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negligence

作者: ババロア

英は今年で30歳になる独身のサラリーマンだ。

性格は平凡で見た目も冴えないことは自負している。

英は毎朝電車で通勤をしているのだが、同じ駅から同じ車両に乗り込む女性がとても気になっていた。スーツを着ているのでOLだろう。年齢は同じか少し下。背は普通くらいだが、細身で顔立ちも整っている。水曜日は英は休みなので、それ以外の日は見かける。

英は声をかけようと何度も迷ったが、どうしても声をかけれずにいた。帰りの電車では一度も会ったことがないのが残念だった。

この日は体調があまり良くなく少しだけ早く帰ることにした。ホームでいつもの場所にいて、電車を待ち、乗り込んだ。いつもはあまり座らない英だったが、今日は体調が悪いため空いている席を探した。

(あっ!)

彼女が座っていた。何時何分の電車かをアプリで調べ、スクリーンショットをした。

あっという間に最寄駅に着き、気づけば彼女の後を付いていた。英の家の方向とは反対側だったが、躊躇は無かった。とにかく気づかれないように息を殺した。退屈な生活とは正反対のスリルの中、10分弱歩いた所だろうか。メゾネットタイプのアパートに彼女は入っていった。

息を潜めていたせいで窒息しそうだった肺と脳に一気に酸素を送ると彼女の行動を整理した。

まず、ポストの中身を確認。その後、自分で鍵を開け、部屋の明かりがついた。そのことから一人暮らしか恋人と同棲しているかの二択に絞った。

家の前には折りたたみの自転車が1台。ということは一人暮らしの可能性が高い。アパートの名前と表札の名字をスマホにメモすると急いで家に帰った。高揚する気持ちの中、ストーカーじみた行為をしている自分に英は驚いた。良くないことだと思い、やめることを胸に誓うと、次の日の出勤に向けて準備をした。

いつものようにアラームで目を覚ました。体調はすっかり良くなり、身支度を済ませると家を出た。そして、いつも通り彼女と同じ電車に乗り込み、会社につくと、仕事をした。

時計に目をやるとそろそろ彼女が帰る時刻だ。身体がウズウズとし始め、いてもたってもいられなかった。上司に体調不良を訴えると、また昨日と同じ電車に乗った。


(彼女だ。)

だいたいこの時間帯で帰ることに確証を得て、尾行をした。

帰り道にスーパーに寄った。何を買ったか遠目だったのでよく分からず、量を見ても何人暮らしなのか分からなかった。が、彼女はレシートをレジの不要ボックスに入れたのを見た。すかさず同じレジに並び適当な商品を購入すると、レシートを不要ボックスに入れるフリをして、彼女が捨てたレシートを取った。少し不審な動きだったことが不安だったので、尾行はやめて家に帰った。

レシートの中身を見渡すと大体一人前だった。

さらに、お酒も女性が好きそうな物のみ買われていて、一人暮らしの独身に間違いはなさそうだ。

と思ったが、ふと我に返り、恐ろしくなった。

次の日は水曜日で休みだ。何か気晴らしでもしようかと思った。

が、水曜日いつもと同じ時間に起きる。

英はマスクとメガネをし、普段着に着替えると

いつもの出勤の電車に乗った。そして、彼女の勤め先まで尾行した。降りた駅は自分の勤め先の3つ先で、そこから5分ほど歩いたところにある小さな会社に勤めているようだ。降りた駅と勤めている会社を忘れないようにメモすると、自分がストーカー気質だということに気づいた。

帰って彼女の情報をまとめると、だいぶ揃っていることがわかり、嬉しくなった。もうやめられそうにない自分がいた。

そうして、英はその後もストーカーを続け、やることもエスカレートしていった。もう彼女のほとんどは知り尽くしたし、合鍵も作った。

昨日はついに盗聴器を仕掛けた。

パソコンを起動させ、音声を聞いた。しかし、安めの盗聴器を買ったからか彼女の部屋の音が微かにダブって聞こえる。そのせいで内容が聞き取りづらく、高価な盗聴器に取り替えることにした。

そして、再度聞いてみると、まだダブっているのだ。どうしても原因が分からなかったため、超小型カメラを彼女の家につけ、映像と音声の両方で監視した。

英は衝撃を受けた。

パソコンをいじる彼女が部屋にいるが、彼女のパソコンの映像は英がパソコンで彼女を監視している姿だった。そして、英が仕掛けたカメラを外すと顔を映し、盗聴器も外してマイク代わりにした。

その映像の彼女が

「わたしは何年も前からあなたを見ていたの」

と言うと

それを見ている英を監視している映像が映った彼女のパソコンの中の彼女も

「わたしは何年も前からあなたを見ていたの」

と微かに遅れて言ったのがはっきりと分かった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  成程、ミイラ取りがミイラになったという話。面白いです。ちょっとぞくっとしましたが、彼女は振り向いてくれる為に少しずつ英君に印象を植え付けていったんでしょうね。  英君の気持ちが向いたとこ…
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