第6話(DV夫)
ーー月曜日の朝。俺はネットでtotoゴール3が当たってるか確認する。結果は1等8万円がヒット。
「スゲー! 嘘じゃないよね、嘘じゃ」
俺は50回くらい確認する。当たってる。神子さんが言った通り、ビキナーズラックだ。この調子で100円ビッグも頼むぞ。3枚のくじ券を何回も見比べてみた。
「…………ダメだー。100円ビッグはかすりもしてねえ。これが現実。しかし、1等が出てないからキャリーオーバーが付いたな。神子さんに報告しなきゃ」
俺は隣の部屋を訪ねる。インターホンを押すと、神子さんが出てきた。
「おはよう、虎二君。どうだった?」
「totoゴール3の1等が出ました。本当にありがとうございます」
「虎二君。2等も当たってるよ」
「何で判るんですか?」
「toto系のマルチ買いで1等が出ると、必然的に2等も当たるのよ。おめでとう」
「神子さんはどうでした?」
「私は、ビッグの4等とtotoの3等よ。大した額じゃないけど、元は取ったわ」
「凄い」
「これで契約ね」
「契約?」
「ボディーガード」
「あっ。はい、任せて下さい」
「あと、totoの換金は基本的に火曜日からよ。そしたら信用金庫に行って券を窓口に出してね」
「分かりました」
ーー俺はもう一度お礼をしてから自分の部屋に戻ると、電話が鳴っていた。また少子化庁の奴かな? 相手の電話番号を見てみても知らない奴からだ。
ビー…………ビー…………。何度もかけ直してくる。なかなか諦めないな、こいつ。仕方ない、出てやるか。
「もしもし? どちら様?」
「家を売るとはどういう了見だ!」
「誰だ、てめえは」
「お父さんだ!」
毒親からかよ。死ねばいいのに。逃げたクズが。
「俺に父親はいません。電話番号を間違えてますよ」
「嘘を吐くな! お前の番号は判ってるんだからな!」
「慰謝料を払う気にでもなったのか?」
「お前を、勝手に家売り罪で告訴する!」
「なんだそりゃ。少しは法律の勉強してから出直せ、雑魚が。お前は幼稚でわがままなんだよ」
「煩い! 親をバカにしてるのか!」
「バカにしてるよ。お前、絵に描いたようなヴィランだな」
「また訳の分からない事を言うなー!」
「100億円を払わなきゃ、お前は死刑だ。今、逆探知してる。居場所を警察に通報してやる」
ピッ。ツー…………ツー…………。一方的に電話しといて、一方的に切る。ウザいだけで生きてる価値ねえ奴だ。逆探知のハッタリにまんまと掛かりやがって。
俺はtotoゴール3の当たり券を眺める。素晴らしい! しかし、ビキナーズラック。次は気を付けた方がいいな。
ブーン。あれ? 神子さんのSUVがアパートの駐車場から出た。お出掛けか。エキゾーストノートで判ってしまう。車両価格で5~600万円ってとこだ。働いてないのに……いや、totoは投資だ。
ピンポーン。誰か来たようだ。郵便かな? 毒親だったらぶん殴ってやろう。インターホンの画面を見ると知らない男が立っていた。
「どちら様?」
「樋口と言います。今、時間ありますか?」
「はい。何でしょう?」
「隣に住んでる、樋口神子の旦那なんです。どこに出掛けたか分かりますか?」
「ちょっと待っててください。ドアを開けます」
「はい」