その58
「ふあああッ……」
杏樹って奴が戻って行くと遥は気の抜けた声で項垂れた。
「大丈夫か遥?」
「わ、私あんな事言っちゃった……」
「俺もビックリだったわ」
「ご、ごめんッ」
「謝る必要ないって。 ビックリだったけど凄いなって思ったし」
てか美子の方は大丈夫なんだろうか? なんかいろいろ言われてたけど。
しばらく美子は杏樹とその友達が行くのを見ていた。 それを見送るとクルリとこちらに向き直るが肩が沈んで顔も下に向けていた。
「美子?」
「み、美子ちゃんごめんなさい、出過ぎた真似だったかもしれないけど私……」
「ううん!」
「ひゃッ!」
「遥ちゃーんッ!!」
美子は遥に力強く抱擁する。 遥が男だったら美子は遥と付き合ってたかもしれないと思うくらいよくくっつくよな。
「ありがとう」
「え?! 私美子ちゃんの知り合いにあんな事言っちゃって…… 余計な事してないかなって」
「嬉しかったよ。 私こそごめんなさい、せっかく楽しくいこうと思ってたのに気の利いた事言えなくて」
「そんな……」
「お前が気の利いた事言いえた事なんてあったか? いつも変なタイミングで変な事言ってるくせに」
「むぅーッ、酷いよ玄ちゃん! …… でもありがとう」
なんとなく場のしんみりした雰囲気を和ませようと軽口を叩いたのだが美子にわかられてしまった。
「じゃあ行こっか? ほら2人とも!」
まぁ元気になったみたいだ。 だけどその日の美子の食べる量は少なかった、あんなに食べる気満々だったのに。
さっきの前の学校の連中が影響しているんだろうとは思ったけど深く首を突っ込む気にはなれなかった。 とっとと帰るつもりだったのだが最寄りの駅に着いたのはもう夜だ。
「今日は楽しかったよ玄ちゃん遥ちゃん」
「うん、私も」
「けどいつもいきなりはよせよな?」
「あはは、すっかり遅くなっちゃったよね、ごめんなさい」
まぁよくわかんないけどバカ食いはなりを潜めていたけど元気になったんだと思ってその日は帰った。
遊んだ後の美子は今度どこ行こう? とか今度これしたいとか夜にメッセージが来て(普段もちょくちょく来るが)これがなかなか疲れていて返すの煩わしかったんだけどその日は来なかった。
まぁそんな時もあるわな、と思っていたがそれ以降やり取りが減っていった。 減ったといえば学校での美子との関わりも減ってったような気がする。
「おい美子」
「うえッ!? ごめん、あとで!」
「そうか……」
これだ。 遥とは相変わらず仲良いが遥もそんな美子に少し戸惑った様子だ。
「美子ちゃんどうしたんだろ……」
「まあ美子の中で何かあったんだろうな」
「モール行った後辺りからだよね? 美子ちゃんが玄君の事少し避けてるような感じになってるの」
「そうだな、でも少しすればいつも通りに戻るんじゃないか? 美子だし」
「そう…… かな?」
そうしているうちに期末テスト目前、今回は勉強会とかないのかな? と思っていると遥から声を掛けられた。
「玄君…… しよっか?」
「宮野それエロ過ぎ」
「へ? え!? 何が??」
英二が興奮気味に割り込んできた。 俺も一瞬遥の言う事に「は!?」となったがすぐに勉強だと察したがこいつは……
「ワンモアプリーズ」
「え、ええと…… しよっか??」
「いいわ、それいい」
「ど、どういう事?」
意味がわからずにポカンとしている遥に英二は意味を教えようとしていたが教えたら後が目に見えてるので英二を制止する。
「おい〜玄」
「遥に何教えようとしてんだアホ」
「玄君なんだったの?」
「い、いや知らない方がいい、ていうかテスト勉強するんだろ?」
「あ、うん。 玄君が良かったらなんだけど」
「うん、テスト勉強そんなにしてなかったから丁度いいや。 そうなると美子達もやるのか?」
「あ…… ううん。 美子ちゃんは速水さん達と今日は帰るって」
そうなのか、美子の奴まだ避けてんのか、まぁそれより今は目の前のテストだな。
「じゃあ頼むわ遥。 英二も来るか? それと亮介と明も来るかな?」
「チッチッチ、それじゃあ俺空気読めない奴みたいじゃないか」
「え? 違うの?」
「違うわいッ! 亮介達は任せろ、お前は宮野と勉強すれば良い」
「え!? わ、私は別に大丈夫だけど?」
「いいってことよ!」
「何がだよ? まぁいいや、てことだけどいいか? 遥」
「うん」
その後遥と図書室で勉強しているといつもなんなくスラスラ教えてくれる遥が何度か止まる。
「どうした? 珍しいな」
「…… ごめんなさい、考え事してて」
「考え事? …… 美子の事か?」
「うん、どうしたんだろう? って思って。 玄君にだけおかしい、あの時から。 やっぱり何かあるんだよ」
「まぁなんかあるんだろうけど」
あまり深入りし過ぎてもな…… けど面倒に感じていたいつもの美子とのメッセージのやり取りとかいざ少なくなっていくと少し物足りない、そんな感じはあった。
でも美子から俺を避けてる以上俺が余計な介入をするってなんか逆効果なようなそんな気もしたが……
「私……」
「うん?」
「なんだか嫌だな…… 美子ちゃんと玄ちゃんが居たから私もこうしてお友達も出来たのに」
その日は遥と勉強していたのにあまり捗らなかった。 そしてその日の帰り、学校のトイレに寄ってから帰ろうとすると……
「美子なんでここに? 帰ったんじゃないのか?」
「わ、忘れ物…… 教科書全般」
「そりゃ派手に忘れたな」
「う、うん、それじゃッ」
「待てよ、遥心配してたぞ?」
「そうだよね遥ちゃんだけだよね…… 」
「は?」
別に何気ない会話だったのに美子はしゅんとしてしまう。 ええと、なんかないか……
「あ、そーだ、お前がミスコンで1番になった時って何しようと思ってたんだ?」
「…… それ」
「ん?」
「なかった事にして? ごめんね、私から言ったのに。 じゃあッ!」
美子は笑ってそう言うと教室とは全く違う方向へ走って行ってしまった。
え? そっち行くって事は教科書じゃねぇじゃん……




