その61
「落ち着いたか?」
「ひぐッ、ふぐッ…… お、落ち着いたよぉぉおッ」
「ってまた泣き出してんじゃねぇよ、すっかり目立っちまっただろ」
「ごめん、お腹空いたのも限界でつい」
腹と感情繋がってんのかこいつは。
「人騒がせねぇまったく。 ほんと大食いお化けなんだから」
「だったらなんか食べさせればいいんじゃね? つーか人来た! 行くぞ愛菜」
「わッ! ちょっとダー様ぁーッ!」
人の気配がしたのか佐原は栗田を連れ逃げるようにこの場を去った。
「とりあえず売店行くか」
「グスッ…… うん」
売店に着くと美子は速水と木村に頼まれた物を買いその他に焼きそばパンやメロンパン、おにぎりを買った。 どんだけ買うんだよ?
「相変わらず食うなお前」
「え? だって玄ちゃんにお弁当全部あげるって言ったから」
「俺はそんなに食わねぇよ。 半分くらいでいい」
「ふふふッ、いっぱい食べないと大きくなれないよぉ〜」
「お前よりは大きいし。 ってそれはいいや、何があったんだよ?」
そう言うと美子は「はぁ〜」と息を吐き売店のテーブルに座った。
え? ここで話すの? 長い話ならこれ速水達に持ってった方が良くね?
「昔々あるところに……」
「急に物語調になっちゃったよ」
「伸び伸びと育った女の子がいました」
「お前何視点? てかもう始まってんの?」
美子のなんとも気の抜けた導入から話は始まった。
その子(美子)は小学生を楽しく暮らし友達もいっぱい出来た、そのまま中学へ進むと周りの人達と一緒に少しずつ大人の階段を登っていく。
中学2年の春に美子はとある人気男子に告白された、美子はビックリしたけどそういう事がまだよくわからなくて怖くなって断ってしまった。
それから少しして調子乗ってるとかちょっと見た目が良いからと美子を気に入らなかった人から陰口を叩かれるようになったけど波風立てたくないので聞こえないフリをしていた。
ある日、美子は親の仕事の都合で転校する事になる、そしてその少し前に美子にラブレターが届いた。
前の断った記憶が過ぎる中、美子は誰だろう? と思ってラブレターを開くと昇降口で返事を待っていると書いてあった、名前も書かれていてそれはひとつ上の先輩のこれまた人気のある男子だった。
転校の事もあったしまだ美子にはそういう誰かとなんて考えてもなかった、後味が悪くなっちゃうけど断ろう、そう思って昇降口に行くと先輩が居た。
噂通りかっこいい、けど美子はその人の事をよく知らない、喋った事もない。
「あの……」
「やあ美子ちゃん手紙読んでくれたんだね」
「は、はい…… それでなんですけど」
「うん?」
「ごめんなさい!」
美子は悪いと思って頭を下げた。
「なにが?」
「え?」
「おーい、お前ら」
先輩が声をあげると知ってる女の子達が出てきた、同じクラスで仲良くしてたはずの杏樹とその友達だった。
「ええと…… これって?」
「誰がお前に告白なんて言った?」
「え?」
「うぷぷッ、恥ずかしー美子ったら。 何を勘違いしてたの? 少し可愛いからって先輩に告白なんかされると思ってた?」
「な、なんで?」
「あんたが調子乗ってるからよ、レイジ君に告白された時だってムカついたしそれをフッて更にムカついた。 あーでも付き合ってもムカついただろうね、何を言いたいかって? あんたが気に食わないってことよ!」
美子はその瞬間頭が真っ白になった。 仲が良いと思っていた杏樹に嫌われていた事、そして騙されてしまった事、転校もするしで何がなんだかわからなかった。
「ご、ごめん、ごめんなさい杏樹ちゃん」
「はあ? 誠意が足りない。 友達に戻りたかったらこの原稿用紙いっぱいに反省文書いて」
目の前に真っ白な原稿用紙を突きつけられ美子はそれを受け取り原稿用紙いっぱいに謝罪文を書いた。
「ふぅん、まぁいいわ。 これからは今後同じ事にならないように慎ましくしてなさいね?」
「はい……」
そうして美子は今の俺の居る学校へ転校してきた。
「そういう事だったのか」
「うん……」
いじめじゃねぇか! それを思い出して美子はああも塞ぎ込んでしまったのか俺にだけ対して…… ん? 俺にだけ対してってやっぱそれって。
「話したらスッキリした」
ふぅと息を吐いて美子は本当にスッキリしたような顔をしていた。
「で? なんで俺だけ避けられてた?」
「…… そ、それは」
キーンコーンカーンコーン……
「あ、ああッ!! お昼時間が! お弁当が…… 琴音と葎花にも怒られる」
「え!? もうそんな時間かよ?」
昼休み終了を告げる鐘が鳴ってしまった、またしてもかよ!!




