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81/95

その81


「改めて見ると汚すぎ。 ちゃちゃっと顔洗いなさいよ、髪の毛は土を払えばなんとかなるわね。 つーか急いでね!」

「うん、でも」

「でもも何も言わなくていいの、こうやって話してるのでさえ時間ロスなんだから!」

「ちょっとあんたら何勝手に話進めてんのよ!? 私は服貸すのもいいとは言ってないわよ!」

「あーうっさい!! 由比ヶ浜!」

「え?」

「え? じゃない! 着替えるんだからあんたが居ると邪魔なの、わかる?」



木村のキビキビとした行動に圧倒される。 普段はこの役を速水がやっていて木村はそんな速水をおちょくったりしていたから。 



そしてここはミスコン部の部室、体育館に割と近いし。 てかみんなそれぞれ宛てがわれたドレスを着て出場しているのに美子だけ私服ってありなのか? 美子の私服ではないけど……



顔を洗いに行った美子が走って戻ってきた。 時間がないのに俺に何か話し掛けようとしてきたので早く中に入れと手で促したつもりなんだけど。 美子に手を握られた。



「へ?」

「玄ちゃん…… 私凄く頑張る! だから見てて」

「…… おう、応援してる。 だから早く行かないとな」

「うん!」



今から参加出来るかも怪しいけど学校の文化祭だしなんとかなるような気もしてきた。 俺にも何か美子のために出来る事があればいいんだけど。



美子が中に入るとドタバタと騒いでいる。 杏樹が「やめろー!」とか「変態!」とか叫んでいる、そして何故か木村の笑い声も。 何やら胸がどうとかこうとか聞こえる、何やってんだ……



程なくして木村に「入っていいよ」と言われ入ると杏樹の服に着替えた美子とジャージに着替え両腕を抑えてワナワナとしている杏樹の姿があった。



「じゃあ急ぐからアタシら行くから杏樹ちゃんの事お願いね由比ヶ浜」

「ん? ああ」

「行って来るね玄ちゃん。 それと杏樹ちゃんありがとう、ごめんね?」

「ふん!! とっとと消えろ!」



美子には早くミスコンに行って欲しいが木村も行くって事は杏樹と俺2人きりにされんのか? 気不味いじゃねぇか! 



そして「バイバーイ!」と言って木村は美子を連れて出て行ってしまう。 



「…………」

「…………」



当然こうなるわな! こいつってなんか俺の事空気みたいにスルーしてたし。 けど……



「ありがとな」

「は?」



嫌々と無理矢理ながら服を貸してくれた杏樹にお礼を言うと物凄く不愉快そうな顔をされた。 め、めげないぞ。



「美子に服貸してくれて」

「貸したも何も無理矢理剥ぎ取られたんだけど? バカなの?」

「いやまぁ…… もういいや。 でも今日は美子のために来てくれたんだろ?」

「はぁ? はぁああ!?」



俺がそう言うと杏樹の顔が真っ赤になり睨み付けてくるが俺が美子にしてやれる事を思い付いた。



険悪な杏樹との関係をなんとかしてやりたい。 俺みたいな部外者じゃ無理だろとも思ったけどよくよく考えてみれば杏樹の行動は変だ。 本当に美子が嫌いならわざわざこんなところまで来ないはずだ、もしかして杏樹もと思った。



「美子と仲直りしたいんじゃないのか?」

「なんであんたみたいな雑魚にそんな事言われなきゃならないのよ!?」



ざ、雑魚はないだろう…… でも精神的にくるわこいつの言動。



「だっておかしいだろ? 嫌いな美子なんかほっとけば良いのに学校に来てまで見に来るなんて。 この前みたいな偶然ならまだしも」

「何知ったように人の心理分析なんかしてんのよ! キモいんだよ!! 私の勝手だろ!」

「いやでも……」

「だからキモいんだよ!!」



………… 俺の読み違いだったか? 杏樹の奴めちゃくちゃ怒ってる。 これ以上言うと美子との仲も更に悪くなりそうなので杏樹に背を向けて少しすると……



「………… なれないの」

「え?」

「素直になれないの美子を前にすると……」

「てことは美子の事」

「この前偶然会った時…… 私言い過ぎた。 ううん、ずっともっと昔に言い過ぎてた、だから謝ろうと思ったんだけど。 あれだけ酷い事したのに今更になってそれも私がいくら謝ったって」

「そんな事ないと思うけど? だって美子だぞ? あいつまだお前の事友達だって思ってるの見ててわかるだろ? お前が少し勇気出してごめんなって言えば美子は許してくれるって。 まぁ美子にしてみれば許すも何も友達だと思ってる時点でそんなのないのかもしれないし終わったら普通に話し掛けてみろよ、きっと喜ぶぞ?」

「そうかな……」



杏樹が少しシュンとした表情になる。 けどやっぱり仲直りしたかったんだな、素直になれないからって辛辣な事を言ったのは酷いけど悪いとは思ってるようだし良かったな美子、仲直り出来るかもしれないぞ。



「美子はいいけどあんたは何? 美子と付き合ってるつもり? 全然釣り合ってないよ」

「ぐッ……」



潮らしい表情を見せたと思ったらすぐこれだ、俺には冷たいな。



「そりゃ悪かったな、俺も自覚してるよ」

「まぁ美子だしね、あの子の好みはこんなんか、ふぅ〜ん」



だからそんな睨むなよ、自信とかそんなのはそれほどないが更に削れてくるだろ。



「見ててって言われたんなら行けば?」

「聞こえてたのか?」

「そりゃあんなバカでかい声で言ってたら聞こえるに決まってるでしょ?」

「お前は行かないの?」

「行くわよもう少ししたら。 ていうかお前呼ばわりしないでくれる? ムカつくから」

「ええと…… あ」

河嶋かわしま…… 河嶋杏樹よ、杏樹でいい」



杏樹と呼ぼうとしたら食い気味で自己紹介された。 でも少しは打ち解けたのかな?



「俺は由比ヶ浜玄」

「もう知ってるからいい」



こいつ面倒くせぇ!! まぁいいか、美子の事も気になるし俺は体育館に向かった。


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