その53
「お、お前ら! 何やってるんだ!?」
先生がその様子を見て俺と速水に問い詰める。
「違うんですこれは! じ、事故です」
「事故だぁ? 何がどうなってそんな状態になる!?」
「と、扉から急に音がしたからウチがビックリして! 事故です!!」
速水が補完した。 これで誤魔化せるのか? 美子を見ればまだ唖然としている、聴こえてないのか?
「なんだ、そういう事か」
あっさり先生には通じた、話が早くて助かるこの先生。
「そういう事だから美子!」
「ソウイウコトッテドウイウコト?」
棒読み…… ダメだ、こっちは話が通じてない、いつもはあれ? って思うくらい斜め下に受け取る事があるってのに! いやいや、というかまさにこれが通常運転か?
「誤解よ美子!」
「ゴカイッテナニガゴカイ? ソモソモゴカイッテナニ?」
ダメだこいつ…… 早くなんとかしないと。 ってなんで美子がここに居るんだよ!?
「先生他にも見るとこあるから後は大丈夫だな?」
「え? あ、はぁ」
隣に大丈夫じゃないのが居るけど……
先生は再び鍵を閉めると「真っ直ぐ家に帰れよ」と言って行ってしまった。 いやもっとここはクッション的な存在になってくれよ!
そして放心状態になった美子とテンパる速水と俺が取り残される。
「ねぇ…… み、美子?」
「…………」
速水の呼び掛けに俯く美子、いつもは的外れな事ばっかり言って明るく振る舞っているのに今は黙ったままだ。
「由比ヶ浜!」
「お、おう!」
速水は少し美子から離れて俺に耳打ちする。
「なんとかしなさいよ! ウチが何言ってもダメみたいだし」
「速水でダメなら俺が何しても同じじゃないか?」
「んなわけないでしょ!? ほら早く、美子は今視界シャットアウトになってるみたいだから大丈夫だろうけどハッとして気付いたら今こうしてコソコソウチらが話してるとこ見たらまた拗らせるじゃないの!」
「そんな無茶な…… じゃあどうすりゃ良いんだよ?」
「……… 抱きしめなさい」
「はあ!?」
「しーッ! 静かに!! 抱きしめてありがとう美子助かった! みたいな事すれば復活するはずよ、誤解はその後解けばいいわ」
そもそも何が何を以って誤解なんだろうか……
「はぁ、わかったよ」
「お願いね由比ヶ浜」
それにしてもなんだこの状況。 好きな速水の前で美子に抱きつかなければならないとは…… でもその速水のお願いだし。
「美子」
「………… ア、ゲンチャン」
重い…… 美子の周りの空気が重い。 本当に大丈夫なんだろうか? 俺は意を決して美子を抱きしめた。
「ッ!!?」
「ありがとう美子…… 美子が先生呼んでくれたんだよな? そのお陰で俺と速水体育館から出る事出来た」
チラッと速水を見ればグッと親指を立ててサムズアップ…… ちくしょーー!
「………… 玄ちゃん…… 玄ちゃん!? あれ? あれッ??」
美子はようやく現実? に戻って来たのかいつもの声色に戻った。
「え?! 何これ? 玄ちゃんが私を抱きしめて…… え? どういう状況?」
それはこっちが聞きたいよ!
「そうだ…… 琴音が玄ちゃんを押し倒してて」
美子はそう呟くと俺から強引に離れて速水に向き直った。
「琴音!」
「ようやく目が覚めた? あんた正気失うから大変だったのよ。 ウチが由比ヶ浜に覆い被さってたのは体育館の扉がいきなり開いてビックリしたからよ、ウチそういうの苦手だって美子知ってるでしょ?」
そうだったのか? 俺は初耳だ。
「そういえば…… じゃあなんでもなかったって事? 事故?」
「何回もそう言ってたのに」
「そっかぁー! そっかそっか! …… あれ? だったらなんで玄ちゃんは私にハグして?」
美子がこっちに振り返る…… それはお前を正気に戻すためだろ!!
そうとは知らずか美子はニパッと微笑んだ。
「あはッ、玄ちゃーん! あうッ!」
美子らこちらに向かって来たがこれ以上速水の前で何かしたくないので美子の頭を手で抑えて制止する。
「あ、あれ!?」
「はぁ……」
速水は深く溜め息を吐いた。




