その80
「美子? え、何それ?」
「あ、これ?」
泥だらけのドレスを見て美子は困ったように笑った。 よく見れば顔も髪も汚れてる、ドレスに着替えて化粧して体育館行くだけの間に一体何があったんだ!?
「あははッ、ちょーウケる! でも今から面白そうなの始まるからさー、ちょい切るねぇ」
美子の後ろからLINEがそんな声が聞こえてきて視線を移すと杏樹だった。
「あ、杏樹ちゃん!?」
「ぶッ!!」
そんな美子を見た杏樹は笑いを堪えて必死に口元を抑えていたが……
「ぷぷぷッ、もうダメだわ! あんたのその有様ッ!!」
野郎! 越えちゃならねぇ一線を遂に越えやがったのか!?
「何それ? 汚ッ!! そういう方向性なのあんたの衣装、あははッ! やめてよねぇ〜、ある意味お似合いだけど」
「へ? お前がやったんじゃないの?」
「はぁ〜、なんで私が? そりゃそうしてやってもいいけどさ、そんな事したってそれで出れませんでしたぁ〜なんてなったらつまんないじゃん?」
「…… どういう事だ美子?」
「ええとそれは……」
「あ! お姉ちゃん!」
すると杏樹の後ろから大きな声が聞こえて杏樹はビックリして肩をビクッと上げ俺と美子もその方向を見ると小さな男の子と手を繋いでいるお母さんらしき人の姿があった。
「ほえ? ゆうちゃん」
「急に居なくなるんだもんお姉ちゃん!」
「あはは、ごめんねお姉ちゃん用事があって」
ゆうちゃん…… 誰だ? そしてそのお母さんらしき人がゆうちゃんとやらを引き連れて美子のそばまで行くとペコッと頭を下げた。
「うちのゆうとがご迷惑を掛けてすみません、その服…… 私を探すために汚れちゃったとか」
「え? ああ…… いえ、私がドジなだけなので、ははは」
美子は気不味そうに笑う。
「お姉ちゃんね、お母さんを探すぞー!って言って転んだんだもんね」
「こら! ゆうと!!」
「気にしないで下さい。 お母さんともうはぐれちゃダメだよ? ゆうちゃん」
「うん!」
その子の頭を優しく撫で美子はニッコリと微笑んだ、そういう事だったのか。
「あ!! そうだ、お姉ちゃん急いでるからもう行かないとなんだ」
「え〜〜ッ」
「ダメよゆうと、お姉ちゃんはお仕事あるみたいだから。 後でお礼をさせて下さい」
そう言ってその親子は美子に深々とお辞儀をしてこの場を後にした。 というかマジで急がないと…… もう始まってるはず。
「ごめん玄ちゃん! どうしても放っておけなくて」
「はぁ〜、さっきの子が直也だと思ったらって事だろ?」
「流石玄ちゃん!」
「まぁ良い事したなって言いたいけどミスコンもう始まってるぞ、てかその泥だらけの有様でどうしよう?」
「あわわわッ、そうだよね!? こんなにしちゃって絶対怒られちゃうよ! それにこれじゃあ……」
「これじゃあ結果は知れてるわよねぇ」
時間がないってのに杏樹はニヤニヤして美子に追い打ちをかける。 こいつに構ってる時間はないと思っていると木村が俺達を見つけて走ってきた。
「こんなところに居たんだね! もう始まっちゃってるよ、美子急がなきゃって…… ええ!? 何そのズタボロな有様は?」
「これは…… 色々あってこうなって」
「あー全然わからん! というかこの子誰?」
木村は杏樹を指差した。
「杏樹ちゃん。 私が転校する前のお友だ……」
友達と言い掛けて美子は申し訳なさそうに杏樹を見た。
美子の奴杏樹を友達だって言おうとして杏樹に否定されるのが嫌なのかなんなのか知らないが…… 遠慮しているのは見てわかる。
「お友だ…… 何? 途中でやめないでよ」
「ええっと…… お友達」
刺すような視線で杏樹は美子を睨み付けて牽制する。
「ふぅん。 そゆこと」
対して木村はやけに軽い。 が杏樹をジーッと見詰めた。
「何よ?」
「ん? いやー杏樹ちゃんって言ったっけ? なかなかお洒落だなぁと思って」
「それが何か? ハッ!!」
俺も杏樹と同じく木村の狙いがすぐわかった。 もしや木村は杏樹を美子の代わりとしてミスコンに出させるつもりか!? 無理ないかそれ?
「杏樹ちゃんの服美子に着させちゃおー!!」
「は、はぁあああッ!?」
あ、全然違った恥ずかしい己の読解力……
「バカじゃないの!? こんな肉団子に私の服が入るわけないでしょ!!」
「ひ、酷い!!」
肉団子と言われ流石にショックを受ける美子…… 肉団子とは言わないがよく太んないよな。
「あははッ、言うねぇ杏樹ちゃん。 それくらいならいくら言っても良いけどさ」
「いいの!?」
更にショックを受ける美子。 いやまぁ木村も性格的には杏樹寄りな性格してるけど。 だが……
「でもねぇ…… アタシあんたよりは美子との付き合い短いかもしんないけどさ、美子をいじめるつもりならアタシが許さないよ?」
木村は杏樹の胸ぐらを掴んで威圧した。
そういえば速水や美子と仲良くなる前は木村は速水と喧嘩しまくってたな、こんな木村を見るのは久しぶりだ。
「うッ…… 離せよ! きゃあッ!!」
離せと言われて木村はあっさりと杏樹を離したので杏樹は尻餅をついた。
「おっと。 そうだった、美子に着させるんだから万が一破けちゃったら台無しだもんね!」
「は? え?? ちょッ! 本気なの!?」
「り、葎花、それはちょっと……」
「大丈夫だよ、スッポンポンにするわけじゃないしあんたのジャージでも貸してやればいいじゃない? 同じような背格好なんだしね、ふひひ」
「い、いやぁー! ふぐッ!?」
叫ぼうとした杏樹の口を塞いで木村は杏樹を人気のなさそうな奥の方へ引っ張って行った。 どっちもひでぇ……
「ほら美子! あんたもついて来る! 急いでるんでしょ!?」
「え? あ、うん…… 」
呆気に取られていた美子は間が抜けた声で返事をして木村について行った。




