その60
その日の昼休み俺が亮介のクラスに行った時……
「へ? え? 琴音、葎花何!?」
「ウチに売店でジュース買ってきて、ミルクティーね」
「アタシは炭酸以外なんでもいいよ!」
「来るやいなやいきなり?? うえーん」
「あ、ほら! 由比ヶ浜も居るから一緒に行って来なよ」
「え? 玄ちゃんと……」
「何々? 由比ヶ浜と美子喧嘩でもしたの?」
「そんなわけじゃ」
「じゃあいいじゃん、一緒に仲良くパシって来れば?」
美子は木村に背中を押され美子は廊下に追い出された。
「………… どうしたんだろ琴音と葎花」
「どうしたんだろうな……」
「「…………」」
「いや早く行けよ」
木村は廊下で黙って立ち止まってる俺と美子を睨み付けて言った。
仕方なく売店に向かうと人気がない階段に差し掛かり声が聴こえてきた。
「いやいいって」
「遠慮しないで、あーん」
「誰かに見られたらどうすんだよ?」
「そしたらオープンじゃん! それが何か都合悪い事でも?」
「そ、そんなのあるわけないな!」
それは佐原と栗田だった。 そもそもこんな場所で秘密の関係を続けている事自体が露骨過ぎるんだが?
「んふふッ…… あ! 大食いお化け! となんだっけ?」
美子に気付いたようだ。 にしても俺はなんだっけ扱い……
「由比ヶ浜じゃねぇか、脅かしやがって」
「お前見つかりたいのか?」
「違うって、愛菜がここがいいって言うから」
「あー何か不満? って近ッ!! 人のお弁当何ジーッと物欲しそうに見てんのよ!? あげないわよ!」
「ふわわッ! 取らないよ〜、美味しそうだなって思ってただけだもん」
「そんな顔させて説得力ないわよ! これはあたしがダー様のために一生懸命作ってきたんだから!」
栗田の指を見れば絆創膏が指にいっぱい貼ってあった。 ベタだと言えばベタだけどここまでされたんならもう栗田でいいんじゃないか?
と、そんな事を佐原に思っているとあれ? 誰かとそんな感じの様子がデジャヴする。 そう、俺だ……
友達としては成立するが俺の事はそういう目で見てはいない速水、美子と遥は俺の事が好きかもって。 佐原も速水が好きだが栗田と付き合ってる、ちょっと違うが俺と佐原ってなんか似てないか?
そう思うとなんか親近感湧いて来るな。 いや湧かないか、こいつは栗田と付き合っちゃってるもんな、ここまでしてくれ……
美子も遥も俺のためにいろいろしてくれてたはずだ、クリスマス祝ったり勉強教えてくれたり…… 美子に限って言えば煩わしい時もあったけど。
「それにしてもあんたらなんかギスギスしてない? もっと仲良しな印象だったけど」
「え…… っとこんなもんだよね玄ちゃん」
「い、いや」
「確かにそうだよな、七瀬からの一方的な感じもしたけど。 つーかこいつのどこがいいんだ?」
「あははッ、言えてる言えてる!」
「そッ! そ…… そそ」
何か言おうとした美子だが出だしで止まり謎の言葉になっている。 「その通り!」とか言おうとしたんじゃないよな?
「てかいつまであたしとダー様の邪魔するつもりよ? さっさとあっち行きなさいよ! 見せ物じゃないのよ!! あ、速水に自慢しようかしら」
「愛菜! それはやめといた方がいい、絶対に!!」
「なんでよぉー? 一歩リードしたところ見せつけちゃおうよ」
雲行きが怪しくなってきたので巻き込まれる前に足早にその場から去った。
あ、美子! と思い振り返ると後ろに居た、ちゃんとついてきてくれたんだな。
「はぁー、面白いねあの2人って」
「お前も大分あれだけどな」
「あー! 悪口! 玄ちゃんだって大分…… あッ!!」
しまったという感じに美子は口を手で押さえた。
その反応、油断してると普段のように接してしまうって事だよな? つまり美子は無理して俺から避けてる。 という自己解釈なのですが合っているでしょうか? と自分の脳内に問い掛けるけどこれじゃ話が進まないな。
「なあ美子」
「げ、玄ちゃん、さっさと売店に行って琴音と葎花の分買って来なきゃ怒られちゃうよ」
「そんなのいい、なんだったら一緒に怒られてやる」
「そ、そんな……」
たじろぐ美子にまた一歩詰め寄った。
「俺さ、お前に何したかよくわかんないけど心配してるんだ、いつまで俺を避ける気なんだ?」
「さ、避けてなんか…… ハッ! さ、避けてるよ!! もぉーずっと避けてるもん!」
「へ?」
急に美子は逆ギレのように避けてるアピールをしてきた。 やっぱりこいつよくわからん。 が、ここまで来たら諦めないぞ。
「だからわかった!? 避けてるって事は玄ちゃんの事大っ嫌い!! お友達でもなんでもない! 普段私が仲良くしようって思ってるとはぐらかすしスルーするしなんでこんな時は心配してくれるの?! いつもみたいにしてればいいじゃん!! 私の、私のッ!! うぐぐぐッ……」
「おい……」
「うええーん、ごめんなさーい!」
「は?」
途中で美子は泣いてしまった、ますますわかんないんだけど……
「やっぱり玄ちゃんを避けるなんて無理! 悪態つくのも無理! ごめんごめんね玄ちゃん嫌いにならないで私のお弁当全部食べていいから、うわぁぁぁあんッ」
………… 俺が特に何したわけでもなく美子は泣いて謝ってしまった。
「ちょっとうっさいわね! さっきまでケラケラしてたと思ったら」
「お前何七瀬泣かしてんだ?」
「俺が聞きてぇよ……」
美子の声を聞き付けた佐原達も来てしまった。




