その87
「玄ちゃーん!」
「ああ、おはよう。 ん? なんだよニヤニヤして」
「ふふふッ、今日ね早起きしてお弁当作ったの! 玄ちゃんの分も」
「そうなの? 悪いしなんかあるからいいって言ったのに」
「…… 流石玄ちゃん! なんとそしたら玄関にお弁当忘れて来ちゃったっていう致命的なミスを…… 玄ちゃんの顔見て思い出したから今から取りに行くと遅刻しちゃうし」
「だったらさっきのニヤニヤした顔は一体…… ていうか別に売店あるんだからそんな落ち込まなくてもいいだろ?」
「頑張ったのに〜!」
だから無理しなくていいよって言ったのにな。 もう12月なので本格的に寒くなってきたな。
文化祭の日美子に付き合って下さいと言われて付き合う事になったんだけどまぁ別に今まで通りって感じでこれで付き合っているのかな? と思うところはあるけれど別に美子はなんの不満もなさそうだしこれでいいんだ。
そうして付き合ってしまったとなると何やらいつもと日常が違って見えたりもする。 いつものように英二と遥と話していても……
「玄ちゃん遥ちゃん!」
「俺はスルー!?」
「あ……」
お昼時間……
「玄ちゃん売店一緒に行こう!」
「あー昼飯置いてきたんだっけ」
当たり前なのか知らんがいつも常に美子が居るな。 そんな風に思って歩いていると図書室を通り掛かり聞いた事がある声がした。
「ダー様おいちぃ?」
「うん、おいちぃ」
「お、お前……」
「ゆ、由比ヶ浜!?」
見てはいけないものを見てしまった。 そのままスルーすれば良かったのだろうけどつい声を掛けてしまった。
「うわぁー、愛菜ちゃんのお弁当美味しそう」
「また大食いお化けかよ! なんでこんなギャグみたいなのに負けたのかいまだに理解に苦しむわ」
「佐原…… お前って」
「違う! 俺は断じてそういう趣味なんかじゃない、母性を感じる少女のように可愛い子が好きなんだと気付いただけだ、見くびるんじゃあないッ!」
クワッと目を見開いて佐原は言った。 なんかどんどん残念な奴になってる……
「そ、そうか…… ごめんなさい」
「流石ダー様!」
俺はこいつに変な親近感みたいなのを感じていたとは……
「いいね、佐原君と愛菜ちゃん」
「え、お前ももしかしてそっちの気があるのか?」
ありえるな、こいつ弟大好きだし……
「何が? 凄くラブラブだったねぇって」
「あ、そっち? そうだな。 前より濃くなったよないろいろと」
「…… 玄ちゃんもああいうのがいい?」
「ああいうの?」
ああいうのって赤ちゃん言葉でとても人様には見せられないような恥ずかしい行為の事か!?
「俺は普通でいいかな」
「玄ちゃんの普通ってどんなのが普通?」
「は? なんでそんな表現し難い事ばかり聞いてくるんだ?」
「だって私玄ちゃんの彼女!」
「お、おう?」
「だって私玄ちゃんの彼女!」
「…… 言ったみたかったんだな」
「うふふ、言っちゃった」
よくわかんないがまぁいいか。
「あれ? 美子と由比ヶ浜コンビ」
「おー、奇遇」
「なんだ亮介と木村か」
「なんだとはなによ? アタシらの真似してお昼デート?」
最近は亮介と木村は昼休みに消えてるもんな、一緒にどこかで食べてたのはわかってたけど。
亮介達だけではない、ミスコンが終わってから速水と遥は何かと見られる事が多くなって休み時間とか昼休みになると2人はすぐにどこかに逃げるように避難してるもんな。
迷惑してるようだったけどそのうち収まるでしょと言っていたが。 美子の場合はもうなんか俺と付き合ってるとかっていうのが広まってそんな事もない、栗田も同様に。 美子みたいなのがなんで俺なんかと? みたいな目はたまに感じるけど。
「葎花はどこでお昼してるの?」
「美子に取られるから内緒ー!」
「ケチー! いいもん私だって心当たりくらいあるもん」
「ええ? 美子が?」
「それより早く買って来ないとお昼時間なくなるんじゃないか?」
「あ! そうだった!! 危ない危ない、行こう玄ちゃん」
売店に行きさっさと昼飯を買うと美子は俺の手を取ってダッシュである場所に向かった。
「心当たりってここか?」
「うん!」
美子はミスコン部の部室に来たのだ。 あー確かにここなら誰も来ないかもな。
「じゃあ食べよっか」
誰も居ない部室で美子は大量に買ったパンを食べ始めた、ふた口でパンを食べ切るとはこいつはどんだけ食に飢えてんだよ。
「ふあ? ッ!! ゲフッゴフッ!!」
「そんなにがっついて食うからそうなるんだよまったく」
「ゲホッゲホッ…… 違くて玄ちゃんが食べたそうに見てるからあげようかと思って」
いやお前の食欲に呆れてたんだよと……
「はい、あーん」
「いやいいよ」
「むう〜! あーん!」
引きそうにないので口を開けると半分を口に突っ込まれた。
「グッ!!」
俺は美子じゃないのでとてもこの大きさのパンをひと口で食べれないのにこいつときたら。
「あ、あれ!? 口に合わなかった? 美味しいのに」
俺の横に来て背中を摩っていた美子は俺の顔に注目した。
「マヨネーズ付いてるよ?」
「え?」
そしたらいきなり美子の顔が近くに来たと思ったらパッと離れた。 美子の顔が真っ赤になっていた。
こ、これはまさか反射的に俺に付いたマヨネーズをペロッと舐めようとしたのでは……?
「…… ささ! 食べよッ!」
美子は指で俺の頬に付いたマヨネーズを取るとパクッと口に入れた。