その48
「さて、そろそろ決めた?」
速水と栗田の言い争いが落ち着くと出雲先輩は再度美子達に確認した。
「あたしはもう入部決定で。 そっちの負け犬はどうするの?」
「負け犬ですって? ホビット族みたいなあんたに言われたくないわ」
「誰がホビット族よ!?」
「まーた始まったよ……」
「玄ちゃん遥ちゃん、これ食べる?」
「わ、私とても食べる気には……」
「お前マイペースだな……」
そんな中部長の出雲先輩が俺と亮介のところへ来た。
「良かったらあなた達も入らない?」
「へ?」
「お、俺らが?」
「そうよ実を言うとね、南君と新井君も3年生じゃない? だから今年だけしか居れなくて男手が居なくなっちゃうの、2年には居ないし。 だから入ってくれれば凄く助かっちゃう!」
満面の笑みでそう言われても…… 美人に囲まれるのはいいんだろうけど速水も乗り気じゃないようだし。
「玄、ここ良いかもしれない」
「は?」
亮介が顔を赤くして俺にそう言ってきた。 あれか? さっきの出雲先輩の笑顔にやられたのか? お前チョロ過ぎるだろう!
「玄、美人な先輩達に関われてこんなに良い事ないぞ!?」
「お前それだけでよく考えないで言ってるだろ? 大体美子とか遥、速水だって入るかもわかんないのに」
その時バン!! という壁を叩く音が聴こえた、それは速水だった。
「いいわよ!! ウチにそこまで喧嘩売るなら後悔させてやろうじゃない!」
「上等!」
え? え? 速水も入るの? ………… そうだった、速水は今でこそクールだけど意外と喧嘩っ早いところがあるんだった。
「え!? 琴音ここにするの?」
「不本意だけどこのチビにはキッチリと白黒つけてやった方がいいのよ、目が合うたびにウザかったから」
「へぇー? 言うじゃないの、それはこっちのセリフよ!」
「なんですって!? …… てことだから美子達は好きな部活に入りなよ?」
「ええ…… うーん、どうしよう玄ちゃん? 玄ちゃん??」
速水がミスコン部に入る…… クラスは同じになれなかったが同じ部活という名目があればなんとかなるんじゃないか?
何がなんとかなるんじゃないのか? というのはもう都合が良すぎるが俺は速水とここでもっと関われるんじゃないかと考えていた。
「俺もここにしようかな……」
「ッ!!! …………」
「お! 玄も決めてくれたか!」
「え!? 玄君も?」
「あらま、これはひょっとして……」
俺がそう言うと速水は俺を見てハッとした顔になった。
「や、やっぱウチはやめとこうかな……」
「やっぱり自信ないんだぁー? 負け犬、クソデカ女ぁ〜、ウドの大木」
「な、なんですって!! このゴキブリ触覚ドチビ!」
「ゴ、ゴキブリ触覚!? このー!!」
「あーダメ! ウチはこいつだけは叩きのめすわ!」
「ええと……入部って事でいいのかしら?」
「「はい!」」
一瞬迷ったみたいだけどそれ以上に栗田にムカついてるみたいだ……
「あなた達も?」
そう聞かれ俺と亮介も頷いた。
「げ、玄君……」
「ごめんな遥、なんか勝手に決めちゃって、俺らの事気にしなくていいからお前は好きなの選べよ?」
「…… 言った」
「え?」
「玄君の事応援するって言った。 だから私も一緒にここに入る!」
あの遥が?? ミスコンに? 嘘だろ?
「いやでも……」
「決めた。 ここにする」
遥は真っ直ぐに俺の目を見て言った。 遥にしては目で強く「いいよね?」と訴えているようで俺はそれ以上は何も言わなかった。
「わお、1番の穴場の遥まで入るなんてアタシもびっくり」
「葎花が誘っておいてそれはないでしょうが」
するといきなり壁をバン!! と叩く音が聴こえそっちの方を向くと痛そうに手を押さえている美子の姿があった。
美子が叩いたのか? にしても痛がってるって台無しじゃねぇか……
「私も決めた! ここに入部する!! いいよね!?」
「み、美子?」
「はーん、大食いお化けも入るのね、相手にとって不足なしだわ」
けれど美子は速水に向かって言っているような気がしたのは気のせいだろうか?
なんて美子や遥が俺の事を好きかもって事を聞かされていたのにこの時はそんな風に考えていた。 いや、速水の事があるから考えないようにしていたのか。
「あ、さっき注意するの忘れてたけど壁は叩かないでね? お隣の文芸部がビックリしちゃうから」
「あわわわわッ…… ごめんなさい、ごめんなさい!」
締まらない……




