その83
『えー、続きましては速水琴音ちゃんでーす! ビックリなくらい美人ですよー!』
「ちょ、ちょっとぉ! ビックリなくらい美人は私もでしょ!?」
『わわわッ! ま、愛菜ちゃん!? ご、ごめんなさーい!』
速水の紹介にどこからともなく栗田が文句を言ってきた。 何やってんだ……
『ええと…… とにかく行っちゃって下さい!』
速水が現れると出雲先輩がそう言うだけあって前に見た時よりも数段綺麗な気がした。 体育館の中も俺が聞いた限りじゃ最高峰の歓声だ。
こ、これは…… この後に登場するはずの美子ってかなり気不味いんじゃないだろうか?
速水は何食わぬ顔でスーッと歩いてきて引き返す。 優雅だ、速水的にはそんなに気取っているつもりはないだろうが長い手脚と気の強そうな顔でツンとしているからそう見えるのだろうか?
「愛想ねぇ〜」
「でも美人だよな」
「こいつが1番だろ」
そんな声が聞こえてきた。 大丈夫か美子……
『いやー凄かったですねぇ! このこの〜』
先輩おばさんみたいな絡み方になってるぞ…… てか出雲先輩美子の事わかってるのかな? 取り付く暇あったのだろうか?
『それでは最後のトリを飾るのは七瀬美子ちゃんです! どうぞー!』
何事もないみたいな感じに美子の登場を促す出雲先輩、つーことは伝わったのか?
そしてBGMに合わせて美子が出てきてスポットライトが当てられると……
『あ、あれ〜!? まず注目はブルーコートに白のトップス黒いミニスカートでお洒落カジュアルなお出掛けコーデ…… なんでッ!!?』
どうやら先輩は知らなかったようだ、他の客もなんでこの子だけ? という顔をしている。
美子はニッコリと顔を先輩に向けた。
『はッ!! ええと、ええと…… 行っちゃいましょー!」
強引にゴーサイン、美子はこちらに向かっていると……
「うおおおおおッ!! なーなーせ!」
どこからともなく一際大きな美子を呼ぶ声、どこかで聞き覚えがと思って声のする方を見ると光る棒を振りかざしている目立つ集団が見えた。
「なーなーせッ! なーなーせッ!!」
やっぱり! あそこの集団に居るのはいつぞや美子にぶつかった太田だ。 応援するって言ったってオタ芸をぶちまかしにきたのか!?
「うわ…… 何あれキモッ」
「居るんだなああいうのって」
逆効果だったのか視線が美子よりもその奇妙な集団に目が行ってしまっている。
マズい、これじゃあ美子の印象が薄くなってしまう。 どうすれば…… こうなりゃ一か八か!
「なーなーせッ!!」
俺も同じく七瀬コールに参加した。
「うおッ! ビビッた、なんだこいつ!?」
「は? なんなん?」
「こっちもかよ?」
周囲が驚く中俺の声に反応した美子が足を止めてこちらを向いた。 いろんな意味で恥ずかしい、けど叫ぶしかない。
「なーなーせッ! なーなーせッ!」
何度か声を張り上げ七瀬コールをしていると……
「なーなーせ!」
太田集団とは違う方向から七瀬コールが聞こえた。 どっかのパリピか誰か知らんが乗ってきてくれた、無理かと思ったけどこれを待ってたんだ。
するとあちらこちらから七瀬コールが。 そして謎の一体感が生まれる、驚いてこっちを見て足を止めていた美子に手招きをしてさっさと歩けと伝えるとハッとして七瀬コールの中歩き出す。
去り際に美子はこちらにえへッと微笑みを向けたがとにかく大声出したのが恥ずかしかった。
『皆様美子ちゃんコールありがとうございました、いやぁー流石美子ちゃん!』
何が流石なのか知らんがとりあえず無事に終わってくれて良かった。
『続きましてはコンテスト参加者の自己PRと質疑応答でーす』
そうだった、この後もあるのをすっかり忘れていた……