その70
「そうだ玄ちゃん!」
美子と遊んだ帰りにバッグをゴソゴソしだす、何を取り出したかと思えばバッグの中から更に保冷バッグ?
「何これ?」
「保冷バッグ」
「見りゃわかるって、何入れてるの?」
「ふふふ、私また超頑張ったの!」
「また?」
なんだろうと思って開けてみるとチョコレートだった。 そしてハッとした、バレンタインデー貰ってたわこいつに。 そして美子はカカオの豆から一生懸命すり潰して作ったと言っていた。
だけど肝心の砂糖を入れ忘れたせいでカカオ100%の味しかしなかったのだ。 つまり苦くて酸っぱかった…… それを今になってとは。
「いつもながら唐突だな」
「いやぁー、あれは苦かっただけに苦い思い出だから」
「上手い事言ったみたいな顔してんじゃねぇよ。 てことは今度は砂糖入れたんだよな?」
「当然! 私に抜かりはなかった! 召し上がれ」
「今かよ……」
試しに食べると今回はちゃんと甘かった。
「美味しい? ねえ美味しい?」
俺が無表情で食べていると気になったのかズイズイと聞いてきた。 前からわかってた事だけど可愛いなこいつ。 前よりもそう思う、それを今更俺は……
「ああ美味いよ」
「そっかぁ〜! どれくらい甘いのが玄ちゃんの好みなのかよくわからなかったんだよねぇ、寝ないで作った甲斐があった」
「え? お前寝てないの?」
「ほえ? あ、ううん! 作ったのは一昨日だから大丈夫だよ」
ん? ほんとかこいつ…… 今変な間あったよな?
それからも美子といろいろ見て周り少し疲れてきた。 ちょっと前ならこんなに街の中見ながら歩いたりするのなんてなかった事だしな、それも女と。
「そろそろ帰るか?」
「え!? もう?」
「もうって、もう夕方だぞ」
「もぉー! 夏休みだよ!? 玄ちゃんお子様! だから玄ちゃんなの!」
「いやそう言われてももう疲れてきたし」
「つ、疲れた? …… うぬぬぬッ」
ヤバ…… ストレートに疲れたって言ったから傷付けちまったかな?
その時美子の目に何か止まったのか俺の後ろの方を見ていた。
「あれ……」
「ん?」
「あそこにプラネタリウムあるよ! あそこに行こう!」
「え? ああ、そんなのあったな確か。 って行くの?」
「うん! 行こう? 疲れも吹っ飛ぶよ多分!」
「プラネタリウムってそんな場所か?」
「どうだろ? だから行ってみたい! まだやってるみたいだしタイミングもいいじゃん」
プラネタリウム…… 生きてるうちで行く事ないかもなぁなんて思ってたところに行く事になるとは。 つーか星なんて見て楽しいのか?
「あッ……」
「どうしたの?」
「俺もうお金ないわ、だからやっぱやめとく?」
「ふふふッ! 私が奢ります」
「は? 借りとかじゃなくて?」
「うん、誘ったのは私だし」
そう言って美子は少し考える仕草をすると俺をジーッと見た。
「何か?」
「…… 奢るから手を繋ごう?」
「手? な、なんで!?」
いやそんなの改めて言われるとめちゃくちゃ恥ずかしくなるんだけど? ほら見ろ、言ってる美子も顔が真っ赤だ。
「あ、あれだよ! ナオちゃんも手を握っとかないとどこかに走って行っちゃうし」
「俺は高校生なんですけど……」
「そうだけど! 玄ちゃんでしょ!!」
「?? お、おう? 俺は玄だけど」
相変わらずよくわからん理屈。
「じゃあはい」
そうして差し出された手を握ると暑いせいなのか美子の手は少し汗ばんでいた。 というか俺も。
「「あ!」」
美子も気付いたのか2人で手をゴシゴシと拭いてから握り直した。
なんか気恥ずい……
「よぉーし!! レッツゴー」
「はいはい」
入館料と鑑賞料を美子が払い劇場に入ると映画館みたいだった。 こんな風になってるのか。 プラネタリウムというだけあって天井にも何やら仕掛けがあるみたいだ、椅子も上向きに出来るし。
「なんかワクワクするねぇ、玄ちゃんのお顔も心なしか輝いてるように見えるよ」
「なんも考えないで適当な事言ってるだろ? まぁいいけどさ」
プラネタリウムが始まると場内が暗くなりナレーションから入り星座が浮かび上がる。 へぇー、結構いいかも。
と思って観ていて十数分、いったいいつまで手を握り続けているつもりかなと感覚を美子に集中させていると隣から寝息のようなものが聴こえる、美子しかいないがと思い見ると寝てる…… こいつ寝てやがる!!
「くぅ…… くぅ…………」
「おい美子」
「えへへ、もう入らないよ、むにゃあ……」
寝言まで飛び出してきた、何が入らないんだ? てかこいつチョコ作ってたの一昨日じゃないだろ、だからさっき変な間があったのか。




