第7話(ヤバい奴)
樋口はヒョロっとした弱そうな男。とてもDVするように見えない、腰の低い奴だ。樋口は、俺と神子さんがtotoの師弟関係だと気付いてないのか? 知らぬ存ぜぬでやり過ごそう。
「神子の居場所を知らないんですね?」
「ええ、全く。お隣さんの顔すら知りません」
「ほう。…………てめえが隣の部屋に入るところを探偵が押さえてるんだからな! お前、嘘を吐いたな!? 神子の前にぶっ殺してやる!」
バキッ! いてえ。トンカチを振り下ろされた。隠し持ってたか。頭を狙ったようだが、かすって肩に当たった。アブねえ奴だ。2発目が来る。俺は咄嗟に腕を取り、一本背負いを決めた。グキッ!
「1発目は不意打ち出来ても、2発目は読まれるよ、雑魚が」
「痛いよー。体が動かないよー」
「玄関とフローリングの段差で頚椎がイカれたか? 正当防衛だからな。DV夫ってのはマジのようだな」
「クソー。柔道野郎だったとは」
「オエッ! 気持ち悪い」
俺は携帯電話で警察に通報した。
「こちら警察です。事故ですか? 事件ですか?」
「男がいきなり襲い掛かってきたので、仕方なく対処した」
「対処? 具体的にお願いします。犯人は他にもいますか? それと、救急車も呼びますか?」
「気持ち悪い方法で対処しました。襲い掛かってきた奴は単独です。呑気に他人の家の玄関で大の字になってますわ」
「その人は意識はありますか?」
「意識はあるようなので、救急車は結構です」
「…………今、GPSで場所を特定しました。すぐに警ら班を向かわせます」
ーー警察は数分で到着した。遅れて救急車も到着する。俺は警察の事情聴取に応じ、起きた事を全て言った。警察は樋口を現行犯逮捕して救急車に乗せた。治療しなくていいんだけどな。でも、神子さんを煩わせる事が無くなって、俺はtotoに集中出来る。
ーー数日後。俺は、樋口の刑事裁判に証人として出廷する。樋口は首から下が全く動かせない障害者になっていた。車椅子に乗ってる。
ーー樋口は殺人未遂で起訴され、検察は5年の実刑を求めた。しかし、頚椎の回復が見込めないとして、警察病院で一生を終える事になる。
俺は正当防衛が成立して無罪放免。当たり前だ。俺は、樋口の親を相手取り、民事裁判を起こした。結果は300万円の支払い。いわゆる示談というやつだ。カネはすぐに振り込まれた。
俺は2300万円も持ってるリッチマン。しかし、贅沢をしたらすぐに遣い切ってしまうだろう。そこでtotoだ。神子さんも一連の事件で俺に感謝してるようだ。神子さんのtoto英才教育にも熱が入る。
「いい? 虎二君。totoゴール3は楽勝だけど、totoは厳しいわよ。三択を13回連続で当てなきゃいけないの」
「マルチ買いをしたらいいんですよね」
「その通り! それでグッと当選確率が上がる。toto予想の注意点は、下馬評通りにいかない事。いくつか的を絞って引き分けか負けに賭けるの」
「面白いですね」
「ふふふ。ねえ、虎二君」
「何でしょう?」
「私のことをどう思う?」
「綺麗な人だなあと」
「それだけ?」
「は、はい…………」
「私は、虎二君のこと好きだな」
え、これって告白? 頭がボーっとする。
「俺と付き合っても、良いことありませんよ」
「え、私、振られた?」
「いや、そういう意味では。ずっとtotoの師匠でいてください」
「ふふふ。アハハハハ。虎二君って面白い」
「芸人じゃないですよ」
「いいわ。みっちりtotoを叩き込むよ」
さっぱり解らない。女性との距離感というか、神子さんとの距離感というか。