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その94


「あら玄君いらっしゃい」

「あ、お邪魔します、昨日はお宅の美子さんを」

「あー、そんな堅苦しくなくていいのよ? どうせ美子のワガママだったんだからこちらこそご迷惑お掛けしたわよね、ごめんね」

「いたッ! いたぁーい!!」



美子のお母さんは美子にゲンコツを食らわせた。 ゴチンという音がして見るからに痛そうだ。



「当たり前! 玄君の家に迷惑掛けてオマケに急に泊まるなんて。 自覚を持ちなさい自覚を! ほら、玄君に謝りなさい」

「それは今考えたら悪いと思ってるけど玄ちゃんと玄ちゃんの家の人にはちゃんと謝ったよ〜」



なんかもう既に旗色が悪くなってる気がしないでもないけど大丈夫だろうか?



「そんな事より!」

「そんな事じゃありませんッ!」

「いたぁッ!」

「あの〜……」

「あッ! おほほほッ、お見苦しいところをごめんね」

「あ、姉ちゃんおかえり〜。 玄兄ちゃんお世話大変だったでしょ?」

「ナオちゃんいい子にしてた?」

「姉ちゃんよりはね」

「これは一本取られたなぁ、あはは」



なんだこの出鼻を挫かれた感…… 俺が切り出すしかないか。



「あの取り込み中のようなんですけど美子が引っ越しするという話を聞いたんですが」

「…… お母さん」

「そうなのよ、ここに引っ越してきてまだ2年しか経ってないのに急な転勤でね…… せっかく美子もここの生活に慣れて学校も楽しそうにしてるし玄君みたいなボーイフレンドも出来たっていうのに」



あ、そういやどこに引っ越しするのかも聞いてないぞ俺。



「どこに引っ越しするんですか?」

「大分県の方にね」



大分!? 九州じゃないか。 これはちょっとどころの距離じゃないぞ…… 気軽には会えないと思ってたけど。



「美子……」

「ご、ごめんッ! だから私行きたくなくて」

「そうは言ってもねぇ。 今住んでるここも借り家で美子だけ残してお金払える程裕福でもないし何より美子だけだと不安だし」

「俺も残る、俺だって別れたくないもん!」

「ナオちゃんもお姉ちゃんと残ってくれるの? 嬉しい!」

「いや姉ちゃんは別に」

「酷い!」



そうだ、直也も彼女が居るんだもんな。



「急な話でごめんね。 美子ったらこんなに食い下がるなんて滅多にないの、よっぽど玄君の事が好きなのね」

「好き…… 大好きだから離れたくない」

「はぁ、まぁそうなるわよねぇ〜、でもこればっかりは…… ねぇ玄君?」



う…… そこで俺に同意を求められても俺もどっちかって言えば。



「俺も美子とは離れたくないって思ってます」

「玄ちゃん!」



美子は親が居ようと俺に抱き付いた。 その様子を見て美子の母さんはやれやれという感じだったが……



「まったく仕方ないわねぇ。 それはそうと今日はクリスマスなんだし玄君も一緒にいかがかしら?」

「あ、俺は」

「うん、いいと思う。 ね? 玄ちゃん」

「え? ああ」



うんまぁこうなったら仕方ない、これからまた重苦しい話になるのは少し嫌だけど美子との一緒に居れる時間が増えたと思えば。



「美子いっぱい食べるのもう知ってるでしょ? 玄君の家で恥ずかしい事しなかった?」

「お、お母さん! 私はそんなに図々しくないよ、それにそんな大食いじゃないもん!!」



もう無理があるぞそれ。 栗田にも大食いお化けとか言われてるんだから。



「姉ちゃんどこにそんな食いもん入れてんだよっていつも思うし」

「ナオちゃんまで…… 私は少食です!」

「じゃあ美子は今日の晩ご飯普通盛りでいいかしら?」

「あ、あう…… いつも通りで」

「いつも通りってどれくらいなんだ?」

「玄兄ちゃん、姉ちゃんはいつもうぐッ!」

「ナオちゃん〜ッ!」



美子は直也に抱き付いて言葉を遮った。 大体想像つくけどな……



直也とも遊びつつ夕方になっていった。 美子のお父さんはまだ帰ってくる気配がないし俺もずっと美子の家に居るわけにもいかないのでまた明日にでもお邪魔しようと思って今日は帰ろうとしたところ「ただいま」と下の方から声が聞こえた。



「あ、お父さんだ!」



帰って来てしまった。 正直いまだに苦手だが美子のお父さんの口からも今後の事をハッキリ聞いておかないと。 美子に手を引かれ玄関へと向かった。



「お父さんおかえり」

「ただいまぁーッ! ッと玄君が来ていたのか」



俺の時だけえらくテンションが下がったなというのは予想通りだったが……



「お父さん、引っ越しの事やっぱり私」

「美子、その事ならもう気にしなくていいぞ」

「え?」

「今日会社で他の人が行く事になった。 だから引っ越しの話はなしだ」

「それじゃあ……」

「ああ、まだここに居られる事になった」

「………… ッ!」

「美子?」



ポロポロと美子が泣き出すので美子のお父さんは慌てる。



「い、嫌だったか!?」

「お父さんッ!!」

「うおッ」



美子はお父さんに飛び付いてそのまま倒れそうになった。



「ありがとうお父さん! お父さん!!」

「ははッ、良かったな美子。 玄君その様子だと事情はわかってるみたいだろうがそういう事だ、個人的には気になる部分もあるが美子はやっぱり君の事が好きなようだ」

「そうだわよねぇ、美子にあんなに嫌だ嫌だって詰め寄られたんじゃあなたたまったものじゃないものね、ふふッ」

「マジで? やったね玄兄ちゃん! 俺も別れ話しないで済む!」



あ、あれ? 特に何もしないまま解決しちゃったぞ…… でもまだ美子と居れるんだ、居ていいんだ。



「玄ちゃん!!」

「あ、美子!」



あろうことかお父さんの目の前で美子は今度は俺に抱き付いた、けどいいか。



「玄ちゃん、玄ちゃん! これからもよろしくね!!」

「ああ、最高のクリスマスプレゼントだよ」



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