 女の子とイチャイチャした経験もないし、まだお酒を飲んだ事もない。それに商人として一度でいいから大儲けもしてみたかったのになぁ。


 死の直前だからだろうか、こんな状況なのに色々な事が頭を過っていく―。


 それでもどうにかしようと必死に藻掻くが何も変わらない。あまりに無意味だった。何とも滑稽だったな僕の最後は。僕は自然と目を閉じた。


 僅かな希望すら抱けぬまま、無情にも僕はリヴァイアサンのその大きな口に飲み込まれた―。


 ――バクンッッ!!!!!!


 けたたましい轟音と共に、リヴァイアサンの大きな口が海水を飲み込んだ。



 ん?ちょっと待って……。

 何故僕は今“口を閉じたリヴァイアサン”を見ているんだ??

 本当ならばリヴァイアサンの“口の中”が見えている筈じゃ……。しかも食べられる直前、誰かの声の様なものが聞こえた気がするぞ? それに何より……。


 今僕は、“何か”に運ばれている―。


「――ねぇ!大丈夫?」

「ッ⁉⁉」


 そう―。

 僕が死んで夢を見てない限りこれは現実で……僕は何故か、海を凄まじい速さで泳ぐ“人魚の女の子”に担がれていた。


「危なかったね!あなた人間でしょ?何でこんな海の真ん中で溺れてたの?」


 頭の中が「?」マークで溢れ返っている。

 何が起こったかは分からないが、取り敢えず僕は助かったという事だろうか?

 そんな事を考えている間にも、どんどんリヴァイアサンとの距離が離れていってる。


「君は……?助けてくれたの?」

「あなたが助けられたと思ってくれてるなら助けた事になるわね!私は“人魚族”の『ティファーナ』 あなたは?」

「僕はジル、ジル・インフィニート。人間だよ」

「やっぱりね。それにしても、何でこんな所に?」

「仲間に裏切られたんだ……」


 自分で言って切なくなった。そうだ、僕は仲間だと思っていた皆に裏切られたんだよな。ラウギリ達の嫌な顔が浮かんでくる。くっそ……!


 突然裏切られた事もそうだがそれ以上に、自分の弱さと惨めさに情けなくて涙が出てくる―。


 ちくしょう。一発ぐらいぶん殴ってやれば良かった。

 とは言っても、【商人】の僕のパンチなんかじゃ簡単に避けられるな。悔しいが、ラウギリ達は強いから。


「ちょっと!何急に黙り込んで。傷心の所悪いけどさ、今それどころじゃないからね!人魚族は泳ぐスピードが速いけど、逃げてる敵はあのリヴァイアサン。もっと離れないといつ狙われてッも……⁉⁉『――ヴオ"オ"ォォォォォォォッ!!!』


 拝啓……誰か様へ。


 今度こそ僕は終わりました。

 奇跡的にも、海のど真ん中で顔が結構タイプの可愛い(胸も結構ある)人魚に助けてもらいましたが、人生そんな上手くいく筈もなくこれにて終了の様です。


 彼女はきっと、僕にとって神様からの最後のプレゼントみたいなものだったのでしょう。


 あー。だけどマズイ。

 このままだと彼女……ティファーナが助からないぞ。

 助けてもらったのに、逆に僕は女の子1人も守れず、化け物に食われてしまうだけのヘボなのか。


 成程。今思い返してみれば、パーティにいた頃から僕は助けてもらってばかりだったな。こんな奴仲間にいても確かに足手まといだよ。全くもって情けない。穴があったら入りたい気分だ。


 いや、今から僕は誰も入った事が無い、リヴァイアサンの口という大きな穴へ入れるか。でも、この穴に飲み込まれるのは僕だけでいい。最後ぐらい格好良く女の子の1人でも救ってみろよ僕。男の子だろ!


「ティファ―ナ!」


 僕はティファ―ナに呼び掛けた。

 当然何か策がある訳でも、この状況を打破する最強スキルが放てる訳でもない。でも、人魚の遊泳スピードは“こんなものじゃないと”僕は知っている。


 自分が商人だと分かった時から、僕は戦闘力の代わりに何か他でその分を補おうと、微力ながら知識を得ることにした。商売は勿論、色んな種族やモンスター、魔法に関わる本を結構読んだ。そんな僕の記憶が正しければ、人魚族の遊泳スピードは異世海の全種族の中で“トップクラス”の筈―。


 リヴァイアサンはとても魔力が高く強いモンスターであるが、速さはいまいち。人魚族のティファ―ナであれば余裕で逃げ切れる。


 なのにそのリヴァイアサンに追いつかれたという事は、何かが理由で本来の力を発揮出来ていないという事。体調が悪いのか怪我でもしているのか、はたまた別の理由か。


 答えは簡単、後者―。

 僕を担いでるからだ。


 人間の僕が呼吸出来るよう海面から頭を出してくれている。でもその結果、こんな中途半端な態勢で泳いでしまっているからスピードが出せないんだ。人魚族じゃないけどそんな事誰にでも分かる。


「助けてくれてありがとう。今度は僕が君を助ける番だ」

「何言ってるの!この状況でどうやってリヴァイアサンからッ――」


 ――ザバンッ!!

 僕はティファ―ナの腕から強引に離れた。


「僕は大丈夫だから!君は早く逃げてくれ!」

「一人で倒すなんて無理よ!私に捕まっ……「いいから早く逃げろ!!」


 初めてこんなに声を荒げたな。でも分かってほしい。君とは数十秒前に出会ったばかりだけど、こんな僕を最後に助けてくれたティファ―ナ……君だけは、何が何でも守りたい―。


 こんなのは僕の勘違いの格好つけ。自己満もいいとこだ。でも、例えそうだとしても君だけは絶対に逃がすから。


 最後に君と出会えて良かった。あのまま食べられてたらあまりに酷すぎる人生だったよ。下級魔法1発。僕に出来る最後の事だけど、ほんの一瞬隙が生まれれば君なら逃げ切れるよね。


 僕は手の平をリヴァイアサンに向け魔力を練り上げた。卵ぐらいの小さな火の弾。商人の僕じゃ攻撃魔法などこれが限度。


「ありがとう。そしてさようなら……ティファ―ナ」


 不思議だ。さっきまでの恐怖がまるでない。

 本気で覚悟を決めた時ってこうなるんだ。

 僕は出した火の玉を、リヴァイアサンの“目”に勢いよく放った―。


 威力はまるで無い。しかし目くらましには十分だ。奴も少しだけ怯んでいる。さぁティファ―ナ、この隙に逃げ切ってくれ!


 そんな泣きそうな顔をしないで。願わくば、最後は君の笑った顔を見せてくッ……「――もう最悪ッ!!私は“婚約者”を絶対に見捨てない!!」





……………………………………へ??


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