その82
体育館の中に入ると相変わらず人がごった返していて出雲先輩が司会ナレーションをしている最中だ、司会は前回1位に輝いた人物が担当するって事をつい最近知って栗田なんか物凄く安堵してたな。 てかこの感じだと間に合った?
というよりしまった、普通に体育館の入り口から入った事が間違いだった。 俺より後から入った人達が入り口を塞いでしまった。
「いてッ! おいお前気を付けろよ」
「す、すいません!」
薄暗いし無理に動くと周りに迷惑なので亮介に「行けそうにない、すまん」とメッセージを送った。 先輩にめっちゃ怒られそうだな……
もう肌寒い季節なのに人が密集しているからか汗ばんできた、ライブ会場かここ? と思っていると……
『次は1年3組の栗田愛菜ちゃんでーす! ちっちゃくて可愛いのでキュンキュンしちゃいます』
ええッ? 出雲先輩見かけによらり緩い紹介の仕方するんだな、リハーサルの時はちゃんとしてたのに…… 栗田の番って事はちょうど2年組が終わったところなんだな。
そして辺りが暗くなり体育館の舞台にライトが照らされると黒いドレスを着た栗田が登場した。 …… これはゴスロリドレスだ。
栗田は自信ありなのかお高く止まった笑顔を見せた、だが自分の長所を活かしているのでとても似合っていた。
BGMが鳴ると栗田はそれに合わせて体育館の舞台からこの日のために体育館中央に用意していたお立ち台を歩いていく。 よくもまぁこんなんあったよな、パリコレ風じゃないか。
「ほんとに可愛い〜」とか「こっち向いて〜」の声に栗田は機嫌を良くしてニコニコと笑顔を振り向く。 凄いな栗田の奴、先輩達のを見てなかったからこれが凄いのかもよくわからないがとにかく凄いな!
すると栗田は舞台に戻る前にある所で歩みを止めた。 その地点と栗田の目線の先に俺も目をやれば佐原らしき奴が居た。
そこでさっきよりも一割増し以上の笑顔を見せると舞台に戻ってペコリとお辞儀をした。
『はぁーい、ありがと愛菜ちゃん! なんだなんだ!? もう可愛くて食べちゃいたいくらいッ!』
「あ、ありがとうございます」
先輩のそのキャラもなんだ? なんだけど…… 若干栗田も引いている。
『さぁーて! 続きましては同じく1年生の宮野遥ちゃんでーす!』
すると今度はピンクのミニドレス姿の宮野が登場した。
遥の可愛らしさが強調されてて凄く可愛い。 でもあいつ大丈夫なのか? 今更だけどこういう事に向いてないと思う、こんなみんなが見ている前だし。
「ううあえッ……」
見ただけでわかる、オーバーヒートしてるわ。
BGMが鳴っても遥は緊張していて歩いて来ない、やっぱりガチガチだあいつ。
『遥ちゃ〜ん? ほら頑張って!』
出雲先輩にそう言われるとコクリと頷き覚悟を決めたように歩き出した。 けど右手と右脚が同時に出ている……
「この子も可愛いじゃん!」
「こっち向いてー!」
「頑張れー! 遥ー!」
「ひええッ……」
友達が遥を応援するが最早会場の自分を見る視線に怯えているので更に縮こまり途中で蹲み込んでしまった。
『おおっと! 遥ちゃん!?』
「え? 俺の目の前で止まった?」
「いやちげぇーだろ」
「おーい、降りて来なよ」
『こらこらー! 誘惑禁止だよ〜? 遥ちゃんガンバ〜!』
一般の奴で悪気はないのだろうが途中で止まった遥に客が話し掛けているようだけど逆効果だ。 あと出雲先輩も……
耐えられなくなってキョロキョロと辺りを見回しテンパる遥と目が合ってしまった、そして何故俺がここにという顔をしている。 そりゃそうだよな。 けどこうなったら歩き切るまで応援するしかない。
「あとちょっとだ遥!」
と言ったけど聞こえないよなぁと。 てか何がちょっとなんだ?
だが遥はなんだか少しキリッとした顔になってちょうどお立ち台の終わりの方に居る俺のところまで来るとまたしゃがみ込んだ。
え? え?! 何故ここで? と思った時……
「ありがとう玄君」
「へ?」
そう言った。
「誰かに話しかけてない?」
「え? 彼氏?」
「これが?」
俺の周りの奴等が俺を見る。 おい誰だ? これ呼ばわりしたのは!? 言いたい気持ちはわかるのが悲しいが。
遥は立ち上がって小走りで舞台の方へ戻って行った。 どっちかっていうと俺のとこまで来てまたしゃがみ込んでお礼言う方が恥ずかしくないか? 俺だったらだけど。
『お疲れ遥ちゃん、いやー、初々しいねぇ、わかるわかる!』
先輩のこのテンションでわかる言われてもわからない。 それでも少し心配してた遥が無事に終わって良かった。
1番気掛かりなのは美子の奴なんだけど速水の後だったよな、あれで大丈夫なんだろうか?




