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無名戦士たちの・・・  作者: 乙枯
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1942年8月、コーカサス

戦友を信じ続けた機関銃手は最前線で孤軍奮闘の果てに・・・

 6月28日から開始された攻勢は順調に推移し、ドイツ軍は快進撃を続けていた。

 南方軍集団が二つに分けられた当初は不安もあったものの、我がA軍集団は目標だった油田地帯を席巻しようとしている。

 ソ連軍は最早力尽き、崩壊しつつある・・・偉いさん達はそう考えているらしい。

 戦友たちはこの調子でエジプトの裏門まで行けると信じていた。

 だが、その前にはまだ越えねばならない障害が残されている。

 コーカサス山脈・・・そこにはソ連第37軍が立て籠もって絶望的な抵抗を続けていた。


 あの修道院を獲って来い・・・そう命じられた。

 俺たちの目の前の峻険な山の頂に、名前も良く分からない古い修道院が建っていた。そこにソ連兵(イワン)共が立て籠もって抵抗を続けているんだそうだ。

 修道院からちょっと降りたところに平地があり、イワンは迫撃砲陣地を作ってそこから見下ろせる街道に狙いを定めていた。

 街道を走っていた補給部隊がやられ、迫撃砲陣地への攻撃が実施された。

 これまで二度行われた攻撃によって迫撃砲陣地自体は破壊されたが、そのすぐ後方の修道院にはまだイワン共がしぶとく居座っている。補給路の安全確保のため、あの修道院は攻略されねばならない。


 Sd.Kfz.251(ハーフトラック)で行けるのは修道院への登り口までだった。そこからまだ四百メートル以上あるが、ここから修道院までの道は修道院からほぼまる見えで死角はない。

 イワン共は攻めて来る俺たちを好き放題撃てるって事だ。

 だが、向こうから狙えるってことはこっちからも撃てるという事でもあった。俺たちは友軍の制圧射撃でイワン共の頭を抑え、その間に前進する。

 しかし、現実はそう簡単にはいかない。

 友軍の援護射撃の死角となる壁の割れ目の奥や窓の奥から、イワン共(やつら)九十九折(つづらおり)になった登り坂の《《どこか》》を一方的に撃つことが出来る。うっかりそこへ足を踏み込めば容赦なく弾が飛んでくる。

 既に二人が斃れていた。どちらも俺と同じ分隊の奴だ。しかもそのうちの一人は、機関銃チームの第二射手だった。

 だが、ここで停まるわけにはいかない。俺はMG34(軽機関銃)を担ぎ、戦友たちと共に銃弾降り注ぐ坂道を駆け上がった。


 坂道を登り切り、迫撃砲陣地跡にたどり着く前に、誰だか知らないが更に三人斃れたのは憶えている。

 迫撃砲陣地跡付近には石造りの小屋だったらしい廃墟があった。その小屋は腰の高さぐらいまでの壁を残して完全に崩れ去っている。

 無事、そこまでたどり着いた俺はその廃墟の石壁の右側・・・修道院とは逆側に飛び込み、伏せた。

 そこは丁度修道院から死角になる安全地帯だった。

 同じように、別の壁の影や立木の影に戦友が隠れる。

「誰が残ってる?」

「俺とハンスだ!」

 俺が訊くと同じ分隊のオットーが答えた。

「他は!?」

「分からん!」

 ここにたどり着けたのはどうやら俺を含めて三人だけのようだ。その中に機関銃チームの奴はいない。MG34の弾は手持ちの分だけってことだ。


 左側の崖の上の修道院から俺たちの周りに容赦なく銃弾が降り注ぐ。

 麓の友軍からは修道院の西側しか狙えないが、死角になっている南側からは俺たちを狙い放題だった。

「どうする、戦友!?」

「今更引けるか!

 後続が来るまでここで踏ん張るぞ!」

 前を見ると修道院から出てきたイワン共がM1891小銃(モシン・ナガン)を抱えて迫ってきていた。

「きたぞ!」

 こっちが三人きりだからって熱烈に歓迎してくれるらしい。わざわざ御苦労なことだ。弾はドラムマガジンに納まった五十発しかないが、イワン共の歓迎(げいげき)感謝(だんがん)を送るのを惜しむわけにはいくまい。

 俺はバイポッドを立て、MG34を据えるとリアサイトを立てて構えた。

 ハンスとオットーはそれぞれKar98(ライフル)を撃ち始めていた。

 右側へ回り込もうとしているイワンに狙いを定め引き金(トリガー)を引く。

 たちまち無防備に姿を晒していたイワンが斃れた。

 だが、全滅させたわけじゃない。まだ岩陰や木立の向こうに何人か隠れてこっちの様子をうかがっていやがる。

 こっちが修道院からの射撃を浴びて亀みたいに首を引っ込めてると思って突撃したのに、平気で撃ってきたものだから用心深くなってしまったようだ。

 本当なら、俺はMG34でイワン共が隠れているあたりに撃ち込み、敵が顔を出せないようにしておいて、その間に歩兵が突撃・・・一挙に制圧する。

 だが、今はそれをやれるほど残弾に余裕が無い。

 修道院からは相変わらず好き放題撃たれまくってるってのに、こっちは前方のイワン共が顔を出した瞬間を狙ってちょっとずつ撃つことしかできない。下手に連射なんかしたらあっという間に弾が無くなってしまうからだ。

 それを知ってか知らずか、イワン共はこっちの射撃が納まったのを見計らって間欠的に射撃や突撃を繰り返している。

 あれから更にイワンを何人か撃ち斃したが、イワン(やつら)の戦意はまるで衰えを見せない。

 くそっ、奴ら死ぬのが怖くないのか。

 修道院からの射撃は衰えを見せないし、前方で隠れているイワンはむしろ増えているようだった。

 MG34からは既に二十発分くらい、弾の抜けた弾帯(ベルト)がはみ出ていた。残弾は三十発を切ってる。

 それまで三発ずつ連射してしたが、俺は弾を節約するために二重引き金(デュアルトリガー)の上側に指をかけなおした。

「うあっ!」

 左から誰かの悲鳴が聞こえる。

「どうした!?」

「オットーがやられた!」

 ハンスが切羽詰まった声で叫ぶ。

「オットー、オットー?!」

「死んでない!左手をやられただけだ、まだ生きてる!」

「一人で手当てできるか?」

「大丈夫だ、やれる!できる!」

 オットーが苦しそうにうめきながら答えた。

「手当したらオットーのKar98(ライフル)と弾をくれ、こっちはもう弾が無くなりそうだ。」

 俺は単発射撃に切り替え、撃ち続けながら言った。

 もう残弾は二十発を切りそうだ。

「わかった・・・ちょっと、待っててくれ。」

 ここからじゃ姿が見えないが、声からするとだいぶ苦しそうだ。

 畜生、後続はまだ来ないのか。

 オットーがやられたのに乗じたのか、イワン共が三人飛び出してきた。

 左へ一人、右へ二人。

 三人とも銃剣を付けていた。

 俺は右の二人に向けて発砲。

 五発で二人斃し、続けて左の一人へ・・・三発撃ったところでそいつは死角に隠れてしまった。

 くそ、すばしこい奴!

 そっちにはハンスとオットーがいる。

「ハンス!そっちに一人行ったぞ!」

 全ての敵を俺一人で斃せるわけじゃない。俺は戦友を信じ、自分の出来る事に集中する。

「任せろ!」

 ハンスの返事と共に銃声が響いた。

 俺は三人に続いて飛び出してきた後続のイワン共に向けて銃弾を撃ち込む。

 気づけば俺たちの周りに降り注いでいた修道院からの銃撃が停まっている。

 激しい足音!二つの銃声!悲鳴!

 どうした、どうなった!?

くそがぁ(シェイセ)!」

 ハンスの雄叫び、その直後ウッという短いうめき声と共にドサッと誰かが斃れる音がした。

 決着したのか、左側からの物音は聞こえなくなった。

 俺は目の前をウロチョロするイワン共に意識を集中し、撃ち続ける。

「ハンス!ハーンス!Kar98(ライフル)と弾をくれ!

 もうすぐ弾が無くなる!」

 弾はあと十発を切っている。だが、俺は撃つことをやめない。

 今、ハンスの方へ行けば前から来るイワン共を抑える事が出来なくなる。ハンスがさっきのイワンを倒してくれていることを、もうすぐ後続が来てくれることを、俺は信じた。

 戦友を信じ、自分の最善を尽くす。自分の持ち場を守る。石のように。

 そう、石なのだ。俺たちは石ころだ。

 風に吹かれようが雨に打たれようが動かない。そんな石っころこそが勇者なんだ。

 だから俺もここから動かない。

「くそったれのイワン共!俺のケツを舐めやがれ!!」

 俺は撃ち続けた。

 残弾は残りわずか。

 その時、背後に足音が近づいてきた。

 ようやく戦友が駆けつけてくれたのだ。

「弾だ!弾をくれ!

 もう弾が無くなる!」

 俺は前方のイワン共を撃ちながら、後ろから駆けつけてくれた戦友に向かって叫んだ。

 

 グサッ


「うっ」

 だが、背後から駆けつけたのは戦友では無かった。

 私の身体に無防備にさらされた背後から銃剣が突きたてられた。

 さっき、私の死角、左で斃されたのはイワンではなくハンスたちだったのだ。

 後続の戦友は間に合わなかった。私はここで敗北するのか?

 いや、まだ終わってはいない。

 私はMG34から手を離し、腰のホルスターから拳銃を引き抜いた。

「ぐあっ!」

 しかし、私が振り返る前にイワンは銃剣を引き抜き、再び刺した。

 目の前が赤く染まり、思わず拳銃を落としてしまう。

 くそっ、こんなところで・・・

 落とした拳銃へ手を伸ばす私を、イワンが再び突き刺す。

「ああっ!」

 熱い、焼けた鉄の棒を突き刺されたかのようだ。

 そうか、気づくべきだったんだ。修道院からの銃撃が停まったのは、こいつが居たからだったんだ。

 今更ながら私は悔いた。だがもう遅い。

「ぐふふ、がはははは」

 勝利を確信したのだろう、背後のイワンが下卑た笑い声を漏らし始めた。


 イワンは再び銃剣を抜き、そして突き刺す。


 何度も、何度も、何度も・・・


 その、たくましい身体で・・・


 私の、もはや力も入らなくなった身体を・・・


 硬く、鋭く、力強い、銃剣で・・・


 何度も、何度も、何度も・・・


 私は、突かれ・・・


 突き刺され・・・


 貫かれ・・・


 突きあげられて・・・


 ああっ!・・・・ああっ!・・・あああっ!!・・・


 そして・・・


 アタシ・・・・


 とうとう・・・


 逝っちゃったんです。


この作品は私の実体験をもとに書きました。



 なんてね。



 多分、2000年代だったと思いますが、レッドオーケストラというFPSゲームをプレイしていまして、コーカサスというMapだったんですが、やはりドイツ軍兵士としてMG34を抱えて突撃し、作品のような状況で後ろから銃剣で刺されてDeathしちゃったんですよね。



 その時に、あまりにも悔しかったので・・・この小説のネタを思い付きました。



 翌日、2chにこの作品の原型となるモノを書き込んだらそこそこウケてもらえたのを憶えています。



 その時の文章は私の手元には残ってませんが、そのゲームをやってないと分からない部分も多かったので、大幅に加筆してゲームをやった事ない人でも分かるようにしたつもりです。


 ですので、あらすじとオチは同じですが、詳細は原型からはかなりかけ離れている筈です。登場人物も増えてるし。



 オチはもちろん宇能鴻一郎先生のスタイルの丸パクリです。



 それにしても、宇能鴻一郎先生は天才ですね。


 私も本作で真似させていただいてますが、先生の真似する人はプロにもアマにも結構いますが、そこから先生を超える人はまだいません。


 どうやって思い付いたんでしょう?


 あの表現はどういう風に生み出されたんでしょう? 



 作家と文学者の違いは新しい表現を創り出すかどうかにあると思います。


 宇能鴻一郎先生といえば官能小説作家というイメージがありますが、それまでなかった新しい表現を生み出しているわけですから、立派に文学者扱いされるべきだと信じています。


 だからといって、「これを読め」と誰かに強要するとセクハラになってしまうんで、下手に人に勧められないんですが・・・(´・ω・`)


 素直に尊敬します。


 是非あやかりたいものです。

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