その68
「じゃあまたね〜!」
「デカ女マジでムカつく!!」
「はいはい」
夕方になりみんなが帰る頃……
「玄ちゃん一緒に帰ろうー!」
「悪い美子、姉貴の買い物頼まれてたんだった。 先帰っててくれ」
「え、だったら付き合うよ?」
「大丈夫だ」
俺はそう言って明後日の方向に向かって辺りを見回して遠回りして速水が帰る道に出た。 ダッシュで来たからまだ速水はここを通ってないはずだ。
道路を見ていると速水が角を曲がって歩いてきた。 つーか木村まで居る……
「速水」
「うあッ!! って由比ヶ浜脅かさないでよ。 ていうかなんで?」
「待ち伏せ? やるじゃん由比ヶ浜」
「いやそうじゃなくて。 ええと……」
木村が居ることで少し話し難い。
「あ、アタシ? アタシにはお構いなく〜、由比ヶ浜は琴にお熱だったの知ってるし、ていうか琴ってどんだけモテてんのよ」
「ウチに言ってもしょうがないでしょうが。 こっちはいい迷惑よ」
「…… わかった、あのさ、ここだけの話にしてくれよ?」
「うんうん! 恋バナだね!? アタシは口も硬いし気が効くしドンと来なさい!」
「なんで葎花は張り切ってるのよ?」
この木村のノリ大丈夫だろうか? でもわかってるなら隠してても仕方ない。
「実は遥に告白されて」
「ちょッ! マジで!! 遂に!?」
「いやあんた鼻息荒過ぎ……」
めちゃくちゃ食い付いてきた。
「それはさっき聞いた」
「え〜、琴は聞いてたのかぁ」
「それで遥に返事しようとしたんだ、そしたら遥は俺に他に好きな奴、ていうか俺が速水を好きだから自分は好きって俺に伝えて満足で速水との事応援するって」
「あれれ? 意外な展開…… でもないか遥だもんね、てか速水邪魔者になってるじゃん」
「邪魔者なんて失礼でしょ! ウチは勝手に言い寄られて挙句に巻き込まれてんだから!!」
「あーはいはい、ごめんってば。 そんで琴にリベンジ告白しに来たの?」
「それが…… 」
非常に言い難いが俺の気持ちを速水に話した。
「あ〜ッははははッ、ウケる! 勝手に好きになられて勝手にフラれてやんの琴ったら、ひい、ひい〜ッ」
木村にバカウケされた…… 俺も速水に対して失礼だけどお前超失礼じゃね?
「おい……」
「ひっひっひっ…… お? あ、あぅ…… ご、ごめんなさい琴様仏様」
速水にガン睨みされて前髪をワシャッと掴まれた木村は慌てて謝った。 怖すぎだろその顔……
「それは何より!」
「へ?」
速水はこちらを向いてそう言った。
「美子ったら今まで大分空回りしてたからね、由比ヶ浜も意識したなら少しは変わってくるでしょ? 遥もそれを知った上ならいいわ、ウチのことはスパッと忘れなさいよ。 応援はしてあげるから」
「おおー、何故か琴が男らしい、デカいと器までデカいのか?」
「デカいって言うな!」
速水はそう言ってるがすぐにスパッと忘れるなんて出来ないと思う。 それにまだ応援してくれるなんてやっぱり速水は良い奴だな……
「由比ヶ浜〜、じゃあこれからはしっかり美子と遥と接してあげないとねぇ」
「葎花の言う通りよ、ちゃんと向き合ってあげてよね」
それから何日か経つと美子が再三お出掛けしようとLINEでしつこかったのでちょうどいい、俺は今美子と居るとどんな気持ちになるか確かめてやる。
次の日……
コンビニ行ってくるファッションに身を包み出掛けようとすると。 つーか朝早いんだよ、学校行くような時間じゃないか。
「あー玄、コンビニでも行ってくるの? 私に何か買ってきて〜」
「自分で買いに行けよ俺は忙しいんだ」
早速姉貴に絡まれた。
「あ、もしかしてデートだった? ニヤニヤ」
「ニヤニヤ言ってんじゃねぇよ、もう行くからな!」
待ち合わせの場所に行くともう美子は着いていて待っていたようだ。
「あ! 玄ちゃんここだよー!」
「一眼見てわかるよ」
白いワンピース姿の美子、シンプルだけど元が良いから何着ても似合うよな。 まぁ俺はコンビニ行くスタイルだが……
「ん? どうかした?」
「いや別に」
「うーん、なんか変だよ玄ちゃん」
速水と同じような感覚で美子に会うとそりゃあな…… 今更だけど。
「きょ、今日の美子ってなんかいつもより良く見えるなって思って」
「へ? ………… ええッ!? そ、そうかな? えへへ、いやん」
「なんだ今の間は?」
「だ、だって玄ちゃんそういう事言ってくれるのなかなかないから」
なんか美子凄く上機嫌になったな。 と思っていると……
「よもや私が見ている前でイチャコラするとは」
「あッ!! 美子のお父さん!?」
後ろからスイーッと車が横に来たと思ったら…… なんで居るんだ?
「あれ? お父さんなんでこんなところに? お仕事は?」
「美子が今日家を出て行く時えらくルンルン気分だったからお父さん気になって仕事休む事にしたんだ」
「なんだ、そっかぁ〜」
なんだ、そっかぁ〜じゃねぇだろ! おかしいよな!? 美子のお父さんも大分おかしいけど。
「これから2人でどこか行くのかい?」
「うん! どこ行くかは決めてないけど」
やっば決めてなかったか。
「ちょうどいい、お父さん暇だからドライブがてら行きたいとこに乗せてってあげるよ」
「ほんと? やったね玄ちゃん!」
「そ、そうだな……」
お父さんの目が笑ってないから全然嬉しくないんですけど……