第4話(出会い)
ーー俺はすぐに釈放された。生活保護課の担当者の暴言を他の人が聞いていたからだ。もう嫌だ。生活保護なんて受けたくない。生活保護受給者は人間扱いされない。
ーーそして、毒親を訴えた最高裁の判決が出た。結果は3000万円の支払い命令だ。だが毒親は逃げた。蒸発ってやつだ。結局、俺の手元に来たのは20万円程。俺は毒親に対して殺意しかない。見つけ出して、キッチリ落とし前を着けてやる。
俺はまず、毒親が住んでいた自宅と土地を売却した。稲葉家は400年続いた名家だったが、俺の代でお取り潰しだ。トータルで2000万円程になった。
俺は弁護士の紹介で住み始めたアパートで暮らす。すると、空き部屋だった隣に誰か越してきた。俺は様子見に行くと、最低最悪。小中といじめグループの下っ端の高間だった。子分肌で正直、雑魚だ。
「よう、稲葉じゃねえか。こんな所に住んでんのか」
「クソガキは黙ってろ」
「なっ……」
俺はドアを閉めて、弁護士に連絡する。アパートを変えてくれと。すぐには無理だと返ってきた。
その日から高間は騒音トラブルを起こす。高間にとっては、これが通常運転だ。ただでさえ睡眠薬が効かないってのに、これは地獄だ。高間、死ねばいいのに。
そして俺の引っ越し先が見付かった日。明日からストレスフリーになれると思ったが、アパートが火事になった。原因は高間のタバコの不始末だった。どこまでも迷惑な奴だ。
俺は警察や消防に、高間は放火魔だと風潮した。悪党は成敗しないとね。
ーー俺は新たなアパートで暮らし始めた。前のよりボロいけど苦じゃない。但し心理的瑕疵がある。いわゆる事故物件ってやつだ。過去にこの部屋で孤独死があったらしい。
実家の土地建物の売却で得た2000万円をどうやって増やそうか、そんなことを考えていた時。お隣さんの羽振りが良く感じる。車は国産の高級SUV。不定期に出掛け、すぐに帰ってくる。働いてないのか? 俺はダメ元でお隣さんの部屋を訪ねた。
ピンポーン。不思議と俺は緊張してない。
「はい。どちら様?」
「あ、隣の稲葉と言いますが」
30代半ばの女性で綺麗な人が出てきた。
「ご用件は?」
「あの……働いてます?」
急に何を言ってんだ、俺! 不躾にも程がある。
「あなた。探偵じゃなさそうね」
「探偵?」
「DV夫から逃げてきたのよ。あいつが雇った探偵だったら刺してたわ」
女性は背中に回してた手から包丁を俺に見せる。
「DVですか。大変ですね」
「今は働いてないわ。元々、夜の蝶だったの」
「ウォータービジネスですか」
「あなた、アルコール依存症?」
「えっ?」
「ほら、左腕が震えてる」
俺は、ハッとする。知らぬ間に緊張していた。だから、手が震える。
「緊張しやすいんです。毒親に育てられてしまいまして」
「そう。あなたも幸せな家庭に恵まれなかったのね。良いこと教えてあげる」
「何ですか?」
「totoよ。totoの当て方を教えてあげる」
「totoって確かスポーツ振興くじの事ですか?」
「そうよ」
「ギャンブルですか」
「いいえ違うわ。totoはギャンブルじゃない。投資よ。これでも5回は1等を当ててるんだから。私は神子。宜しくね」