その90
「あれ? 母さん美子は?」
「んー? さっき出てってたわよ、電話してきますって」
「わざわざ外に行ったのか」
まぁ美子の父さんに知れたら話が拗れそうだしな。 俺はなんとなく事情を知っているので美子のところへ行くために外へ出た。
………… いない。 てっきり玄関の外辺りで話をしているかと思ったんだけど。
家の周りをグルッと回ってみたがいない。 まったくどこまで電話掛けに行ったんだよ?
そう思って3軒くらい先の家まで行ったところ陰から美子の声が聞こえた。 あんなところに…… と思ってそっと近付く。
「イヤ! 絶対イヤ!! 私納得してないから!!」
え? 珍しく美子の怒っている口調…… やっぱり泊まるなんて厳しかったか? ならそこまでして泊まることもないのに。
電話が終わったようなので話し掛けようとしたら気配を感じたのか美子はこっちを向いた。
「え…… 玄ちゃんなんで?」
美子は物凄く青ざめた顔をしていた。 そんなビックリか?
「聞いてた?」
恐る恐るという感じに美子は聞いてきた。
「?? なんか知らないけどお前が怒ってるなぁくらいしか聞こえなかったけどどうしたんだ?」
「ほんと? はぁ〜……」
ホッとしたような顔に変わる。 なんか聞いちゃいけない事だったのかな?
「えっとね、なかなか泊まる事許してくれなくて……」
「そうだろうな。 別に無理して泊まる事なんてしなくていいのに」
「ダメ! もう泊まるって決めた。 今日は絶対何がなんでも玄ちゃんの家に泊まる!! いくら玄ちゃんがダメって言っても泊まるから!」
「俺はダメとは言ってないだろ?」
「えへへ、やっぱり玄ちゃん優しい。 今日はよろしくね!」
なんだその固い決意は…… あんまりダメって言われてムキになっちゃったのか? 後からしっぺ返しが痛そうだけど。
「ねえ玄ちゃん。 私このまま出てきちゃったから食べる物ないの」
「大抵はそうだと思うけど?」
「だから何か買いに行こう? 玄ちゃんが食べたい物も買ってあげるから」
俺は子供か! と思ったけど美子が俺の家で腹の音鳴らしまくるのもどうかと思ったので買いに行く事にした。
コンビニに着いて美子は弁当を眺める。 そんなにガッツリ?
「んー、何買おうかなぁ?」
「お前そんなの見て…… いや美子だから余裕で食えるか」
「ま、まさか! 私そんな食欲モンスターじゃないもん。 見てただけ〜」
美子はスイーツのコーナーに行った。 今更取り繕って意味あるのかその設定……
「あ! 私何も考えないで飛び出してきちゃったから玄ちゃんのお家の人に何も持ってってなかった! お世話になるのに」
「そこまで畏まらなくていいんじゃね? 大体うちの連中は俺が彼女が家に来たってだけで盛り上がってるし」
「ふふふ、私は玄ちゃんの彼女さんなんだぁ〜」
こうしてそんな事で無邪気に甘えてくる美子を見てると凄く可愛い、とっくにご存知してるけどやっぱ可愛い。
「うん?」
「いやなんでも」
「何?」
美子が真剣な目をして聞いてくる。 そんな風になるシチュエーションあったか? ただ単に可愛いと思っただけなんだけど。
「隠し事?」
「いやに突っかかるな、美子こそないのか?」
「え!?」
美子はギクリとした顔をする。 なんか知らんがあるんだな、わかりやすい奴。
「美子って可愛いなって思っただけだよ」
「へ? へぇぇえええッ!」
今度は蹲み込んじゃったよ。
「美子?」
「ふ、不意打ち……」
「不意打ち?」
あ、もしかして照れてんのか? 別にこいつ可愛いなんて言われ慣れてるだろうから特になんともかと思ったけど。 美子は立ち上がって俺を向くと……
「玄ちゃんこそ凄くカッコいい」
「は? 嘘だろ?」
「嘘じゃないもん、カッコいいもん!」
あ、言われるとわかる。 めちゃくちゃ恥ずかしいって。 それに拍車を掛けているのが……
「美子」
「はい」
「ここコンビニの中」
チラチラと視線を感じるからもうやめておこう、ただでさえ美子は注目を引くのだから。
それからお菓子類を買って帰宅して2人で部屋に戻った。
「じゃあ食べよっか!」
「俺はお昼食えなくなりそうだからパス」
「玄ちゃんどこか具合悪いの?」
「…… そういう事にしておく」
「なら看病しなくちゃ!」
「いやいや冗談」
と言ったが美子は俺を寝かせて自分の膝の上に寝かせた。
「ええと……」
「あッ…… これは愛菜ちゃんが佐原君にやってあげてたの見た事あって…… やってみたかったの。 い、嫌だった?」
「………… 嫌ではない」
「ふふッ、そっか」




