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86/95

その86


速水…… お前ならグランプリになれると思ってたぜ。 なんて思考停止していたがまさか美子が2位にも3位にもカスリもしてないとは。



美子贔屓になってしまうけどあれくらい盛り上がったのだからもしかしてもしかするとなんて思ったけど現実は大した事なかったってのか。



『さぁさぁ、まずは琴音ちゃん! 今のお気持ちは?』

「…………」

『おーい琴音ちゃん?』

「え?!」

『ありゃりゃ? ドーンと構えていた琴音ちゃんも流石にビックリで放心状態かな?』

「あ、ウチは…… そ、そうですね」



どうやら言葉もないらしい。 速水がそこで美子に視線を向けるのと同時に俺も恐る恐る美子を見た。



………… 無表情。 ではないけれど限りなく無表情に近い笑顔で拍手を送っていた。 大丈夫かあいつ?



「あー残念だったな玄、七瀬ならもしかするとって思ったけど3位以下だったとはなぁ」



俺もそう思ってたんだけどミスコン部のみんな全員可愛いもんな、客の好みだってあるし。



『それでは琴音ちゃん、投票して下さった皆様に何か感謝の意などお有りかな?』

「え…… ええと、それって確かですか? 本当にウチなんですか!?」

『本当に琴音ちゃんだよ? 選挙委員まで動いてやってくれたんだから間違いないよ安心して?』

「いやでも……」

「あーもう! まどろっこしいわねクソデカブツは! 選ばれたんだから堂々としてなさいよ」

『だよぉ〜? 琴音ちゃん』

「あ…… ありがとうございます」



速水はペコッとお辞儀をした。 グランプリに輝いたのだがまったくもって覇気がない、見ていてこっちが心配になってくる。



「速水の奴元気なくね?」



こっちでもそんな声が聞こえてくるくらいだし……



そして速水は足早にみんなの並んでいるところへ戻ろうとすると出雲先輩に腕を掴まれた。



「え?」

『まだ行っちゃダメですよぉー! まだあるんですから』

「??」



まだ? そぉいや花束贈呈まだだったな、と思っていると……



『なんと今年グランプリに選ばれた方がもう1人! 琴音ちゃんと同票を叩き出した………… 七瀬美子ちゃんです!!』



………… はぁ!?



「お、おい! 七瀬にライト当てろ!」

「はい!」



パッと美子にライトを当てると美子は驚いた顔をしていた。 俺だって驚いたぞこの野郎…… 出雲先輩め、だから選挙委員と話してた時意味深な顔してたのか。



『さぁさぁ前に来て』

「え? 私こんな格好なのに……」



何気に杏樹のファッションディスッてるぞそれ。 



『まぁまぁ。 これが結果だから! 琴音ちゃんと並んで』



そう言われて速水の隣に立つと速水はまるで奇跡でも起きたような顔をしているけど同票なんてマジで奇跡だ。



「やったね美子!」

「わわッ」



速水は美子に抱き付いた。 さっきまでのテンションだだ下がりが嘘のようだ。



『わお! 琴音ちゃん急に元気になったね!?』

「そうですか? ウチは最初からこんなんです」

『え? ああ…… あ! おめでとう琴音ちゃん美子ちゃん』



先輩が花束を2人に持たせると先輩は美子にインタビューする。



『さてさて私が知る限り…… というか初のダブルグランプリとなりましたが今どんな気分です?』

「ええとさっきまで頭が真っ白になってたんですけど今も頭真っ白です…… でも思い返してみれば私がグランプリ取れたのは私だけじゃなくてある人のお陰なんです」

『おやおや〜? 遥ちゃんだけじゃなくて美子ちゃんもですかぁ〜、一体誰だー?』

「うおおおー! 僕の事だぁーーッ!!」

「違うっつーの!!」



太田の声が聞こえたような気がしたが速水にバッサリと否定された。



「…… だから今私凄くその人に会いたいです!」

『おやおや、何やら意味深な発言…… 伝わるといいね!』

「はい!」



こうして今年のミスコンが終わり文化祭が終わり体育館から出て部室に行こうとすると……



「玄ちゃん!」

「え? 美子?」

「部室に戻ろうとしたら他の生徒に囲まれちゃってまだ誰も居ないの。 琴音が強引に抜け出させてくれたけど」

「そうか。 美子、今日はおめ……」

「美子!!」

「杏樹ちゃん??」



俺の言葉に食い気味で割り込んできたのは杏樹だった。



「いつまで私の服借りてるつもりなのよ!?」

「あ! ごめん、すぐ脱ぐね!」

「お、おい! ここで脱ぐ気か!?」

「へ? あ……」

「ほーんとバカなのね。 部室に戻ればいいじゃん…… ん?」



杏樹は俺と美子を見た。



「やっぱ私先にあんたらの部室に行ってるわ。 …… それと美子。 今までごめん、あとおめでとう」

「杏樹ちゃん…… え? 杏樹ちゃん!!」



それを言うと杏樹はダッシュで逃げてしまった。 美子を振り返るとウルウルと目に涙を溜めていた。



「良かったな美子」

「うん…… うん!」



そして美子はハッとして目を俺に向き直った。



「玄ちゃん…… 私が言った事覚えてる?」

「ああ」

「聞いてくれる?」

「もちろん」



別に美子が1番にならなくたって俺は良かったんだ。 だから結果がダメだったとしてもミスコンが終わった後切り出すつもりだった。



「美子……」



俺が言おうとしたら美子は手で待ったをかけた。



「ごめん、でも言わせて? 玄ちゃん、私とお付き合いして下さい」




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